近藤良平が19年ぶりにNoism1に新作を提供、金森穣の新作とNoismレパートリーのトリプルビル「円環」についての記者発表が行われた

ワールドレポート/その他

香月 圭 text by Kei Kazuki

Noism Company Niigataが「円環」と題した2024冬・新作公演についての記者発表を、11月13日りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館で行った。金森穣によるNoism0新作『Suspended Garden-宙吊りの庭』とゲスト振付家、近藤良平によるNoism1新作『にんげんしかく』、そしてレパートリー作品『過ぎゆく時の中で』のトリプルビルが、12月の新潟に続いて福岡で、翌年2月に滋賀と埼玉で巡演される。井関佐和子(Noism Company Niigata 国際活動部門芸術監督)と金森穣(Noism Company Niigata 芸術総監督)、そして近藤良平が出席した。

_G7A2300.jpg

井関佐和子

冒頭、井関から「Noismの20周年イヤーは続いており、ゲストをお呼びして、この記念となる年にふさわしいプログラムにしたいと思いました。近藤良平さんには2005年にNoismに振付けていただいて以来、約20年ぶりに今回戻ってきていただいたことも「円環」という意味を持ちます」。「良平さんに振付けていただきたいと思った理由は、Noism1メンバーのことを考えてのことでした。私自身も今のメンバーも小さい頃から踊ってきて、実は普通の人とは違うことをしているという認識があまりないまま、ここまで来てしまい「自分は何を感じているのだろう」ということに向き合う時間があまりなかった、という自覚がありました。良平さんだったら、そういった時間を皆に与えてくれるのではないかと思いました」との説明があった。
金森穣の演出振付によるNoism0新作『Suspended Garden-宙吊りの庭』では「今回ゲスト舞踊家として元メンバーの宮河愛一郎と中川賢を呼びます。今回は2人をぜひ使って作品を作ってほしいということを金森にお願いしました。宮河と中川、山田勇気(Noism0)と私は皆40代に入りました。今までの私たちの人生を舞台でも見せてこそ、若手の育成ができると考えているので、日本の舞踊界の40代以上の方たちがこれからもますます活動的になっていければと思います」と抱負を語った。
Noismのレパートリー『過ぎゆく時の中で』は「〈SalaD音楽祭2021〉で初演された作品の再演となります。私自身は出演せず、穣さんとNoism1メンバーが踊るという作品になっています」。

_G7A2318.jpg

近藤良平

続いて、近藤良平が新作『にんげんしかく』について「個人的に今、段ボールにはまっています。いろんな物を入れたり運んでみたり、場合によっては緊急避難時の部屋の区画になったりする段ボールに親しみが湧いています。『にんげんしかく』というタイトルからは「人間史、書く」とも読めるし、人間が四角いフレームの中にいるような感覚もあります。「見える、見えない」という意味での「視覚」など、ことば遊びも含めて作品を作っています」と話した。
新作を振付けるNoism1のメンバーについて近藤は「困ったくらいやる気のある人たちです(笑)。体に対して真面目に取り組む作業を日々行っている。僕が知っている以上に皆やっています。Noism1のメンバーには、自分磨きというより、作品の中に溶け込んでもらう感じで、僕自身もプロフェッショナルダンスの世界の中で作品を見出してくれる彼らからたくさん刺激をもらいながら、時間をかけてクリエーションしています」とコメント。
さらに「少し不思議な作品になると思います。段ボールを使って人の姿が見えないこともあるだろうし、段ボールを何かに見立てていろいろなものになるので、舞台には段ボールの風景がある。Noism1の皆さんが怪我しないようにダンボールと格闘していただければいい作品になると思います」と付け加えた。

_G7A2360.jpg

金森穣

続いて、2021年に創作された『過ぎゆく時の中で』は金森が「コロナがようやく少し明け始めたときに、外国籍のメンバーはいっせいに母国へ帰りました。そのときにいかに集団で切磋琢磨していても、自分の人生を揺るがすようなことが起こったときには、やはり個人を選ぶのが人間の性(さが)だ、という現実を如実に突きつけられたわけです。集団性というものがいかに幻想であるかということを理解した上でなお、互いを信じることや、互いに手を繋いで明日を見ることなど、集団で活動することの意義や尊さみたいなものを舞台芸術として表現したい、そういう思いからこの作品は生まれています」と語った。
『過ぎゆく時の中で』再演に関して、金森は次のように抱負を述べた「Noism1メンバーと私がここまで踊るのは初めてではないかと思います。ごく近い距離で彼らの目を見て、手を握って一緒に踊るっていうことはなかったことなので、私自身すごく楽しんでいます。今月で50歳になりますが、若い舞踊家たちと空間を共有して一緒にパフォーマンスすることで届けられるものがあるだろうと期待しています」。

