セントルイス・バレエ団と劇団四季がミュージカルを題材としたバレエを踊った、堀内元 「バレエ・オン・ブロードウェイ」
- ワールドレポート
- 東京
掲載
ワールドレポート/東京
香月 圭 text by Kei Kazuki
堀内元 BALLET FUTURE 2026「バレエ・オン・ブロードウェイ」
~劇団四季の舞台を彩った振付家のバレエ傑作集~
『INTERPLAY(インタープレイ)』ジェローム・ロビンズ:振付、『CAROUSEL(回転木馬)』よりパ・ド・ドゥ クリストファー・ウィールドン:振付、『TAKE FIVE...MORE OR LESS(テイク・ファイブ・モア・オア・レス)』スーザン・ストローマン:振付、『セントルイス・ブルース』堀内元:振付
堀内元は、ジョージ・バランシンにその才能を見出され、ニューヨーク・シティ・バレエのプリンシパルとして活躍し、ミュージカル『キャッツ』のミストフェリーズ役としてブロードウェイ、ウエストエンド、そして東京・札幌の劇団四季の舞台に立った。そして2000年より、アメリカ中西部ミズーリ州のセントルイス・バレエ団のエグゼクティブ芸術監督を務めている。
堀内元と劇団四季との縁は堀内の父・完の代に遡る。完と劇団四季創設者・浅利慶太の姉・陽子が舞台芸術学院の一期生であったことから、浅利慶太と堀内完との交流が始まる。劇団四季の作品の振付を堀内完が担当したこともあり、息子の元も幼い頃から父に連れられて四季の舞台を観る機会も多かったという。1998年の長野五輪では、開会式の総合演出を手掛けた浅利のもとで、堀内元は式典の振付を担当した。ニューヨーク・シティ・バレエに入団してからは、浅利と共にニューヨークのブロードウェイでのミュージカルや演劇を共に鑑賞しながら、劇団の新機軸の作品の可能性を模索していたという。劇団四季では『アンデルセン』のプロのダンサー、ニールス役も演じた。
2010年より始動した「堀内元バレエUSA」では、バレエの本場アメリカで培った長年の経験を披露し、2015年には芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。同年より、吉田都と共に二人の貴重な経験を若いダンサーや観客に伝える「Ballet for the Future」の上演を続けた。2021年から始まった「BALLET FUTURE」は、バレエの可能性を広げる革新的なシリーズで、ジャズとのコラボなど、伝統的なクラシック・バレエの枠を超え、親しみやすく現代的な作品を上演している。
〈堀内元 BALLET FUTURE 2026「バレエ・オン・ブロードウェイ」~劇団四季の舞台を彩った振付家のバレエ傑作集~〉は、東京・自由劇場にて、堀内率いるセントルイス・バレエ団と劇団四季の初顔合わせにより、これまで劇団四季で上演された『ウェストサイド物語』のジェローム・ロビンズによる『INTERPLAY(インタープレイ)』、『パリのアメリカ人』のクリストファー・ウィールドンによる『CAROUSEL(回転木馬)よりパ・ド・ドゥ』そして『クレイジー・フォー・ユー』を手がけたスーザン・ストローマン振付の『TAKE FIVE...MORE OR LESS(テイク・ファイブ・モア・オア・レス)』という、ミュージカルとバレエが融合した3作品からなる1部と、堀内自身が主演、構成・演出・振付を務め、2024年セントルイス世界初演時に大好評を博し「BALLET FUTURE 2024」で日本初演された『セントルイス・ブルース』という2部構成のプログラムだった。

