古典からディズニーでも人気の作品まで、おとぎ話の登場人物が勢揃いした「B.P.P. / Be Princess & Prince ! お姫さま&王子さまになる!」

ワールドレポート/東京

香月 圭 text by Kei Kazuki

B.P.P. / Be Princess & Prince !

「お姫さま&王子さまになる!~バレエの世界のお姫さま&王子さまたち~ 」伊藤範子:監修・振付

神奈川県主催公演「B.P.P. / Be Princess & Prince ! お姫さま&王子さまになる!~バレエの世界のお姫さま&王子さまたち~」に足を運んだ。監修・振付は、『ホフマンの恋』『道化師-パリアッチ-』『HOKUSAI』チャコット主催の『バレエ・プリンセス』などを手掛けた、谷桃子バレエ団の伊藤範子。

第1部の冒頭には、金髪のショートカットに燕尾服をまとった麗人の装いの横山茉美のMCによる、バレエのマイムについての解説コーナーがあった。彼女は2024年10月に上演されたダンスユニット・シャリマー『オズの魔法使い』でおくびょうなライオンを表情豊かに演じ、昨年11月の相模湖野外バレエフェスティバルでも司会進行を務め、踊りもトークも上手い。「私」「あなた」「好きです」というマイムを組み合わせて、「私はあなたを愛しています」というメッセージを横山のリードで観客も身振りで動いてみる。普段、口にもしないようなセリフなので、優雅に演じることがいかに難しいかを思い知る。その点、お手本の横山のマイムはセリフと同様、動きがはっきりしていて非常に雄弁だった。そのほか、頭上で手をくるくると回しての「踊りましょう」というマイムの紹介もあった。

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撮影:ステージフォトブラン 吉川幸次郎
(※「吉」の字は正しくは「土」に「口」/すべて)

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河村南、石黒瑛土
撮影:ステージフォトブラン 吉川幸次郎

幕が開いて、バー・レッスンの稽古に励むダンサーたちの姿が舞台に現れた。ピアノ伴奏は榎本真弓。本日の出演者たちが子どもから大人まで一斉に膝を曲げるプリエから始まり、タンジュ、ジュテ、ロン・ド・ジャンブ・ア・テール、フォンデュ、フラッペ、アダージオ、そしてグランバットマンまでのメニューを黙々とこなしていく。センター・レッスンになると、ダンサーたちがゆったりしたアダージオで優雅なポーズの数々を決めていく。また、アレグロでは、ピルエットやジャンプなど動きが次第に大きくなる。女性の優雅な踊りに対して、男性の回転や跳躍はよりダイナミックになった。ダンサーたちはこうした地道なバレエ・クラスを毎日繰り返すことにより、基礎に立ち返って踊りに磨きをかけていく。ダンサーたちの日々の努力にあらためて感銘を受けた。
バレエ・クラスの後、『眠れる森の美女』よりフロリナ姫のヴァリエーションを市川由凛菜と伊藤紗、そして子役の河村南が披露した。続いて『くるみ割り人形』より王子のヴァリエーションを2024年「ビリー・エリオット」役でも知られる石黒瑛土が踊った。どちらも日頃の練習の成果が感じられる出来栄えだった。石黒はビリーの頃より成長した姿を見せた。河村と石黒はバレエが大好きな少女と少年として、様々な作品に登場するお姫さま、王子さまに興味津々という設定。二人はナビゲーター役として、セリフもふんだんにあったが、自然体の芝居を上手くこなした。年上の石黒が河村に優しく話しかけると、河村が目を輝かせてバレエについての博識ぶりを語って聞かせる様子が微笑ましかった。2016年の「バレエ・プリンセス」のときは、案内役の少女が絵本に導かれてバレエの物語の世界に入り込んでいったが、今回は二人がスマートフォンで作品について検索していたのも、時代の流れを感じさせた。