「井関、山田、宮河、中川と、この4人ほど私を知る舞踊家はこの世界にいない」と金森に言わしめる新作『Suspended Garden-宙吊りの庭』では、舞踊家たちと稽古場に入ってわずか8日間で作品が出来上がったという。金森は「旧知の舞踊家とだからこそ、私が信じる体の使い方や芸術性といった前段階を飛ばして、その瞬間に生まれるものに互いに向き合い、それだけ早く作品が出来たのだろうと、ある種の感動を覚えました。クリエーションはこういうことだな、とも思いましたね。有意義な時間を現場で過ごしています」と話す。
「宙吊りの庭」は劇場のメタファーだと語る金森。「劇場と呼ばれる場所がいわゆる社会の日常的な出来事とは隔絶された、近藤良平的に言えば、ダンボールの中ということです。その四角の中で、外界から閉ざされているように見え、外からは中が見えず、守られているからこそ生み出すことができるものがあり、日常的なものとは少し違うスパンで時間が流れている。この宙吊りにされたような庭に舞踊家たちが再び集い、そして別れていく、という作品になると思います。」

質疑応答では、井関に対して、かつてのNoismメンバー、宮河と中川と久々に共演した感想を聞かれた「触れるという行為はすごく繊細なもので、触れたときにどう感じるか、怖かったですね。けれども、相手に触れた瞬間、20代の頃と同じように感じました。今や皆、白髪やしわが入っていますが、お互いの癖も自分も昔と変わらないものです。年齢を重ねているおかげで、これからどのように深めていくか、その対処方法などについては、互いに歩み寄って解決していきます」。

_G7A2343.jpg

左より金森穣、近藤良平、井関佐和子

近藤は新作の音楽についての質問に「今回は内橋和久さんという、維新派などの音楽を制作された、ベルリン在住の前衛音楽家の方に担当していただきます。今回使われるダクソフォンは指で弾く楽器ですが、恐らくヨーロッパにしかなく、世界的にも希少な楽器で、人間の声のような不思議な音が出ます。箱をモチーフにした今回の作品の世界観に、ダクソフォンの音の印象がマッチしたので、内橋さんの音源を存分に聞いています」と回答した。
さらに「自身にとって舞踊とは何か」と問われ「日常の中で過ごしていることの中に、おどけてみたり、目立ってみたり、あるいは少し儀式的になったりする瞬間がある。そのときに踊りが勝手に生まれると考えています。踊りというのは非常に身近なもので、あまり特別視せずに作品を創り、皆さんとダンスの会話をしているという感じです」。

ユーモラスな作品や市民参加型のプロジェクトなども手がける近藤と、メソッドで統一されたプロフェッショナルなダンサーたちが一体となった表現を模索する金森の舞踊。対照的と思える作風について「入団間もないメンバーから『良平さんとのクリエーションを楽しんでいるが、Noismのダンサーとして壊してはいけない部分というものがあるのかどうか、悩んでいます』と聞かれました。そこで『そのようななものはない』とお答えしました。私達はNoismのメソッドやバレエと称して、基本的な基礎を毎日トレーニングしているので、動き方や芸術性などは身体に組み込まれていますが、頭で考えるNoism的なものは存在しません。「これがNoism的だからやろうかな」というようなことを考えている間は、まだまだかと思います。彼らが良平さんに向き合うときには『もしNoism的なということがあるのだとすれば、全身全霊でぶつかるということ。自分の身を投じてやりきってみたときに、その先がきっと見えるだろうから、そこまでやってほしい。それが、私が感じるNoism的なものだ』と伝えました」(井関)。
「宗教においても、いろんな多様な信仰がこの国にもあったように、舞踊も一概に『これが舞踊だ』とは言えないわけです。多様に存在する舞踊は、お互いに影響し合いながら融合もされていく。ましてや今の時代、ある一つのことを極めつつ、それを手放す胆力を持つことや、その多様な可能性に身をさらすことは非常に難しいことです。Noismとしては、ある意味、金森穣的な作品をやり続けるほうが簡単である。ただ、そこに近藤良平という、一見真逆に見える芸術家を招くという井関の意思こそ、Noismという新潟が抱えている舞踊団のある種のオリジナリティ、社会性があるのではないかと私自身は思います」(金森)。

_G7A2433.jpg

左より金森穣、近藤良平、井関佐和子

Noism Company Niigata 2024 冬・新作公演「円環」

Noism0新作『Suspended Garden-宙吊りの庭』演出振付:金森穣
出演:Noism0=井関佐和子、山田勇気 ゲスト=宮河愛一郎、中川賢
Noism1新作『にんげんしかく』 演出振付:近藤良平
出演:Noism1=三好綾音、中尾洸太、庄島さくら、庄島すみれ、坪田光、樋浦瞳、糸川祐希、 太田菜月、兼述育見、松永樹志(準メンバー)
Noismレパートリー『過ぎゆく時の中で』 演出振付:金森穣
出演:Noism0=金森穣 、Noism1=三好綾音、中尾洸太、庄島さくら、庄島すみれ、坪田光、樋浦瞳、糸川祐希、 太田菜月、兼述育見、松永樹志(準メンバー)

●新潟公演 2024年 12月13日(金)~15日(日) りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館〈劇場〉
●福岡公演 2024年12月22日(日)J:COM北九州芸術劇場〈中劇場〉
●滋賀公演 2025年2月1日(土)16:00 滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール〈中ホール〉
●埼玉公演 2025年2月7日(金)~9日(日)15:00 ※全3回 彩の国さいたま芸術劇場〈大ホール〉

Noismオフィシャルウェブサイト www.noism.jp

記事の文章および具体的内容を無断で使用することを禁じます。

ページの先頭へ戻る