オープニング 松本菜緒 ©瀬戸秀美

オープニング 松本菜緒(中央) ©瀬戸秀美
第1部のオープニングでは、劇団四季の松本菜緒が公演の概要を紹介した。劇団四季とセントルイス・バレエ団のアンサンブルが松本を囲み、冒頭から楽し気に踊り始めるのを見ると期待が高まった。1演目の『INTERPLAY(インタープレイ)』はジェローム・ロビンズが『ファンシー・フリー』で一躍脚光を浴びた後に振付けた2作目の1幕バレエだ。20世紀半ばのブロードウェイの黄金時代を築いた興行師ビリー・ローズが自身所有のジーグフェルド劇場で開催していたコンサート・ヴァラエティーズの演目として、モートン・グールド作曲の「アメリカン・コンチェルテッテ」に振付けられ、1945年6月に初演された。このとき、アメリカン・バレエ・シアター(当時はバレエ・シアター)でロビンズと同僚だったアリシア・アロンソもオリジナル・キャストの一人だった。同年10月、『インタープレイ』はバレエ・シアターのレパートリーに加えられ、1952年にはニューヨーク・シティ・バレエのレパートリーになった。スウィング感あふれるリズムに乗せて、セントルイス・バレエ団による男女8人(マグノリア・チェズニー、アメリア・エリック、ローレン・コット、ローリ・ウィルソン、コリン・エリス、ミゲル・ゲバラ、イーサン・マスザー、マシュー・ラスク)による若々しくダイナミックな踊りが繰り広げられる。『インタープレイ(Interplay=相互作用)』というタイトル通り、全員の群舞や男性グループや女性だけの踊り、男女のデュエット、ソロなど様々な隊形でダンサー同士が互いに影響し合って次のムーブメントへ展開していく。クラシック・バレエのテクニックを基盤としながらも、馬跳びや側転などの体操のような動きや、両手を後ろ手に組んだ姿勢など日常的なジェスチャーもふんだんに入っている。仲間内で楽しく戯れ、ライバルと踊りを競うような青春群像が描かれており『ウエストサイド・ストーリー』のファースト・スケッチのような作風だった。ダンサーたちはスピーディーに舞台を動き回りながら、陽気なアメリカン・バレエの世界観を体現した。

『INTERPLAY(インタープレイ)』©瀬戸秀美

『INTERPLAY(インタープレイ)』©瀬戸秀美

『CAROUSEL(回転木馬)よりパ・ド・ドゥ』)佐野奏実、マイケル・バーク ©瀬戸秀美

『CAROUSEL(回転木馬)よりパ・ド・ドゥ』佐野奏実、マイケル・バーク ©瀬戸秀美
次に、クリストファー・ウィールドン振付『CAROUSEL(回転木馬)よりパ・ド・ドゥ』を、劇団四季の佐野奏実とセントルイス・バレエ団のマイケル・バークが踊った。1940~50年代におけるブロードウェイ・ミュージカルの黄金コンビで知られる、作曲家リチャード・ロジャーズと作詞家オスカー・ハマースタイン2世は、モルナール・フェレンツの戯曲『リリオム』を『CAROUSEL(回転木馬)』という題名でミュージカル化し、1945年4月19日にブロードウェイのマジェスティック・シアターで開幕。約2年間に渡って上演が続くヒット作となった。2002年11月、リンカーン・センターでのロジャーズ生誕100周年を記念したニューヨーク・シティ・バレエのオープニング・ナイト公演のために、クリストファー・ウィールドンは『回転木馬』より「カルーセル・ワルツ」と「イフ・アイ・ラヴド・ユー」のオーケストレーション版を使用した本作を創作した。舞台はアメリカ東部メイン州の漁村。回転木馬の呼び込みをする青年ビリーは女工ジュリーと出会い、恋に落ちる。ジュリーもまたビリーに惹かれているのだが、率直な気持ちを互いに打ち明けることができない。そうした二人の不器用な恋が、流れるようなパ・ド・ドゥで描かれる。音楽の盛り上がりと共に、ドラマチックな美しいポーズが紡がれていく。ヒロインを演じた佐野奏実はKバレエ カンパニーに在籍していた時期があり、バレエの基礎がしっかりしていた。ビリー役のマイケル・バークから頬に手を触れられ、さっと身をかわす仕草などが初々しく、表情も豊かだ。バークは丁寧なサポートで佐野の舞姿を美しく見せた。意地っ張り同士の二人だが、心の奥底では気持ちを通わせている様子が、息の合ったデュエットから雄弁に感じられた。

