『ネネ -エトワールに憧れて-』ラムジ・ベン・スリマン監督インタビュー「レオノール・ボラックの撮影では、子どもたちは大興奮でした」

ワールドレポート/その他

インタビュー=香月圭

メイン.jpg

© 2023 GAUMONT - FRANCE 2 CINÉMA - GAUMONT ANIMATION

フランス映画『ネネ -エトワールに憧れて-』が11月8日にTOHOシネマズ シャンテほかにて全国公開される。パリ郊外の街で育ち、ダンスの才能に恵まれた黒人の12歳の少女ネネがパリ・オペラ座バレエ学校で奮闘する様が描かれる。同級生からのいじめに屈することなく、前向きに生きるネネの姿は周囲の人々をも変えていく。しかし、彼女の入学に最初から反対していたマリアンヌ校長との衝突などトラブルが次々と起こっていく。このままバレエを続けるか、苦悩するネネ。一方、マリアンヌの隠された秘密も明らかになる―。
主人公のネネ役を、俳優ルイ・ガレルとヴァレリア・ブルーニ・テデスキの養女であるオウミ・ブルーニ・ギャレルが演じ、エネルギッシュなダンスを披露している。スターダンサーだった校長マリアンヌ役には『ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人』で監督・主演を務めた名優マイウェンが熱演する。パリ・オペラ座バレエのエトワール、レオノール・ボラックが本人役で『ライモンダ』第3幕のヴァリエーションを踊るシーンも見どころのひとつ。監督・脚本を務めた、フランス映画界の新鋭ラムジ・ベン・スリマンに話を聞いた。

――パリ・オペラ座バレエ学校が舞台でアフリカ系の少女ネネが主人公という設定はユニークですね。

©-Thomas-Brunot--Unifrance-(2).jpg

ラムジ・ベン・スリマン監督
© Thomas Brunot Unifrance

スリマン監督:バレエ学校は体型・体重に対して入学基準があり、それに達しているかどうかを見ます。体重に至っては、グラム単位で見るような厳しい審査があります。身体条件を満たしていれば、バレエ学校への入学を認められます。人種差別をしているのは学校ではなく、実はバレエ学校の校長マリアンヌなのです。彼女には出自の秘密があり、自分がネネの年代のときには、苦労してバレエの世界になじもうとしてきました。一方、ネネはアフリカ系という特異性をもちながらも苦労していないようにマリアンヌには思え、彼女にとって、それは不平等だと感じられたわけです。ネネよりも、マリアンヌの差別意識がメイン・テーマになっていると思います。

――マリアンヌの人物設定には、モデルとなるような方が実際にいらっしゃったのでしょうか。

スリマン監督:モデルがいるとするならば、「白雪姫」の意地悪な王妃やアニメ「キリクと魔女」に登場する魔女のカラバがモデルになっているともいえます。

――マリアンヌ先生役にマイウェンさんという個性派の俳優を選んだ理由を教えてください。

スリマン監督:マイウェンは女優としても知られますが、映画監督としても非常に素晴らしい経歴のある方です。彼女が本来の自分に近いと思われる役柄で出演してきた過去作品と比べて、今回、私が彼女に与えたバレエ教師の役は、話し方や衣裳、髪型など本来の彼女とは全く異なるものだろうと思います。北アフリカのルーツをも併せ持つ彼女の外見も、この作品の役柄に大きく寄与しています。

――ネネのモデルとなるような方はいるのでしょうか。

スリマン監督:ネネのモデルとなるような人物は実在せず、私が想像して作った人物です。それをオウミ・ブルーニ・ギャレルがうまく演じてくれました。

――ネネ役に彼女を抜擢した理由を教えてください。

スリマン監督:ネネの役はプロフィールが明確でした。まず黒人であるということ、それから12歳であること、バレエに適した身体の基準を満たしていて、踊れなければならない。このような条件を満たす少女を求めて、フランス中のいろいろなダンススクールやジムなどをくまなく探し回りました。しかし、適正体重の範囲内だが身長が足りない子、ダンスを踊ることができても演技ができない子など、なかなかいい俳優を見つけられませんでした。黒人で踊れる女の子は、特にクラシック・バレエに関しては、大体8歳から9歳ぐらいで辞めてしまうケースが多いということがわかりました。フランス国内では理想のキャスティングが難しいということになり、セネガルやその周辺、さらにはカナダにも足を運びました。
ネネ役の俳優が決まらないので、撮影が少し先延ばしになるかもしれないと我々スタッフは不安を募らせていましたが、先に決まっていた生徒役の一人が実生活でもバレエ学校の入学試験を受けており、彼女からオウミの存在を聞いたのです。そこでオウミに会ってテストをしたところ、非常に良かったので彼女に決めました。主役という重役を背負えるかどうか、長時間の映画撮影に耐えられるかどうかという点も重要でした。オウミはこれまでダンサーとしてコンテンポラリーダンスを踊ってきました。両親が監督・出演した映画にも出演していますが、この作品で初めて本格的な演技に挑戦しました。

