ヘイワード、サンべが踊ったアシュトンの傑作『リーズの結婚』が1月16日より公開される、英国ロイヤル・バレエ&オペラ in シネマ2025/26
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関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi
フレデリック・アシュトン振付の『リーズの結婚』の幕開きは、目醒めたばかりの田園の朝。悠久に続いているとも思われる時間が流れる中、雄鶏と4羽の雌鶏の滑稽な踊りから始まり、最後に、強い愛着を持つ赤いコウモリ傘を取り戻した喜びを表すアランの茶目っ気のあるステップまで、アシュトンの眼は、終始、優しさを持って登場人物たちを見つめ、親しみを込めてユーモラスに、田舎の結婚の物語を描いている。そしてこのバレエは、ダンスと物語が実に巧みに融合されて出来ているので、幕が降りると、観客は、今の今までダンサーたちに混じって踊っていたような、心が浮き立つ想いを抱くのではないだろうか。
「遠くまで広がる野原、干し草の束、夢のような空、村の家々ののどかな背景は、物語に必要な理想化された田園風景」を提供しているとも評されているが、演出・振付や音楽とともに20世紀に活躍した英国の風刺漫画家で舞台美術家のオズバート・ランカスターの美術も、その魅力の創出に一役買っていることは間違いない。ランカスターは、クランコの『パイナップル・ボール』の美術も手がけている。

金持ちの未亡人シモーヌにはシェームズ・ヘイ、その娘リーズはフランチェスカ・ヘイワード、リーズに恋する若い農夫コーラスにはマルセリーノ・サンべが扮している。
田園の朝の光景が描かれ、リーズのソロ、コーラスのソロが踊られたのちに、二人のリボンを使ったパ・ド・ドゥとなる。長いピンクのリボンを使って、あやとりなども混じえて親しい感情が通い合っていることを表し、リフトを織り込んでロマンティックな心の交流も感じさせる。二人がごく自然に恋しあっていることが良く表れており、アシュトンの振付はまさに自在。ヘイワードとサンべは『赤い薔薇ソースの伝説』(クリストファー・ウィールドン振付)でパートナーを組んで、かなり凄絶ともいえるパ・ド・ドゥを踊って圧倒的な印象を残しているが、ここではリボンを絡め合う爽やかな恋人たちの姿を率直に踊っている。息の良くあった素敵なパートナー・シップである。

ところが、裕福な葡萄園のオーナー、トーマス(クリストファー・サウンダーズ)が夢みがちでかなり風変わりな息子、アラン(ジョシュア・ジュンカー)連れて登場し、取引(いわゆる"ディール")が行われることとなる。トーマスはシモーヌに大金を渡し、アランをリーズと結婚させることを承諾させた。
"ディール"が終わるとシモーヌとリーズ、アランとトーマス、そしてもちろんコーラスも農民たちとみんな揃ってお祭りの広場へ、ポニーの荷車の乗ってガタゴトと出掛けていく。
ここから次々と農民たちとリーズやコーラス、アラン、そしてシモーヌの踊りが息つく暇もなく繰り広げられていく。まず、リーズとアランの婚約話を知ったコーラスのワインボトルを両手に持った踊リは少し荒れ模様。リーズはみんなの前でアランと踊ることになるが、トンチンカンな動きをするアランを尻目に、コーラスをひき入れて踊り、やがて二人はどこかへ消えてしまう。パートナーを失ったアランの耳にどこからともなく美しい笛の音が聴こえて、そのリズムに乗せた踊る若者が現れる。するとその笛に魅了されて右往左往するアラン。一方、リーズとコーラスはパ・ド・ドゥを踊って幸せを謳歌している。しかし、シモーヌが現れて、たちまち二人を引き裂いた。ところがリーズが木靴を取り出して、ちょっとそのリズムを刻むとたちまちシモーヌの心は浮かれて、その脚は踊り出してしまう。シモーヌ十八番の木靴の踊りがいかにも軽快に広場に響き、みんなの心も浮かれる。この木靴の踊りでは、日本人ダンサーの佐々木万璃子、前田紗江、桂千理も踊っている。
やがて祭りのクライマックスとなり、鮮やかな色とりどりのリボンがたくさん垂らされ、先端に花が飾られたメイポールが仕立られる。多くの村人たち一人一人が一本一本のリボンの端を持って、踊りながらポールを入れ替わり回ると先端にリボンが織り込まれていって、美しい模様が現れる。農民たちが一体となって無事に春を迎えたことを喜び合う、なんとも素朴で素敵な踊りで、ヨーロッパの春の祭りに踊られる民俗舞踊として知られている。


