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フランチェスカ・ヘイワード=インタビュー「舞台では数々のハプニングを楽しみます」、1月17日公開『不思議の国のアリス』に主演

ワールドレポート/その他

香月 圭 text by Kei Kazuki

ロンドンのロイヤル・オペラ・ハウスで上演された、英国のロイヤル・オペラおよびロイヤル・バレエ団による珠玉の舞台を、特別映像を交えて映画館で上映してきた「ロイヤル・バレエ&オペラin シネマ 2024/25」が、全10作品<バレエ6作品/オペラ4作品>が1週間限定で全国公開される。
今シーズン最初にスクリーンに登場するバレエは『不思議の国のアリス』で、2011年の全幕新作として16年ぶりに初演された。ルイス・キャロル原作にクリストファー・ウィールドンがミュージカルの華やかさを加え、プロジェクションマッピングなどの最新技術を使った美術とともに、鮮やかでポップなワンダーランド・ストーリーに仕立て上げた。
好奇心旺盛なヒロインの少女アリスを生き生きと演じたプリンシパルのフランチェスカ・ヘイワードに話を聞いた。

――子供の頃、『不思議の国のアリス』の原作をご存知でしたか。

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© Andrej Uspenski

フランチェスカ・ヘイワード はい。小さい頃、家族でこの本を読んでいて、いつかワンダーランドに行ってみたいといつも思っていました。そして、ついに!

――舞台化された『アリス』をどう思いますか。原作では少女ですが、バレエでは少し大人になっていて、ジャックに恋をしています。

ヘイワード 原作ではアリスは7歳の少女ですが、クリストファー・ウィールドンはアリスをもう少し大きくしたかった。彼はアリスを15歳の少女として作り上げ、彼女は庭師のジャックと初めて恋に落ち、ジャックは不思議の国ではハートのジャックとなり、ハートの女王のジャム・タルトを盗み出すのです。
若い女性としてのアリスを見られるのは素敵だし、彼女が初恋に落ちて感じた高揚感がこの作品全体の原動力になっていると思います。アリスがジャックを探して不思議の国を旅しながら、彼に会いたいと思い続ける気持ち、それがこの特別な冒険を乗り越える力になっています。さらに、最後の美しいパ・ド・ドゥでは、2人の腕が1つのハートになるように美しく結ばれ、互いへの愛が表現されるのですが、とても素敵な瞬間だと思います。

――ウィリアム・ブレイスウェルさん演じるジャックは好感度の高い青年で、フランチェスカさんとロマンチックなパ・ド・ドゥを踊りました。お二人の相性がとてもよかったと思いますが、彼と共演した感想を教えてください。

ヘイワード  ウィリアムと踊るのは大好きです。彼は実生活でも温かくて寛大で、ジャックという登場人物はウィリアム本人にとても近い人だと思います。主役のアリスは3時間ずっと舞台の上に立ちっ放しで、1人で踊っている時間も長いので「ウィリアムが早く来てくれないかな」と思っています。ですから、彼が舞台に現れると、とても幸せな気持ちになります。パ・ド・ドゥで支えてくれるだけではなく、彼のあの微笑みを見ると安心するのです。彼の目を覗き込むと、そこにはうわべだけの表情ではない、本物の人間が存在していて、舞台の上で彼と繋がっているように感じます。そのような素敵な人と踊れるのは特別なことです。スタジオから実際の舞台になるまで、共に歩んだ『不思議の国のアリス』への旅路は、彼のおかげでとても容易なものになりました。

フランチェスカ・ヘイワード、ウィリアム・ブレイスウェル ©BC

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――振付のクリストファー・ウィールドンさんからは、どのようなアドバイスを受けましたか。また、フランチェスカさんご自身ではアリスの性格をどのようにとらえていらっしゃいますか。

ヘイワード クリス(クリストファー・ウィールドン)からは「一つ一つのシーンが次へと繋がっていくように、きちんと意味を持たせながら演じることが何よりも大事。リアルに見せることもすごく大切だね」と言われました。不思議の国のキャラクターが多く登場しますが、彼らと対峙したときの反応にリアリティを持たせる必要があるのです。アリスは勇敢で、物事に対して怖気づくことなく向かっていきます。すごく好奇心が旺盛で、何ごとに対しても興味を持っているような女の子だと思います。舞台で演じていて楽しい役です。

――アリスは、ジャックと踊るときは正統派の美しいクラシック・バレエを踊りますが、脇役の登場人物たちはコミカルな動きが多く、彼らと絡むときは、それぞれのキャラクターに合わせた動きをしています。クラシック・バレエとミュージカル調のユーモラスな踊りとでは、どちらがお好きですか。

フランチェスカ・ヘイワード ©BC

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ヘイワード 芋虫が登場する面白い場面なども好きです。それから、アリスが小さなドアをくぐり抜けようとすると客席に花たちが登場するシーンでは、アリスの脚が内股で足がフレックスになっていますが、舞台でちょっと変わったことをするのが楽しいです。普通の女の子らしい、自然で無邪気な様子が感じられていいですね。
クリストファー・ウィールドンの振付についてですが、実はクラシックに見えるシーンでも、ほかの作品で踊ってきたものとは別物のようです。なぜなら、パートナーリングでは従来のやり方とは異なり、相手との手の組み方などが複雑だからです。特に疲れているときは大変ですが、リハーサルではスムーズに動けるように皆真剣に取り組みます。

――お気に入りのシーンがあれば教えてください。

ヘイワード マッドハッターのティーパーティーはいつもすごく楽しく演じています。マッドハッター役のスティーヴン・マックレーとの共演も本当に楽しかったです。彼はこの役に素晴らしいエネルギーを与えてくれるし、タップダンスも素晴らしいのです。アリスが興奮して飛び跳ねる花のワルツも大好きで、ハンサムな騎兵隊とパートナーを組む夏の花に扮したダンサーたちに囲まれる、とても美しいバレエ・シーンです。