サブ2.jpg

© 2023 GAUMONT - FRANCE 2 CINÉMA - GAUMONT ANIMATION

――生徒役の少女たちは、バレリーナを目指している方が多いのですか。

スリマン監督:そうですね。生徒たちを演じた少女たちは、実際にパリ・オペラ座バレエ学校だけでなく、モナコやミュンヘンのバレエ学校の入学試験を受ける基準を満たしている子どもたちです。キャスティング・オーディションを受けた少女たちのなかには、撮影中に、実生活でバレエ学校の第3次審査まで通過したという生徒もいました。

――バレエ教師の俳優さんたちの演技は本当のダンサーだったのではないかと思えるほどリアルでした。バレエ・クラスのシーンなどはパリ・オペラ座のダンサーだったジュリアン・メザンディさんが監修されたそうですね。

スリマン監督:バレエ学校のシーンで本物のバレエ教師たちに演じてもらうのか、それとも俳優さんたちに先生役を演じてもらうのか悩みました。結局、本物の先生たちが自分自身を演じるのは難しいだろうということになり、撮影当時パリ・オペラ座のスジェだったジュリアンに監修をしてもらいました。バレエ学校での会話に関しては、資料に基づいて綿密なリサーチをして、台本を作り上げていきました。実際にパリ・オペラ座バレエ学校の先生が使っている用語を入れてセリフにしています。パリ・オペラ座バレエ学校はエリート育成校ならではの大変さや厳しさがつきものですが、バレエ学校の会話の場面からも、激しい競争社会の側面が表れていると思います。

――パリ・オペラ座エトワールのレオノール・ボラックの舞台シーンもありますね。

スリマン監督:プロのバレエ・ダンサーの卵である生徒役の少女たちは、レオノールを見て、感極まっていました。彼女たちにとって、レオノールは神のような存在でしょう。

サブ3.jpg

© 2023 GAUMONT - FRANCE 2 CINÉMA - GAUMONT ANIMATION

サブ4.jpg

© 2023 GAUMONT - FRANCE 2 CINÉMA - GAUMONT ANIMATION

――パリ・オペラ座バレエでは、2023年3月にフランスとセネガルに出自をもつギヨーム・ディオップがエトワールに任命されました。このようにバレエ界にも多様性を尊重する動きが見られるようになってきましたが、この作品もそのような潮流を反映しているのでしょうか。

スリマン監督:実は、この作品の脚本を書いたのは2019年、撮影を行ったのは2021年で、ギヨーム・ディオップがエトワールに任命される前になります。バンジャマン・ミルピエがパリ・オペラ座バレエ芸術監督だった頃は様々な出自のダンサーに門戸を開いたのですが、結局解任されることになりました。もう一つは、パリ・オペラ座現総裁であるアレクサンダー・ネーフがフランス人ではなく、ドイツ人だということも大きいのではないかと思います。彼はフランス人ならではの固定観念に縛られることなく、オペラ座を運営しているのではないかと想像します。この二人が先んじて伝統にとらわれない方針を取ってきたことが、ギヨーム・ディオップのエトワール任命に繋がったのではないかと思います。アフリカ系のルーツをもつダンサーのエトワール昇進が話題になっていること自体が、人種の多様性の問題がバレエ界で未だ解決していないということを示しているのではないかと思われます。しかし、今後、さらに若い世代にとって世界は良い方向に進んでいる、ということは言えると思います。

『ネネ -エトワールに憧れて-』予告編

nene_ポスター.jpg

『ネネ -エトワールに憧れて-』

11月8日(金)より
TOHOシネマズ シャンテほかにて全国公開

監督・脚本:ラムジ・ベン・スリマン
撮影:アントニー・ディアス
編集:バジール・ベルキリ
ストリートダンス振付:メディ・ケルクーシュ
クラシックダンスアドバイザー:ジュリアン・メザンディ
キャスト:オウミ・ブルーニ・ギャレル、マイウェン、アイサ・マイガ、スティーヴ・ティアンチュー、セドリック・カーン、レオノール・ボラック

2023年/フランス/フランス語/97分/原題:Neneh Superstar
配給:イオンエンターテイメント
© 2023 GAUMONT - FRANCE 2 CINÉMA - GAUMONT ANIMATION

映画公式サイト
https://neneh-cinema.com/

◆ラムジ・ベン・スリマン監督
パリ生まれ。映写技師である父親から映画について学ぶ。舞台で演出を学び、テアトル14にてアルベール・カミュの『異邦人』を演出。2016 年、ベルリン映画祭で出品された初の長編映画『MA RÉVOLUTION』が公開される。2019年に構想、脚本と監督を務め、パリ・オペラ座も制作に参加した約 12 分間のフィクション作品『GRAND HÔTEL BARBÈS』は、アルル写真国際映画祭、ルーヴル美術館歴史祭、クレルモンフェラン国際短編映画祭で上映され、パリ・オペラ座動画配信サイトでも公開中(https://www.youtube.com/watch?v=oEgQUSKaLos)。モンマルトルに近いスラム街バルベスを舞台にしたブレイキン・バトルが描かれる。

記事の文章および具体的内容を無断で使用することを禁じます。

ページの先頭へ戻る