数時間だけ誰か別の人になりきって、舞台の上でその人物の視点からストーリーを語ることを楽しんでいます

ジェームズ・ヘイ(『シンデレラ』義姉役)インタビュー

香月 圭 text by Kei Kazuki

ロイヤル・オペラ・ハウスで繰り広げられる、世界最高峰の舞台を映画館で現地さながらに体感できる「英国ロイヤル・バレエ&オペラ in シネマ」。2025/26シーズンの2/13(金)~2/19(木) TOHOシネマズ 日本橋 ほかにて一週間限定公開されるのは、金子扶生&ウィリアム・ブレイスウェル主演『シンデレラ』だ(2024/25シーズンの再上映)。2022年、初演75周年を記念して英国ロイヤル・バレエではおよそ10年ぶりに再上演された。金子は逆境のなかにあっても健気で前向きなヒロインを好演。日本を代表するプリマとして、光り輝くような魅力を振りまいている。
トム・パイのデザインのもと、一新された舞台装置や衣裳においては花のモチーフが採用され、ファンタジックな世界が繰り広げられる。本編は、2024年12月10日に上演された舞台の映像となる。解説は、英国ロイヤル・バレエでプリンシパル・キャラクター・アーティスト兼シニア・レペティトゥールとして36年に渡って活躍し、11月末に惜しまれつつ退団したギャリー・エイヴィス。
今回、インタビューに応じてくれたのは、シンデレラの義姉の1人を演じたファースト・ソリストのジェームズ・ヘイ。愛らしいピンクのドレスに身を包んで、もう1人の義姉役のベネット・ガートサイドと息の合ったコミカルな演技を披露している。1月に上映された『リーズの結婚』では、リーズの母親シモーヌ役に扮し、2月20日(金)~2月26日(木)に上映される『くるみ割り人形』では、ドロッセルマイヤーを演じるなど、名脇役として進境著しいヘイに、役作りについて伺った。

――シンデレラの義姉を演じるにあたって、どのように役作りを考えていったのか、教えてください。

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ヘイ:今回は新プロダクションということで、この役に時代に合った新しい解釈をしてみようと考えました。それで、インスタグラムのインフルエンサーに影響されているというアイディアを思いついたのです。彼女は、SNSの画面に映し出されるものを見て「ああ、私もこんな風になりたい。こう振る舞うべきだ。こうするべきだ」と思って、それを真似するタイプの人物だと感じました。外面では幸せそうで充実しているように見せていますが、内心はまったく幸せではありません。彼女の内面について、僕はこのように考えました。

――シンデレラの自宅では、ジェームズさんはピンクのフリルたっぷりのガウンを、そしてパーティでは、帽子やドレスに蘭の花が散りばめられた鮮やかなドレスをお召しでした。これらの衣裳を着て踊った感想を教えてください。

ヘイ:最初に衣裳を見たとき、その美しさに驚きました。特に、第2幕での妹のドレスには蘭の花があしらわれ、繊細にデザインされていて、まるで花に包まれているような感覚がありました。そのように感じた気持ちは、役作りの上で好都合でした。ドレスを着てパフォーマンスをするのは初めての経験で、衣裳を着て動き、どのように裾が揺れるのかを調整しながら模索していくのは、最初は少し難しいと感じました。でも衣裳を着ることで、自分が美しく幻想的な存在であると感じることができたのは、役作りの上で大きな助けになりました。とても美しい衣裳を着ることができて、本当に素晴らしい経験だったと思います。第3幕では、ドレスについた花が枯れてしまっていて、その様子がキャラクターの心情を代弁しているかのようです。

――姉役のベネット・ガートサイドさんと息の合ったコンビぶりを見せています。ベネットさんはどんなダンサーですか。彼と共演した感想を教えてください。

ヘイ:同僚のベネットとは、18年に渡る付き合いがあり、仕事だけでなく、プライベートでも親しい友人でもあります。そのため、姉妹の関係性を育てていくことにおいても大いに役立ったと思います。お互いのアイディアを出し合って、スタジオでそれらを試しましたが、信頼し合っているからこそ、彼ならクレイジーすぎない範囲にとどまり、何が起こっても対応してくれると思えたのです。僕が考えたアイディアもうまくいくだろうと思っていました。その結果、遊び心をもって舞台で演じることができました。僕たちは似たようなユーモアのセンスを持っていて、スタジオでも舞台でも、そして実生活でもよく冗談を言い合っています。そういった関係性が舞台の上でもリアリティを生んだのだと思います。

