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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2012.01.10]

進境著しい由良之助の柄本弾と顔世御前の二階堂由依

Maurice Bejart “The Kabuki”: The Tokyo Ballet
モーリス・ベジャール演出・振付『ザ・カブキ』
東京バレエ団

ベジャールが東京バレエ団に振付けた『ザ・カブキ』が、1986年の初演から25年を迎えたのを記念する公演が行われた。これはまた、音楽を担当した黛敏郎の没後15年を記念するものでもあった。初日に由良之助と顔世御前を演じたのは高岸直樹と上野水香で、高岸は今回が日本でのこの役の踊り納めになるという。評者が観たのは、若手の柄本弾と二階堂由依が出演した2日目だった。昨年この大役に抜擢された二人は、“20歳の由良之助と17歳の顔世御前”と注目を浴び、期待にたがわぬ成果を示したが、今回も、著しい進境を見せてくれた。

tokyo1201b02.jpg Photo:Kiyonori Hasegawa

既に世界的な評価を得ている作品に改めて説明を加える必要はないかもしれないが、『ザ・カブキ』は『仮名手本忠臣蔵』を基に、忠誠心や武士道の精神を、日本の伝統芸能の様式を織り込みながらバレエの手法で描いたスペクタクルな作品。現代の若者のリーダーである青年が過去にタイムスリップして由良之助となり、四十七士のリーダーとして主君・塩冶判官の仇を討ち、切腹して果てるまでが描かれる。プロローグの舞台は若者たちがたむろする現代の東京だが、少しニューアルしたそうだ。テレビはブラウン管から薄型液晶に変わり、画面には東京タワーのほか東京スカイツリーも映し出されるなど、四半世紀という時の経過を感じさせた。だが内容は変わらず、「兜改め」のシーンで一気に過去に移り、現代と過去を交錯させながら、次第に『仮名手本忠臣蔵』の世界へと踏み込んでいく。

主役の由良之助が要所で踊るソロには、高度のテクニックに加えて強い精神性が必要とされている。しなやかさと強靭さを併せ持つ柄本は、パワフルな跳躍をコントロールも巧みに連発した。心の内をきりりと引き締めた表情で隠しながら、沈着に振る舞うその居ずまいに威厳が備わってきたようだ。現代の若者のリーダーとしてのソロでは“選ばれた者”としての存在感を漂わせ、「判官切腹」では主君の無念を晴らす決意に至るまでの心の動きを繊細に伝え、連判状に血判を押した後は自らの魂を鼓舞するように逞しく踊った。
勘平の切腹の後の第1幕を締め括る長大なソロでは、悲しみや苦しみを乗り越えて仇討ちの決意を確固たるものにしていく様を、暗い舞台を駆け回る跳躍で見事に表していた。飛翔の距離やスピード、空中でのフォームなど、心と動きが一体となっていて説得力があった。討ち入りのシーンでは、義士たちを束ねる積極性をもっと鮮明に打ち出してもよさそうに思えた。だが前回と比べると、はるかに役の解釈を深めたようで、頼もしく感じた。

tokyo1201b04.jpg Photo:Kiyonori Hasegawa

二階堂の、すらりと伸びた172センチの身体と美しい脚は誠に魅力的な武器だ。顔世御前には派手な踊りの見せ場も激しい感情の吐露も求められていないが、二階堂は一つ一つのポーズや擦り足などの振りを丁寧にこなしていた。「兜改め」では心の内を隠して楚々と振る舞い、「城明け渡し」でも気丈さは感じさせたものの、演技は控え気味に抑えていたようだ。それに比べて「雪の別れ」では、白く化粧した顔に嘆きや怒りや失意を露にして、純白の総タイツの長身を柔らかにたわめ、脚を高く振り上げ、全身で由良之助に仇討ちを迫った。その様が哀れを誘い、鮮烈な印象を残した。彼女の成長も目覚ましい。

翻弄される塩冶判官を演じた宮本祐宜、高慢な高師直になりきった松下裕次、狡猾さを漂わせた伴内の氷室友ら、脇を固めたダンサーたちは歌舞伎の所作を誇張してこなしながら、役の性格を伝えていた。ほかに、何気ない仕草に艶めかしさを匂わせた遊女の小出領子や、おかるを可愛らしく演じた佐伯知香もいた。クライマックスは「討ち入り」で、逆三角形に隊を成した四十七士によるダイナミックな戦いと本懐を遂げた後の清々しい切腹は、この作品に息づく精神性を思い起こさせて余韻をした。なお、東京バレエ団は、2012年5月にパリで『ザ・カブキ』を上演するという。この舞台なら、向こうでも成功を収めるに違いない。
(2011年12月18日 東京文化会館)

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