ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From London <ロンドン>: 最新の記事

From London <ロンドン>: 月別アーカイブ

守屋光嗣 text by Koji Moriya 
[2005.10.10]

●解体されるダンス-The Forsythe Company

2005年1月に始動したウィリアム・フォーサイスのカンパニーが、今年のダンス・アンブレラの開幕を飾った。
設立から間もないからであろう新作は間に合わなかったようで、上演された四つの演目は、いずれも「バレエ・フランクフルト」時代に創作されたものばかりだった。 順に『ザ・ルーム・アズ・イト・ワズ(The Room as it Was)』(2002年初演)、『N.N.N.N.』(2002年初演)、『オブ・エニィ・イフ・アンド(Of Any If And)』(1995年初演)、 そして『ワン・フラット・シング、リプロデュースド(One Flat Thing, reproduced)』(2000年初演)。音楽はすべてトム・ウィレムス。

『イン・ザ・ミドル、サムワット・エレヴェイティッド』のような舞台を期待していた気分は、最初の『ザ・ルーム・アズ・イト・ワズ』が始まってすぐに戸惑いに変わってしまった。 男女7人のダンサーが、ソロ、デュオ、またはトリオで踊るシーンが連続し、時折ふいに舞台の片隅で始まるポワントワークや、踊り終わったダンサーが、何事もなかったように舞台袖に消えていくのは、 『イン・ザ・ミドル‥‥』のようだった。が、ウィレムスのクレジットがある割りに最後の数十秒しか音楽はなく、聞こえるのはダンサーが意図的に発する呼吸音だけ。 振付も、他のバレエ・カンパニーが好んで取り上げる演目とは明らかに傾向が違って見えた。

続く『N.N.N.N.』は4人の男性ダンサーのみ。これもまた、ウィレムスの音楽は、ダンサーにタイミングを知らせるためとしか思えないような、時折微かに信号音が聞こえる程度のものだった。 ダンサーの動き、特に腕の動きが重力を捕らえよう、となりのダンサーとの絆をキープしようとするのに、いつもそれらを失ってしまうような動きは面白かった。 が、この最初の二つ、観た直後は、まるでマーシャル・アーツのように思えてしまった。

三つ目の『オブ・エニィ・イフ・アンド』で漸く「過去」のフォーサイスらしいダンスが始まりほっとした。天井から大きなライティング・システムが上下する。 舞台には、左右に二人、アナウンサーのような男女がなにやら言っているようだが意味不明。 彼らの横にあるスピーカーの後ろから男女二人のダンサーが現れ、ウィレムスの乾いた音楽にのって、腕を、脚をしならせ、身体を反らせ、求め合い、そして互いをはねのけるように踊る。

 


『ワン・フラット・シング、リプロデュースド』
最後の『ワン・フラット・シング、リプロデュースド』は幕が開くと同時に、14人のダンサーが20個の机を舞台前方に移動し並べる所から始まった。 机を叩くダンサー、机のあいだ、上、下を素早く移動するダンサー、そして踊っていないものは舞台後方で佇んでいる。最後は、机を舞台後方に移動させて終わり。 これは、水平方向から観るのと、上から観るのではかなり印象が違ったのではないかと思う。

インターヴァル中、多かれ少なかれ戸惑を感じているとおぼしき他の観客の声を聞いていると、バレエ・フランクフルトとの違いがかなり有るらしい。 規模が違うのは歴然だが、バレエ・フランクフルトのパフォーマンスはもっともっと流れるようだった。この夜のパフォーマンスは、切り刻まれているようだ、と。
こんな印象を耳にして改めて思ったのは、この夜の、特に最初の二つでは、「ダンス」が解体されていたのではないかと。過去から決別するような。 まるで、フォーサイスが自分の振付が「過去」として語られるのを拒否しているよう。最初のパフォーマンスのタイトルは、「昔そうだった部屋」。 観客の期待の常に先を行くフォーサイスらしい、というべきなのかもしれない。
(サドラーズ・ウェルズ劇場、9月21日)