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『シンデレラ』ジェームズ・ヘイ、ハリス・ベル
©2024 ROH. Photographed by Andrej Uspenski

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『シンデレラ』左より、ジェームズ・ヘイ、トーマス・ホワイトヘッド、ベネット・ガートサイド、金子扶生
©2024 ROH. Photographed by Andrej Uspenski

――ジェームズさんが演じた妹は、ベネットさん演じる意地悪な姉に負けていないですね。観客のなかには、妹のほうを応援したくなる人もけっこういるのではないかと思います。「愛される妹」像を意識していましたか。

ヘイ:2人のパワーバランスがすごく絶妙だと思いました。彼女たちは一緒だからこそ、うまくいくということもあるのです。確かに、観客が妹の方により同情的になるかな、とは思います。彼女はシャイで、少し自信がないところがあって、理解されない部分もあると思うのですが、自分がいじめられているという風には感じていないと思います。本来の自分ではない者になろうとしているキャラクターなのではないか、と考えています。

――ジェームズさんにはお姉さんがいらっしゃるということですが、実生活での経験も役づくりに活かされましたか。

ヘイ:いえ、それは全くなかったです(笑)。2歳年上の姉とはすごく仲良しで、ユーモアのセンスもすごく似ていて、よく笑い合ったりしています。自分自身の姉弟関係とは全く異なる姉妹関係を作品の中で探求することができて、とても楽しかったです。

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『シンデレラ』ジェームズ・ヘイ
©2024 ROH. Photographed by Andrej Uspenski

――ジェームズさんが演じた妹役は、1948年の初演でフレデリック・アシュトン自身が演じており、そのときの映像も今回の映画のなかで見られますが、古風な貴婦人のように見えました。ジェームズさんはもっと現代的に演じていますね。

ヘイ:はい。アシュトンと全く同じことをやっても、今のお客様は当時と同じように受け止めることはしないだろうと想像し、それではうまくいかないと思ったので、自分自身の解釈でやりました。自分の目で物事を見て、自分なりに物語の文脈を読み解いて、あのような役作りをしました。この作品は、アシュトンが作った最も美しいバレエの一つで、彼が創造したキャラクターたちはとても素晴らしく、緻密に考えられていると思います。僕は自分の考えをたくさん盛り込んで、自分が創り出すキャラクターに魂を注ぎます。たった数時間の舞台用に想像するだけの存在ではなく、まるで現実の世界で生きている人々のように感じていただければ、最高です。

――今回の衣裳は脚がスカートに隠れているのですが、アシュトンらしい細かいスピーディーなフットワークが見え隠れしていました。リハーサルでも長いスカートを履きながら練習されていましたが、実は大変難しい踊りですね。

ヘイ:難しいというより、いつも踊っているタイプとちょっと違うということですね。アシュトンの振付というのは、音楽性に優れていて、悩まずとも音楽が踊りを導いてくれます。その上で、キャラクターが何を感じているかが、振付の中に込められているので、踊っていて本当に楽しいです。

――8歳のときからロイヤル・バレエ・スクールで学ばれ、9歳のときには『オンディーヌ』に出演されるなど、数々のアシュトン作品に出演されてきました。彼の作品の魅力を教えてください。

ヘイ:アシュトンの作品で一番好きなところは、音楽性の素晴らしさとシンプルなところです。人間の感情の軽やかさのようなものは、彼の物語の語り口に表れていると思います。しかし何よりも、構成が素晴らしいです。アシュトンのバレエを観ていると、退屈することは決してありません。常に誰かが動き、何かが起こっていて、それらがすべて完璧に機能しています。音楽をダンスで表現し、ダンスを通して音楽を解釈するのはアシュトンの素晴らしい才能です。彼の特徴的なスタイルは僕も大好きで、イギリスのバレエ文化に深く根付いています。アシュトンの作品を踊ることは、ダンサーにとって喜ばしいことです。それは非常に大きな挑戦ともなり得ます。『シンフォニック・ヴァリエーションズ』は1946年に作られた、とても短い作品ですが、表面的には美しく、自然に見せなければならないという点で、私が経験したなかでは最も難しい作品の一つです。