――フランチェスカさんは、アリスが舞台で不思議な出来事に初めて出会うかのように、自然体の演技になるのが素晴らしいと思います。舞台ではどのような気持ちで演じていらっしゃるのでしょうか。

ヘイワード 『不思議の国のアリス』では、やることがたくさんあり「次はこれをやろう」などと考える暇などなく、いろいろなことに次々と対処していかなければなりません。スムーズに舞台を進めるために、出演するダンサーたちのほか、舞台スタッフや衣裳部門の方たちなどバレエ団全体が一丸となって動いており、リラックスする時間は一瞬もありません。私もその瞬間ごとに没入して演じます。例えば、芋虫が出て来るシーンで、前回とは違うキャストが登場すると「別の芋虫が現れた!」と感じます。同じシーンを繰り返すようでいて、毎回新鮮な気持ちで挑むことができるのです。マシュマロやカップケーキを食べる場面では、本物を舞台で実際に食べています。ですから、口の中にお菓子が詰まったまま踊っています。そういった数々のハプニングを舞台で楽しんでいます。

――先ほどおっしゃったように、アリス役はほとんど舞台で出ずっぱりですね。全幕をすべて踊り通すためには、スタミナ配分などはどのようにしていますか。

ヘイワード アリスはとても若い女の子の役なので、エネルギッシュに見せなくてはなりません。エネルギーをセーブして後半にとっているように見えてはいけないのですが、実際にはスタミナ配分を考える必要があります。例えば『くるみ割り人形』(ピーター・ライト版)のクララも3時間ずっと舞台の上にいるのですが、この役を演じた経験がとても役に立っています。そこで学んだことは、100パーセント全力を出し切らずとも、感情表現を全開にするということです。『不思議の国のアリス』の公爵夫人のキッチンのシーンではすでに疲れ切っているのですが、やるべきことが山積みです。でも、パニックに陥ることなく舞台をやり遂げるのだと毎回自分に言い聞かせ、目の前のことに集中して一歩ずつ進んで行き、あまり先のことを心配しすぎないことが大切です。また、舞台で食べるマシュマロやカップケーキはちょっとした糖分補給になりますし、幕間に食べ物やスポーツドリンクを口にして、エネルギーを摂ることも忘れてはいけません。

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フランチェスカ・ヘイワード、ジェームズ・ヘイ

――フランチェスカさんが初めてアリスを演じた2014年から10年後、この役を再び踊るにあたってどんなことを感じましたか。

ヘイワード 初めてアリスを演じた頃、私はまだ若くて『くるみ割り人形』のクララといった子どもに近い少女の役を演じることが多く、肉体的にも大変な大役はあまり演じていませんでした。そういった意味で、アリス役をいただけたのは、大きなチャレンジでしたね。その後は、マノンやジュリエットなどの成熟した役を演じることが増えたので、若い女の子であるアリスの役に戻るには少し時間がかかりました。10年前は、小さくてかわいい無邪気な女の子として演じていたように思いますが、今回はジャックに対して甘くロマンチックな思いを抱いており、周りのことに対して、幼い子どもよりさらに大きな好奇心を持つようになる10代の少女として演じています。
当時の振付はすっかり忘れていましたが、練習するうちに体の内側に眠っていた記憶がすっと戻ってきて、ステージに立ったときの当時の思い出もよみがえってきました。今回、ヴィオラ・パントゥーソ(ファースト・アーティスト)やエラ・ニュートン・セヴァニーニ(アーティスト)といった若いダンサーたちがアリス役でデビューしたのですが、当時、自分が苦労したことや課題などを思い出して、彼女たちをサポートすることもできて嬉しかったです。

――2011年の初演でアリスを演じたローレン・カスバートソンさんが今回ハートの女王になりましたが、フランチェスカさんも将来的に女王を演じてみたいですか?

ヘイワード ええ、ハートの女王は演じるのがとても楽しそうですが、ローレンが初めてこの役に挑戦するのを間近で見ていたからこそ、この役の難しさを理解できたと思います。特にソロのときはコントロールする必要があり、<タルト・アダージオ>では、面白さがうまく出るように、演技プランも具体的であることが求められます。彼女がこの役を初めて演じるのを見るのは楽しかったです。舞台の端から<タルト・アダージオ>を見ていると、ローレンを見ているフランキー(ヘイワードの愛称)としては笑いがこみ上げてくるのですが、舞台では私はアリスであり、彼女は女王で恐れ多い存在なので、笑ってはいけないのです。その辺りの演技は難しいですね。でも、年をとったらやってみたい役ではあります。

「英国ロイヤル・バレエ&オペラin シネマ 2024/25」

ロイヤル・バレエ『不思議の国のアリス』
アリス:フランチェスカ・ヘイワード
庭師ジャック/ハートのジャック:ウィリアム・ブレイスウェル
ルイス・キャロル/白うさぎ:ジェームズ・ヘイ
アリスの母/ハートの女王:ローレン・カスバートソン
アリスの父/ハートの王様:ベネット・ガートサイド
手品師/マッドハッター:スティーヴン・マックレー

振付:クリストファー・ウィールドン
音楽:ジョビー・タルボット
指揮:コーエン・ケッセルス
美術:ボブ・クロウリー
管弦楽:ロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団

1月17日(金)~1月23日(木) TOHOシネマズ 日本橋 ほか1週間限定公開
配給:東宝東和
公式サイト:http://tohotowa.co.jp/roh/

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