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『白雪姫』より 山口緋奈子
撮影:ステージフォトブラン 吉川幸次郎

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『白鳥の湖』より 阿部碧、浅井敬行
撮影:ステージフォトブラン 吉川幸次郎

第2部のバレエ公演の部でのトップバッターは『白雪姫』より。タイトル・ロールを谷桃子バレエ団の山口緋奈子が演じた。白雪姫は、継母女王の魔の手を逃れ、7人の小人と森でひっそりと暮らしている。愛らしくおっとりとした雰囲気の山口が、小人たちと楽しげに踊る様子が活写されていた。小人役の子どもたちも元気いっぱいに踊った。しっかり者の子ども、柔軟性に富み、脚がよく上がる子ども、側転が上手な子ども、白雪姫を独占したい甘えん坊の末っ子キャラクターなど個性も様々だった。
続いては『白鳥の湖』より、オデット姫と井上バレエ団の阿部碧、ジークフリート王子を志村バレエの浅井敬行が演じるグラン・アダージオ。悪魔ロットバルトの呪いにより、白鳥に変えられたオデット姫とジークフリート王子が、ゆっくりと心を通わせていく様子がチャイコフスキーの崇高な音楽に乗せて展開していく。阿部は浅井の腕に抱かれて、美しいポーズを重ねていった。腕や頭、脚の動きが白鳥を連想させ、見事だった。また、背景幕に投影された立石勇人の映像(バックドロップ・プロジェクション)も、物語の世界を表現するのに大きな役目を果たした。『白雪姫』では静止画像だと思っていたが、『白鳥の湖』では湖面がさざめいたように感じた。

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『アラジン』より 山本達史、酒井友美
撮影:ステージフォトブラン 吉川幸次郎

〈『アラジン』より〉では、客席からタイトル・ロールの山本達史が舞台に飛び込んできた。音楽は、ディズニー映画の「ア・ホール・ニュー・ワールド」をピアノ・アレンジした楽曲で、榎本真弓が演奏。宮殿に忍び込んだアラジンは、女官たちにかしずかれた可憐なプリンセス(酒井友美)に一目惚れ。最初は驚いたプリンセスもアラジンと意気投合、魔法の絨毯に乗って、窮屈な宮殿から外の世界へと飛び立つ。エキゾチックなアラビア風のステップや躍動感のあるパートナリングが際立つ、現代的なパ・ド・ドゥだった。山本の飄々とした風情がアラジンの好奇心旺盛なキャラクターにふさわしく、酒井は、前半の大人しい風情から、自我に目覚めて表情が輝いてくるプリンセスの変化を鮮やかに演じた。背景には宮殿の中から絨毯が夜空へ飛び出していく動画が投影され、この作品以降、立石勇人の手がけるプロジェクションは、よりダイナミックになっていった。
〈『シンデレラ』より〉には、塩谷綾菜と林田翔平のスターダンサーズ・バレエ団ペアが登場。塩谷は、煌びやかなチュチュとティアラに身を包み、プロコフィエフの疾走感ある音楽に乗せて、華麗に踊る。清楚な雰囲気と舞踏会に初めて訪れたときの心のときめきが表れて、まさにシンデレラそのもの。林田は、長身で堂々たる体格を生かしたダイナミックな跳躍が光った。二人が初めて踊るデュエットでも安定のサポートを発揮した。道化役の野村駿介は、宮殿を軽やかな跳躍や回転で駆け巡り、舞踏会のシーンを華やかに彩った。

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『アラジン』より 山本達史、酒井友美
撮影:ステージフォトブラン 吉川幸次郎

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『シンデレラ』より 野村駿介
撮影:ステージフォトブラン 吉川幸次郎

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『シンデレラ』より 塩谷綾菜、林田翔平
撮影:ステージフォトブラン 吉川幸次郎

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『美女と野獣』より 斎藤ジュン、浅井敬行
撮影:ステージフォトブラン 吉川幸次郎