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『シンデレラ』左より、ジェームズ・ヘイ、ベネット・ガートサイド
©2024 ROH. Photographed by Andrej Uspenski

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『シンデレラ』右、ジェームズ・ヘイ
©2024 ROH. Photographed by Andrej Uspenski

――日本では『リーズの結婚』の上映期間が好評により延長され、ジェームズさんが踊られたシモーヌ役も反響を呼びました。『シンデレラ』の義姉、『リーズの結婚』のシモーヌ、『くるみ割り人形』のドロッセルマイヤーなど、新境地を拓き、演技力が必要とされる役を演じる機会が増えてきました。こうしたキャラクターを演じる醍醐味はどんなところでしょうか。

ヘイ:自分が演じる役のイメージを膨らませ、新しい人物像を創り出し、衣裳を身につけ、数時間だけ誰か別の人になりきって、舞台の上でその人物の視点からストーリーを語ることを楽しんでいます。そして、その人物について、以前は理解していなかったことを新たに発見するのです。舞台上で、他の人物との関係を築き、その世界に生きていると感じています。演じることは、ダンサーという仕事の中で一番好きなことかもしれません。3作品それぞれの3人のキャラクターを演じることは本当に素晴らしいことで、それができる仕事に就けているのは、とても幸せだと思います。

――7月に英国ロイヤル・バレエ団が来日して、『リーズの結婚』と『ジゼル』を上演します。

ヘイ:はい。それぞれのバレエで6回の公演があると思いますが、日本でも未亡人シモーヌ、ヒラリオンとして出演できることを願っています。

――『シンデレラ』をはじめ、ジェームズさんの出演を楽しみにしているお客様へメッセージをお願いします。

ヘイ:日本は大好きな国で、第二の故郷のように思っています。今回の来日で8回目になると思います。日本のお客様のために踊る機会が訪れることを心から楽しみにしています。

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『シンデレラ』ジェームズ・ヘイ、ベネット・ガートサイド
©2024 ROH. Photographed by Andrej Uspenski

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『シンデレラ』左より、ジェームズ・ヘイ、ウィリアム・ブレイスウェル、ベネット・ガートサイド、金子扶生

ジェームズ・ヘイ James Hay
イギリス、バークシャー出身。地元でバレエを始め、8歳のときにロイヤル・バレエ・スクールのジュニア・アソシエイトに参加、そのまま卒業まで同校に在籍。在学中、2006年にヤング・ブリティッシュ・ダンサー・オブ・ザ・イヤー賞、2007年にはリン・シーモア表現ダンス賞を受賞し、同年にはローザンヌ国際バレエコンクールでも入賞した。卒業時には、最優秀卒業生としてデイム・ニネット・ド・ヴァロワ賞を受賞。
ロイヤル・バレエ・スクール卒業後(2008年)、英国ロイヤル・バレエ団に入団。2011年ファースト・アーティスト、2012年ソリストに昇進。同年、フランチェスカ・ヘイワードとペアを組んで参加したエリック・ブルーン賞で観客賞を受賞。2015年ファースト・ソリストへ昇進。

「英国ロイヤル・バレエ&オペラ in シネマ」2025/26
ロイヤル・バレエ『シンデレラ』(2024/25シーズンの再上映)

【振付】フレデリック・アシュトン
【音楽】セルゲイ・プロコフィエフ
【指揮】ジョナサン・ロー
【舞台装置デザイン】トム・パイ
【衣裳デザイン】アレクサンドラ・バーン
【特別解説】ギャリー・エイヴィス
〈キャスト〉
【シンデレラ】 金子扶生
【王子】ウィリアム・ブレイスウェル
【シンデレラの義理の姉妹】ベネット・ガートサイド、ジェームズ・ヘイ
【シンデレラの父】トーマス・ホワイトヘッド
【仙女】マヤラ・マグリ
ロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団
公式サイト:http://tohotowa.co.jp/roh/

2/13(金)~2/19(木) TOHOシネマズ 日本橋 ほか1週間限定公開
(2024年12月10日上演作品 ※再上映 /上映時間:2時間38分)
配給:東宝東和

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