『シンデレラ』の王子、ウィリアム・ブレイスウェルは語る「花で彩られた衣裳と舞台美術は大好きです」英国ロイヤル・バレエ&オペラ in シネマ
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香月 圭 text by Kei Kazuki
2月21日~27日まで英国ロイヤル・バレエ&オペラ in シネマ の『シンデレラ』が公開中だ。タイトルロールを金子扶生、王子役はウィリアム・ブレイスウェルが演じている。理想の女性シンデレラに出会えた喜びを全身で表し、高難度のフレデリック・アシュトンの振付を英国紳士らしい気品とともに軽やかに踊るブレイスウェルに、金子とのパートナーシップやアシュトン・スタイル、故郷のウェールズのことなどを語ってもらった。
――『シンデレラ』第2幕では、舞踏会で王子がシンデレラに出会い、彼女に惹かれていく様子が、生き生きとした表情と高揚感溢れる踊りでうまく描かれていました。ウィリアムさんは、王子を演じる際にシンデレラ役の金子扶生さんを崇拝する気持ちを素直に表したということですが、彼女のどんな点が素晴らしいと思いますか。
© Andrej Uspenski
ブレイスウェル 扶生のおかげで僕の人生はすごく楽になっています。彼女は、出会ったらすぐに恋に落ちるような女性で、本当に美しい人です。扶生のことをとても尊敬しているので、『シンデレラ』のような作品で彼女に恋に落ちる王子の役を踊るのは、とても簡単なのです。
彼女はスタジオで信じられないほど懸命に練習しています。私たちは二人ともこの仕事が大好きで、ロイヤル・オペラ・ハウスではそれが当たり前のことだと思っています。僕たちはこの仕事に真剣に取り組み、日々自分の技術を磨いていますが、何か上手くいかなかったときには、扶生はよく笑ってくれます。ミスに対して深刻になりすぎずに、互いに笑って済ますことができる彼女との関係性がとてもいいのです。
彼女はテクニックも完璧で、パートナリングのときに自分でバランスが取れるくらい強く、自分でできることをすべてやってしまう傾向があるのですが、もう少し僕に任せてくれないかとお願いすることもあります。そうして彼女が僕に任せてくれると、彼女に信頼されていると感じられて、僕は嬉しいのです。お互いに、とても素晴らしいパートナーだと思います。
――ウィリアムさんと金子扶生さんは、アシュトン・スタイルを踊るのは難しいとおっしゃっています。ウィリアムさんは彼の振付を軽やかにこなすために、どんなことを心がけていますか。
ブレイスウェル アシュトンの振付はとても難しく、残りのキャリアを通して取り組んでもマスターできるかどうか分かりませんが、そこにたどり着くまでのプロセスが大事ではないかと思います。アシュトンの作品を踊れるようになるまでには、何年も技術を磨くと同時に、他のダンサーの踊りを見ることも大切だと思います。アシュトン・スタイルは華麗な筆致で書かれた習字のように正確でクリアなフットワークが求められる一方で、上半身の動きがすごく自由なところが魅力的だと感じています。僕が理想的だと思うのはレスリー・コリアで、彼女のフットワークの正確さと、液体のようになめらかな上半身の動きのコントラストが鮮やかで、素晴らしいと思います。
『シンデレラ』ウィリアム・ブレイスウェル ©2023 ROH. Photographed by Andrej Uspenski
――『シンデレラ』の舞台デザインはオリヴィエ賞を受賞した注目のデザイナー、トム・パイによるもので、2幕の宮廷の舞踏会には草花があしらわれており、ガーデンパーティーのようです。ウィリアムさんはガーデニングをご趣味にされているそうですが、この舞台美術は気に入っていますか。
ブレイスウェル はい。トムはあらゆる種類の草花のサイズを拡張したり縮小したりしたものを作って舞台を飾りましたが、大好きなデザインでした。また、衣裳デザインを担当したアレクサンドラ・バーンは、私の上着のチュニックの襟のデザインをしているときに、いろいろな生地の候補を見せてくれたのですが、驚いたことに、さまざまな品種のバラが刺繍されたものでした。僕のボーイフレンドはバラが大好きなので、僕はそれらのバラの名前を明らかにしようとしたりもしました。
バレエ団のメンバーは、僕が花に詳しいことを知っているので、僕のところにやって来て「このヘッドピース(頭飾り)の花は何かな?」とたずねることがありました。そこで、僕は「これはアルストロメリア(ユリズイセン)じゃないかな。こちらはバラだね。これは蘭の種類だと思うよ」などと教えてあげました。そうした時間も楽しいものでした。
『シンデレラ』金子扶生、ウィリアム・ブレイスウェル
© 2023 ROH. Photographed by Andrej Uspenski
『シンデレラ』金子扶生、ウィリアム・ブレイスウェル