『TAKE FIVE...MORE OR LESS(テイク・ファイブ・モア・オア・レス)』©瀬戸秀美

『TAKE FIVE...MORE OR LESS(テイク・ファイブ・モア・オア・レス)』©瀬戸秀美
劇団四季では『クレイジー・フォー・ユー』『コンタクト』で知られるスーザン・ストローマン。彼女の振付による『TAKE FIVE...MORE OR LESS(テイク・ファイブ・モア・オア・レス)』の音楽は、デーブ・ブルーベック・カルテットが1959年に発表したアルバム「タイム・アウト」からのヒット曲「テイク・ファイブ」である。ストローマン自身も幼少期から親しんできたというこの曲は、5/4拍子という独特のリズムに乗せてアルト・サキソフォーンのキャッチーなメロディーとドラム・ソロの響きが絡み合う。舞台中央で開脚前屈していた黄色のワンピース姿の女性ダンサーが、ドラムの前奏が始まると同時に足先を動かし始め、踊り出す。「テイク・ファイブ(5分休憩して)」と言われても、音楽が鳴ると体が即座に反応するダンサーの生態がさりげなく描写されており、クラシック・バレエとショーダンスが融合した華麗なブロードウェイ・スタイルの舞踊が繰り広げられた。紫の衣裳の女性ダンサーはセクシーに踊り、男性陣は彼女の魅力に取り憑かれ、他の女性ダンサーから呆れられる場面もあった。赤い衣裳の女性ダンサーは情熱的なキャラクターを体現していた。観客を楽しませるショーダンス・スタイルのこの作品をセントルイスのダンサーたちは心から楽しんでいるようだった。また、ストローマンが展覧会に行って影響を受けたというアンリ・マティスの切り紙手法による「イカロス」(版画集「ジャズ」より)の星のモチーフが、背景と男性ダンサー(マイケル・バーク、コリン・エリス、イーサン・マスザー、マシュー・ラスク、森田莉史)の胸元に現れ、スターダムを求めて飛翔するダンサーたちを象徴するように彩っていた。劇団四季から参加した森田莉史は軽やかなステップで人目を引いた。ロビンズの『インタープレイ』では男性ダンサーを中心とした構成であるように思われたのに対し、『テイク・ファイブ・モア・オア・レス』で中心に描かれているのは、女性ダンサーたち(マグノリア・チェズニー、オリビア・コーネリアス、エミリー・フーケット、ジュリア・ハイス、ゾウィ・ミドルトン、ローリ・ウィルソン)だったように感じた。振付家のまなざしが自然と同性のダンサーを丁寧に見つめているように思われたのが興味深い。