〈『美女と野獣』より〉でベルに扮したのは斎藤ジュン(東京シティ・バレエ団)、野獣(王子)を浅井敬行が務めた。野獣の心の優しさに惹かれるベルと、彼女を愛しているものの、みにくい外見のため、ベルに告白する勇気を持てない野獣。ベルは積極的に野獣に手を差し伸べ、二人きりで踊り始める。ヒロインがリードしていく現代的な恋愛ストーリーだった。音楽はディズニーのテーマソングのピアノ・アレンジで、榎本真弓による演奏。野獣もベルに対して少しずつ心を開いていく。二人の愛がゆっくりと育まれていく様子を、伊藤範子がロマンチックな振付で描いた。二人の心の高まりがそのまま舞踊化されたようなドラマチックなリフトも印象深い。黄色いロングドレスの裾を翻しながら浅井にエスコートされて踊る斎藤の至福の表情も素敵だった。
最後は『眠れる森の美女』より、オーロラ姫とデジレ王子の結婚式のグラン・パ・ド・ドゥを沖香菜子(東京バレエ団プリンシパル)と秋元康臣(元東京バレエ団プリンシパル)が踊った。ボリショイ・アカデミーで正統派のロシア・バレエを学んだ二人は、プティパの振付を正確に再現。オーロラ姫に似つかわしい気品があり、優雅に踊る沖は、表情も豊かで観客の眼を惹き付ける。アームスの美しさも際立っていた。秋元のサポートも的確で、パートナーの沖を伸びやかに踊らせていた。秋元のヴァリエーションもデジレ王子にふさわしくノーブルな踊りだった。秋元は跳躍の後、正確な5番ポジションに降り、着地音もしなかった。フィナーレは『眠れる森の美女』の結婚式のコーダの楽曲に合わせて、出演者全員が登場して大円団となった。

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『美女と野獣』より 斎藤ジュン、浅井敬行
撮影:ステージフォトブラン 吉川幸次郎

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『眠れる森の美女』より沖香菜子、秋元康臣
撮影:ステージフォトブラン 吉川幸次郎

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フィナーレ
撮影:ステージフォトブラン 吉川幸次郎

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伊藤範子(中央)
撮影:ステージフォトブラン 吉川幸次郎

展示室でのぬりえ

展示室でのぬりえ、バレエ衣裳の生地、ティアラやトウシューズ

別室では、バレエの衣裳や小道具の展示コーナーがあった。『エスメラルダ』のタンバリンは音楽の授業で使うタイプより小ぶりだが、持ってみると、意外と重みが感じられた。また、羽根で彩られた扇子は大きく、これらの小道具を自在に操りながら優雅に踊ることは至難の業であることが体感できた。チュチュの裾に使用されるチュールや柔らかい素材の生地、ティアラなどに触ることができるコーナーもあり、訪れた子どもたちは普段身に着けている洋服と異なる素材の手触りを確かめたり、ティアラを付けたりして楽しんでいた。お姫さま、王子さまなどの古典作品の衣裳は、近くで見ると繊細な刺繍やビーズが数多く縫い付けられて、高貴な雰囲気を帯びていた。ぬりえコーナーでは、バレエの衣裳の下絵に、子どもたちが思い思いに色付けをしながら、バレエの世界へすっと入り込んでいるようだった。
バレエは敷居が高いといわれるが、全幕公演の鑑賞にチャレンジする前に、様々な世界のお姫さまや王子さまが登場するバレエ作品のエッセンスを抽出した、今回のような公演は分かりやすく、バレエ入門には最適だと思われる。日々の稽古を積み重ね、精進の末に花開くバレエ芸術の奥深さの一端に触れ、バレエの世界へもっと足を踏み入れてみたいと思わせる公演だった。
(2026年3月15日 神奈川県立相模湖交流センターラックスマンホール)

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