マシュー・ボーンが愛した物語『エドワード・シザーハンズ ダンスバージョン』が映像になった! 12月27日より順次全国公開

ワールドレポート/その他

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

ティム・バートンの傑作映画『シザーハンズ』(原案・監督/ティム・バートン、脚本/キャロライン・トンプソン、音楽/ダニー・エルフマン、出演/ジョニー・デップ、ウィノナ・ライダー、1990年製作)は、2005年にマシュー・ボーンの手により舞台化され、翌年には来日公演も行われた。そして2014年には『エドワード・シザーハンズ ダンスバージョン』(マシュー・ボーン:考案・演出・振付)は3回目の再演がなされた。今年3月にはその舞台映像が製作され、日本でも12月27日にBunkamura ル・シネマほかで順次全国公開される。
マシュー・ボーンは映画に大変に精通した振付家であり、新作ダンスのリハーサルでは、テーマに関連する映画をダンサーたちとともに鑑賞して意見を交換することも多いと聞く(少年時代にはスターたちのサインを集めたサイン帖を大切にしていた)。また、マシュー・ボーンは「シザーハンズ」のもう一人の生みの親、キャロライン・トンプソンの親しい友人だが、トンプソンはマシュー・ボーンは、この「(シザーハンズの)物語を愛していて、その物語が彼のダンスを動かしている」と語っている。そしてマシュー・ボーンは、映画『シザーハンズ』が誕生してから15年後に舞台化し、さらに10年後には復活上演し、そのまた10年後には『エドワード・シザーハンズ ダンスバージョン』と言う映像作品を公開している。彼は、30年以上に渡りこの<悲しくて、美しい極上の物語>とともに歩んできているのである。

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リアム・ムーア、アシュリー・ショー Photo by Kaasam Aziz

ある発明家が、大好きなハサミで遊んでいて落雷にあって死んでしまった息子を、なんとか取り戻そうと、人造人間エドワードを造り始める。しかし、あと一歩で手を付け替えるというところにハローウィンの侵入者たちに襲われ、発明家もまた亡くなった。そのためにエドワードは両手がハサミの状態で、この世に誕生してしまったのである。ここから物語は始まる。
エドワードに扮しているのは、ミュージカル版『ビリー・エリオット』の初代ビリーだったリアム・ムーア。彼のエドワードがこの世に生まれた時の演技は素晴らしい。たった一人で生を得た存在の不思議感、そして両手がハサミになっている奇妙さと対面したエドワードの心を巧みに垣間見せ、この奇抜なアイデアを観客に納得させて、エドワード・シザーハンズの心象へと飛翔させた。
間もなくエドワードは、親切な女性ペグ・ボッグス(ケリー・ビギン)と出会い、誘われるまま彼女の一家(ボッグス夫妻、キム、弟)とともに暮らすことになる。そこは1950年代のアメリカを彷彿させるホープ・スプリングの街だった。やがてエドワードはボックス家の娘キム(アスリー・ショー)に心惹かれるようになる・・・。

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友谷真実ほか photo by Johan Persson

街の人々はエドワードの<シザーハンズ>にびっくり仰天し、やがて手のハサミを駆使してさまざまに刈り込みを行って、新たな世界を現出させる力にもう一度、驚く。マシュー・ボーンはこのホープスプリングの街を入念に描いている。おもちゃのようなかわいい家から、いくつかの家族が登場し、それぞれの風景を生活の小道具などを使いながら、スラップスティックなパフォーマンスでコミカルに見せる。中にはこのシザーハンズという意想外の存在に対応できない宗教家(友谷真実の熱演が見もの)もいた。
夏休みのシーズンになると、ウエストサイド・ストーリー風のダンス、あるいはマンボやチャチャチャなどの楽しいダンスが次々と踊られ、圧巻のダンスシーンが展開する。パーカッションを多く使ったコミカルな音楽も軽快で心が浮かれるようだ。
街の人々が消えて、キムとボーイフレンドのジム(ベン・ブラウン)の楽しげな様子がみられるが、キムは乱暴なジムに逆らい始める・・・。するといつしか、エドワードの手からハサミが消え、彼はキムと二人で踊りはじめる。エドワードが刈り込んださまざまな庭木の人物たちも動き出し、コール・ド・バレエとなって踊る。背景の色調が次々と変化し、庭木たちの可愛らしいシルエットとともに二人が踊るロマンティックなダンスがとってもファンタスティックだった。キム役のアスリー・ショーは初々しく活き活きと、エドワードは身体で巧みに動きの表情を創り、美しく素敵なダンスシーンだった。その二人のダンスを優しく見つめていたのは、ティム・バートンが愛したゴジラだろうか。それとも首長竜?

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リアム・ムーア Photo by Johan Persson

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リアム・ムーア、ニューアドベンチャーズカンパニーメンバー Photo by Kaasam Aziz

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アシュリー・ショー、ニューアドベンチャーズカンパニーメンバー Photo by Kaasam Aziz

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リアム・ムーア、アシュリー・ショー、ニューアドベンチャーズカンパニーメンバー Photo by Kaasam Aziz

エドワードは独創的なヘアカットで一躍ホープスプリングの人気者となった。そしていよいよクリスマスがやってくる。街に清らかな雪が降ってくると、エドワードはキムを想いながら腕を振るって素晴らしい天使像を創る。キムはエドワードの創造した天使に深く感動する。
ホープスプリングのクリスマス・パーティが始まり、街中の人々が集い、市長も演説する。大きな月が輝く下にクリスマスツリーが華やかに飾られ、世界中を踊らせてしまうようなビックバンド風の曲に乗って華麗なペアダンスが、舞台狭しと繰り広げられ、ホープスプリングのクリスマスはクライマックスを迎える。しかし、人気者のはずのエドワードにはパートナーがいない。ジムに酒を次々と注がれて酔ってしまい、<シザーハンズ>を振り回し、ふらふらしながら踊る。ついには、エドワードはジムに貶められる。ジムは冒頭のハローウィンの侵入者たちの首謀者であり、キムへの嫉妬ばかりでなく、純粋なエドワードに対して悪魔的な存在として描かれている。
ここではキムとエドワードの感動的なデュエットが踊られるが、二人の情感が高まって愛が溢れる素晴らしいダンスで、『エドワード・シザーハンズ』のハイライトとなっている。
そしてラストシーンでは、神が創造した雪の妙なる美しさに、物語のすべてが収斂されて幕が降りた。

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リアム・ムーア、ケリー・ビギン Photo by Kaasam Aziz

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リアム・ムーア、ニューアドベンチャーズカンパニーメンバー Photo by Kaasam Aziz

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リアム・ムーア、ニューアドベンチャーズカンパニーメンバー Photo by Kaasam Aziz

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ケリー・ビギン、ドミニク・ノース、ニューアドベンチャーズカンパニーメンバー Photo by Kaasam Aziz

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『エドワード・シザーハンズ ダンスバージョン』

2024年12月27日(金)よりBunkamura ル・シネマ 渋谷宮下 ほか全国順次ロードショー
ウェールズ・ミレニアム・センター2024 年 3 月収録。上映時間:93 分
配給:ミモザフィルムズ、dbi inc. 後援:ブリティッシュ・カウンシル
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【公式サイト】http://mimosafilms.com/mbcinema/

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