『セントルイス・ブルース』より #Overture ~ Awakening of the Blues Toya & Friends(最後列) ©瀬戸秀美

『セントルイス・ブルース』より #St. Louis Blues ~ Prologue & Instrumental Tribute ©瀬戸秀美
第2部の『セントルイス・ブルース』は、1914年にW.C.ハンディが作曲し、成功を収めたジャズのスタンダード・ナンバーに数えられる。劇団四季取締役として企画・国際部門の担当を務めたこともある音楽評論家・安倍寧が、世界中で知られるこの名曲のバレエ化という長年あたためてきたアイディアを進言したところ、堀内は曲が生まれた背景や歌詞の世界観を提示すべく、ニューヨークを拠点に活動する作曲家・徳家"Toya"敦の力を借りて、全7楽章からなる新たな組曲として完成させたのだった。本作品は2024年2月にセントルイスで初演され、地元の観客から喝采を浴び、同年5月末には東京でも1回のみ上演され、再演が待たれていた。#Overture ~ Awakening of the Bluesは、Toya & Friends(徳家"Toya"敦〈Keyboards〉、南明男〈Guitar〉、佐藤邦治〈Drums〉、金森佳朗〈Bass〉、山﨑ユリエ〈Alto Sax〉)による生演奏。一流のミュージシャンたちがコミュニケーションを取りながらスウィング感溢れるライブを繰り広げた。自由で楽しげなプレイが観客の心も沸き立たせる。#St. Louis Blues ~ Prologue & Instrumental Tributeでは舞台横にテーブルや椅子が置かれ、夜の酒場のようなしつらえの中でダンサーたち(ジュリア・ハイス、コリン・エリス、ローレン・コット、アメリア・エリック、イーサン・マスザー、ミゲル・ゲバラ、石橋杏実、石田悠馬、田中勇人、森田莉史、吉田かなは)が語らい、ダンスを気ままに楽しんでいた。セントルイス・バレエ団と劇団四季のダンサーたちが共演しての、男女ペアの華麗なダンスが魅力的だった。#Girls' Blues ~ Swingin' & Swingin'では、劇団四季の8名の女性ダンサーたち(稲葉菜々、宇佐美舞、河津るり子、近藤合歓、竹下里香、武田恵実、千金良奈ノ巴、森田美穂)が、タキシードの胸元を模した黒いレオタードと黒タイツ姿で、ブロードウェイ風のラインダンスをトウシューズで披露した。ダンス、歌、演技とパフォーミングアーツの基礎がある彼女たちは皆、脚を高く上げ、観客一人一人に語りかけるような強いアピール力を備えていた。#Midnight Desireには、赤いワンピース姿の女性(ゾウィ・ミドルトン)と男性(マシュー・ラスク)が夜のしじまの中、愛を語らっていたが、男性が性急に女性に口づけをして、女性は思わず男性を遠ざけてしまう。ほかに、二人の女性ダンサー(マグノリア・チェズニー、エミリー・フーケット)も夜景を美しく彩った。#When the Sun Meets the Moonでは堀内元がオリヴィア・コーネリアスを伴ってデュエットを踊った。芸術監督兼エグゼクティブとして多忙な身でも日々のレッスンを欠かさない堀内は、若く溌溂としたパートナーをスマートにエスコートし、ソロ・パートではアラスゴン・ターンなどを披露。伸びやかに反らした背中や腕の動きの優雅さなどには目を惹き付けられた。#Adagio ~ Blues of Sorrowでは、赤いワンピースの女性(ゾウィ・ミドルトン)が恋人とのすれ違いに悲しむ心をアダージオで表現。最後に恋人が戻ってきて彼女の肩をそっと抱いた。#Finale ~ Rising Loveでの全出演者による華やかなフィナーレ・ダンスの後、#St. Louis Blues ~ Vocal Legacyとして、劇団四季の松本菜緒がダンサーたちに囲まれて『セントルイス・ブルース』をソウルフルに歌い上げて、大団円となった。

『セントルイス・ブルース』より #Girls' Blues ~ Swingin' & Swingin' ©瀬戸秀美

『セントルイス・ブルース』より#When the Sun Meets the Moonオリヴィア・コーネリアス、堀内元 ©瀬戸秀美
ニューヨーク・シティ・バレエ時代の堀内と同僚だったダンサーは、今や高名な振付家や全米各地のバレエ団の芸術監督となっており、良質な作品をセントルイス・バレエ団に提供する供給源となっている。セントルイスで育てているダンサーと、長年に渡る縁で結ばれた劇団四季の新世代のダンサーとが共演を果たしたこの舞台は、日米にまたがる堀内の輝かしいキャリアの集大成をあらためて見ることができる貴重な機会だった。
(2026年4月3日 自由劇場)

『セントルイス・ブルース』より#When the Sun Meets the Moon 堀内元 ©瀬戸秀美

『セントルイス・ブルース』より#When the Sun Meets the Moon ©瀬戸秀美

『セントルイス・ブルース』より#Finale ~ Rising Love 右よりゾウィ・ミドルトン、松本菜緒 ©瀬戸秀美

『セントルイス・ブルース』より#St. Louis Blues ~ Vocal Legacy 松本菜緒(中央) ©瀬戸秀美

カーテンコールで観客の拍手に応える堀内元。後方右は徳家"Toya"敦 ©瀬戸秀美

カーテンコール ©瀬戸秀美
記事の文章および具体的内容を無断で使用することを禁じます。