©2023 ROH. Photographed by Andrej Uspenski
――2022/2023年シーズンにロイヤル・バレエ団プリンシパルに昇進されたとき、ウェールズの出身のダンサーとしては初の快挙だと、英国のニュースなどで話題になっていました。ウィリアムさんがウェールズ語を話している映像では、ご家庭でもウェールズ語で話していたとお話しされていました。ウェールズのスウォンジーのご出身で、お母様がウェールズ語の教師でいらっしゃるそうですね。
ブレイスウェル はい。母は若い人たちにウェールズ語を教えるのが、本当に上手いです。子どものときはウェールズ語でバレエやいろんな科目を勉強していました。ウェールズという母国と文化にとてもつながりを感じていて、伝統的なクロッグ・ダンス(木靴のダンス)を踊り、合唱団ではウェールズ語で歌い、ウェールズ語を頻繁に話していました。11歳のときにロンドンのロイヤル・バレエスクールに入学してからは、なかなか帰省がかないませんでしたが、昨年の夏にウェールズで番組を撮影したときは、故郷と再びつながることができて、特にうれしかったです。
クリスマスには母に会いに行き、ウェールズの海岸沿いを散歩しました。母とウェールズ語で再び話しただけで、ウェールズの学校に通って、ウェールズ語を学んでいた頃の数々の思い出が甦りました。ウェールズ語を話せることを本当に誇りに思っています。また幼い頃から英語とのバイリンガルであったことは素晴らしいことだと感じています。また、いつ日本を訪れても、皆さんは英語を上手に話してくださって、すごいと思います。
バイリンガルであることは、さらに他の言語を学ぶきっかけになると思います。僕も三つ目の言葉としてフランス語に再チャレンジすることになりました。最初は本当に苦労しましたが、ある日ふっと分かるようになりました。
――6月末に、以前在籍されていた英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団の来日公演でデヴィッド・ビントリー振付『シンデレラ』にゲスト出演されます。こちらの舞台はもちろん、日本の映画館での英国ロイヤル・バレエ団のアシュトン版『シンデレラ』の上映を楽しみにしている日本のお客様へのメッセージをお願い致します。
ブレイスウェル 毎回日本に来ることは特別なことです。僕自身を応援してくださることも、もちろんすごく嬉しいのですが、来日するたびに皆様が示してくださるバレエへの敬意と愛情に感謝します。アシュトンとビントリーによる、二つの全く違う『シンデレラ』を踊りますが、その違いもお楽しみください。
英国ロイヤル・バレエ&オペラ in シネマ 2024/25『シンデレラ』作品紹介記事
https://www.chacott-jp.com/news/worldreport/others/detail038501.html
『シンデレラ』金子扶生、ウィリアム・ブレイスウェル © 2023 ROH. Photographed by Andrej Uspenski
英国ロイヤル・バレエ&オペラ in シネマ 2024/25『シンデレラ』
2月21日(金)より2月27日(木)までTOHOシネマズ 日本橋ほか1週間限定公開
公式Webサイト:https://tohotowa.co.jp/roh/
公式X:https://x.com/rohcinemaseason
配給:東宝東和
【振付】フレデリック・アシュトン
【音楽】セルゲイ・プロコフィエフ
【指揮】ジョナサン・ロー
【舞台装置デザイン】トム・パイ
【衣裳デザイン】アレクサンドラ・バーン
【照明デザイン】デヴィッド・フィン
ロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団
【キャスト】
シンデレラ:金子扶生
王子:ウィリアム・ブレイスウェル
シンデレラの義理の姉妹:ベネット・ガートサイド、ジェームズ・ヘイ
シンデレラの父:トーマス・ホワイトヘッド
仙女:マヤラ・マグリ
老女に扮した仙女:オルガ・サバドック
ダンス教師:テオ・デュブレイユ
洋服屋:デニソン・アルメイダ
お針子:ハンナ・パーク、マディソン・プリッチャード
美容師:エイデン・オブライエン
宝石商:ハリソン・リー
ヴァイオリン弾き:グレイス・リー、クセニア・べレジーナ
春の精:イザベラ・ガスパリーニ
夏の精:佐々木万璃子
秋の精:ミーガン・グレース・ヒンキス
冬の精:クレア・カルヴァート
道化:五十嵐大地
王子の友人:レオ・ディクソン、ハリー・チャーチス、ルーカス・ビヨンボー・ブレンツロド、ベンジャミン・エラ
求婚者:ハリス・ベル、リアム・ボズウェル
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