牧阿佐美バレヱ団「DANCE ALOUD 2026」が開催され、スタジオパフォーマンスに6名の有志ダンサーが振付作を発表した
- ワールドレポート
- 東京
掲載
ワールドレポート/東京
小野寺 悦子 Text by Etsuko Onodera
牧阿佐美バレヱ団の有志ダンサーが振付け・発表をする人気企画「DANCE ALOUD」。観客にとっては手の届くほどの距離でダンサーを目にするまたとない機会であり、振付家・ダンサーにとっては観客の反応をダイレクトに知る貴重な場でもある。また過去には本企画で才能を認められたダンサーの田切眞純美がバレエ団の新作「子供のためのバレエ『シンデレラ』」の振付に抜擢された例もあり、新進振付家発掘の場として注目されるところだ。
今年は代官山ヒルサイドプラザから牧阿佐美バレヱ団の中野スタジオに会場を移し、スタジオパフォーマンス形式で開催。鑑賞申し込み開始後わずか20分で満席になり、追加公演が設定されるなど、関心の高さがうかがえる。
今回は、渡會慶、岡本尚之、永堀瑠唯、坂田温朗、前田龍生、小笠原征諭の6名が自作を発表。バレエ団の公演とは違い、振付家はキャスト選びからはじまり、衣裳、メイク、小道具まで全て自らの手で創り上げる必要がある。振付に加え、演出力が問われ、踊り手とはまた違うこだわりや才能の表出も興味深い。
渡會慶 振付作品『稽古場と4人のための習作:01 特別に』
「Case Study:01 for a Rehearsal Room and Four Bodies」
出演:大川航矢、近藤悠歩、前田龍生、坂田温朗
渡會は入団10年の中堅で、「DANCE ALOUD」には3度目の出品となった。今回はプリンシパルの大川航矢を初めて自作に起用し、コンテンポラリー作品を創作している。
4人の男たちがスタスタと歩き、ふと立ち止まり、個々にソロを踊り出す。列になり、ばらけ、そしてまた集う。男たちはがっしりとタックルを組み、バッハの旋律が流れると途端に優雅な時間が漂う。
振付と即興の境界を探る試みで、その曖昧な動きを舞台上に配置した、スタジオ・パフォーマンスならではの実験作だ。さまざまな個性を持つキャストのぶつかり合いも楽しく、クラシックの身体性とはまた異なる彼らの資質を垣間見る好機に。

「稽古場と4人のための習作 01特別に」振付=渡會慶、出演=大川航矢、近藤悠歩、前田龍生、坂田温朗

「Fruit-Basket」振付=岡本尚之 出演=三宅里奈、小池京介、池澤嘉政
岡本尚之 振付作品『Fruit Basket』
出演:三宅里奈、小池京介、池澤嘉政
岡本は入団4年で、今回初振付に挑戦。これまでの「DANCE ALOUD」を見て、背中を押されての出品だ。
チャイコフスキーを楽曲に、3人の男女が駆け引きを繰り広げていく。三宅が小池をたぶらかし、池澤を攻撃し、あやつり、あやつられ......。岡本いわく、バレエ団公演『ドン・キホーテ』でメルセデスを踊る姿を見て三宅を本役に起用したというが、美しく華のあるダンサーで、悪い女がよく似合う。三宅は黒いロングスカートを纏い妖艶に踊り、力強い視線で男たちをまどわせる。小池は純朴な面持ちで女の手に絡め取られ、池澤はどこかダークな気配で介在し、男女の関係性を密に描いた。
永堀瑠唯 振付作品『ラ・カンパネラ』
出演:永堀瑠唯
永堀は海外バレエ団で経験を積み、2024年に入団。今回は初出品で、リストの『ラ・カンパネラ』を楽曲に自作自演のソロを発表している。留学時代に聴いてい辻井伸行の『ラ・カンパネラ』に魅了され、いつか振付をしたいという願いを叶えた形だ。
物語はなく、音に触発されて動きが生まれる。クラシックのラインとは一線を置き、コンテンポラリーの素地を生かしつつ、一部に即興を加味。「何にも縛られない身体表現」を題材に、どこまでも内に向かい、集中力をもって踊り切った。
坂田温朗 振付作品『Three To Tango』
出演:渡會慶、佐野まひる、土屋文太
坂田は昨年入団し、今回が初出品。昨年の「DANCE ALOUD」が彼にとって牧阿佐美バレヱ団での初舞台であり、そこで参加を決めたという。英国ランベール・スクール・オブ・バレエ・アンド・コンテンポラリーダンスで学び、学生時代にテスト等で創作を経験しているが、本格的な作品の発表はこれが初とのことだ。
トリオを踊る男女キャスト3人が実にチャーミング。喜怒哀楽をこれでもかとみせ、観客の視線を捉え、自らもステージを楽しみ尽くす。坂田いわく、普段から表情豊かな3人を人間性で選んだというが、狙い通りのベストキャストといえよう。ダンスと普段の生活の狭間に目を向け、動きを抽出し、ダンスの概念を広く捉えて作品に落とし込む。遊び心たっぷりで、かつ構成力に優れ、みせるところはしかとみせる。ユーモアを存分にちりばめ、親しみやすい小品に仕上げていた。
前田龍生 振付作品『Slowly But Surely』
出演:檀上侑希
前田は入団5年で、「DANCE ALOUD」での自作発表は3回目。今回は先輩ダンサーの檀上をキャストに起用し、ソロ作品を創作している。
「人生の困難に直面した時、人は何を頼りに前に進んでいくのか」という問いからはじまり、一つ一つの振りに意味をもたせ、ストーリー仕立てで展開していく。楽曲はドビュッシーの『夢想』。丁寧に紡ぎ出した動きを、檀上がしっとりと心情豊かに踊る。彼女が鎖を断ち切り、ふと解放される瞬間が印象的。バレエ団公演では愛らしい役が多い檀上の新たな一面をみせた作品で、それはまた日々肩を並べて踊るダンサーだからこそ引き出せたものだろう。本企画の可能性を改めて提示した感がある。
小笠原征諭 振付作品『狂言師』
出演:今村のぞみ、阿部千尋、鈴木佑菜、鰐渕ののか、生沼優里、竹内ひかる、小笠原征諭
真紅の鳥居を背景に、小笠原が鈴の音を響かせ、居合刀を手に持ち一人舞う。刀はずっしりと重量感をもち、厳かな雰囲気が漂う。やがて6名の女性たちが登場。彼女たちは女神で、ポワントで歩みを刻む姿は崇高で楚々とした美しさを感じさせた。表情を消し静かに男を囲む女神たちと、彼女たちにまどわされる一人の男。彼は一人一人と踊り、リフトで女神を掲げ、やがて崩壊していく。クラシックに日本的な美しさを重ね合わせ、独自の作品世界を創り上げた。

「Three-To-Tango」振付=坂田温朗 出演=渡會慶、佐野まひる、土屋文太

「狂言師」振付=小笠原-征諭 出演=小笠原征諭、今村のぞみ、阿部千尋、鈴木佑菜、鰐渕ののか、生沼優里、竹内ひかる

「ラ・カンパネラ」振付・出演=永堀瑠唯

「Slowely-But-Surely」振付=前田龍生 出演=檀上侑希
記事の文章および具体的内容を無断で使用することを禁じます。