ところが祭りがたけなわとなったところで、一点にわかにかき曇り空一面が黒雲に覆われ、激しい雷雨が落ちて稲妻が光り疾風が吹き抜け、大荒れの天気となった。みんな大慌てで転々バラバラ逃げ惑い、シモーヌとリーズは這々の体で我が家に駆け戻った。濡れた衣服を拭い、一段落すると、嵐の中ではぐれたコーラスが気になってならないリーズと、娘を手伝いをさせて目の届くところにおきたいシモーヌの駆け引きがおもしろい糸巻きの踊りとなり、入口の鍵をめぐるマイムも繰り広げられる。
やがて、シモーヌは扉に厳重に鍵をかけて出掛けてしまう。ところが、なんとその時には既にコーラスは、収穫を届けに来た農民たちの藁の中に隠れて、シモーヌ邸に忍び込むことに成功していた。そうとは知らぬリーズは一人になって空想を思いっきり膨らませ、コーラスとのスイートホームへ想いを募らせる。子どもは一人いえ二人いえいえ三人、四人、、、とひとり言をつぶやいていると、突然、藁束の中からパパ、コーラスが飛び出してくる。全身真っ赤になって恥ずかしがるリーズをコーラスは優しく抱きしめる、、、、。
このシーンはアシュトンの『シンデレラ』第1幕の箒のダンスと同工異曲であるが、宮廷の舞踏会への想い馳せるシンデレラとはまた異なり、ごく身近な農民のカップルの親しみやすい幸福感の溢れるマイムであり、時代を超えて大いに共感を呼んでいる。


しかし、幸せはほんの束の間だった。シモーヌのご帰還となる。慌ててリーズはコーラスを二階の小部屋に隠す。シモーヌはリーズをアランと添わせるために化粧して着飾るように命じ、二階の小部屋に追いやる。まさか、そこにコーラスが潜んでいるとはつゆ知らず・・・。
やがて自信満々、堂々と登場したトーマスとキョロキョロ一同を見回すアラン。村の公証人と事務官を従えている。シモーヌはリーズとアランの婚約の証書にサインする。そして・・・農民たちみんなが興味津々と見つめる中、アランは指輪をしっかりと持って、リーズが待っていると教えられたあの二階の小部屋へと行進する。そして扉を開けると、そこにはなんとコーラスと抱き合うリーズがいた! 哀れアランは指輪を納めるところを失いオロオロするばかり、、、。
シモーヌは驚き怒るが、村人たちに説得され、ついにリーズがコーラスと結婚することを認めた。
めでたしめでたしのコーダがあって、人々はみんな引きあげたひっそりとした広間に、一人姿を現したのはアラン。忍び足で周囲を見回し、あの空飛ぶ赤いコウモリ傘を手を発見し、満足気にステップを踏んで消えていった。

『リーズの結婚(ラ・フィーユ・マル・ガルデ)』は、『藁のバレエ、または運と不運は紙ひと重』(薄井憲二訳)と題され、1789年にジャン・ドーヴェルヴァルの台本・振付によりボルドー大劇場で初演された。音楽はフランスの民謡ほか当時流行した曲などが編曲されて使われていた。アシュトンは、ドーヴェルヴァルの弟子のオーメールが1828年に再演したさいに編曲された、フェルディナン・エロールの曲をジョン・ランチベリーがアシュトンと親しく話し合いながら編曲し、使用している。(他に1864年に作曲され、プティパ、イワノフが1885年に上演した時に使用したヘルテルの曲もある)
農民たちが草刈り鎌を打ち合わせる音やリズカルな笛の音、木靴のタップ音、タンバリンなどの身近で素朴な音を巧みに混じえて、全体のリズムを作り、踊りの味わいも深めている。木靴の踊りや笛の踊りはシンプルな曲で踊られるのだが、その生活とともにある素朴な感覚が、我々が忘れていたのどかな田園の楽しさ、美しさを思い出させ、「ああ、生きる喜びとはこういうことだったのだったか」と気づかせてくれるのである。それが初演以来、世界最古のバレエと言われながら、今日まで愛され続けているこのバレエの良さであろう。(2025年11月5日上演作品、一部他日公演写真を含む)


英国ロイヤル・バレエ&オペラ in シネマ2025/26
『リーズの結婚』
1/16(金)~1/22(木)TOHO シネマズ 日本橋 ほか1週間限定公開
■公式サイト:http://tohotowa.co.jp/roh/
■公式 X:http://x.com/rbocinema
■配給:東宝東和
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