古典バレエの予定調和を現代の視点で脱構築する「POLA presents BALLET TheNewClassic 2026」についてプロデューサーの堀内將平が語った〈2〉
- ワールドレポート
- 東京
掲載
ワールドレポート/東京
インタビュー=香月圭
K-BALLET TOKYOのプリンシパルとして活躍をした後、2026年1月よりアソシエイト・アーティスト(旧ゲスト・アーティスト)となった堀内將平。海外のバレエ団で見識を深め、スタイリッシュなバレエを演出した公演「BALLET TheNewClassic」で成功を収めるまでの経緯は堀内將平インタビュー〈1〉をご参照いただきたい。7月30日~8月2日に新国立劇場・中劇場にて開催される「POLA presents BALLET TheNewClassic 2026」では、井上ユミコをクリエイティブディレクターに迎え、堀内自身はプロデュースを務める。演目と出演ダンサーを含む公演の概要について堀内に聞いた。
――7月30日~8月2日に「POLA presents BALLET TheNewClassic 2026」が上演されます。「躾の良い不良たち それは洗練という名の反逆」と銘打っています。
堀内 「躾の良い不良」というのは、マガジンハウスの編集者だった北原徹さんが考えてくださった言葉で、2021年中止公演「BALLET TheNewClassic」の"幻の"パンフレットに、衣裳の幾左田千佳さんのことを形容した言葉です。今回の僕たちの公演における理念や価値観を視覚的に表現するブランド・バリュー・ステートメントをチームで考えたときに、感度の高い方々にも響くようなフレーズを検討しました。その過程で、北原さんの「躾のある不良」という表現に「〈身体〉が〈美しい〉と書いて〈躾〉という字になる。これは、まさにバレエダンサーのことだ」と皆が納得して、このキャッチコピーが採用されたのです。「BALLET TheNewClassic」は伝統や格式を大切にしながらも、新しいことにも挑戦していきたい、という思いが「躾の良い不良」という言葉に全て込められていると思います。

中村祥子、堀内將平『眠れる森の美女』より ローズアダージョのリハーサル
©Fukuko Iiyama
――今回のプログラムについて教えてください。
堀内 1幕は前2回と同じ7作品、2幕は規模が大きい作品を1つ創ります。
――〈『眠れる森の美女』よりローズアダージョ〉には中村祥子さんが主演します。2022年でも同じ演目が上演され、水谷実喜さんがオーロラ姫を演じました。
堀内 ローズアダージョに登場するオーロラ姫は16歳の女の子という設定です。バレエ作品の登場人物は皆とても若く、ジュリエットは14歳くらい、そして『ジゼル』のヒロインは未婚の村娘という設定です。バレエ作品の演者は、役の年齢に近いことが好まれる傾向にあり、30代のバレリーナがこのような若いヒロイン役を踊ると、見た目が若干辛いと見なされることがあります。ピアノやヴァイオリンなどの楽器演奏者の年齢は関係ないのに、バレエ界のこのような傾向を疑問に思います。ダンサー自体の完成度においては、20代が体力のピークを迎えますが、30歳頃に精神面での成熟を迎え、芸術性が一層高まると言われます。40歳を過ぎると、ダンサーは基本的には引退するのが一般的ですが、役の年齢をダンサーの実年齢に寄せてあげた方がもっと面白くなるのでは、と僕自身は考えます。そこで、オーロラ姫の年齢を引き上げ、現役ダンサーとして長年活躍されている(中村)祥子様に踊っていただきたいと思った次第です。 今回のローズアダージョでは前回よりさらに大人な女性像を描きたいと思っています。 また、オーロラ姫と踊る王子役は杉野慧さん、西口直弥さん、中島駿野さん、仲村啓さん、渡部義紀さん、二階堂由依さん、モデルの鈴木亜美さんという男女混合7人に増やします。

中村祥子、堀内將平『眠れる森の美女』より ローズアダージョのリハーサル
©Fukuko Iiyama

堀内將平、リハーサルにて
©Fukuko Iiyama
――男女7人をパートナーとして踊るのですか。
堀内 はい。現代のフェミニズムについて、僕なりの解釈を作品に投影したいと思います。皆様をあっと言わせる設定を考えておりますので、期待してください。それから、ローズアダージョは原曲の音楽が可愛いすぎると感じたので、ピアノ・アレンジを検討しました。編曲を進める中では、クリエイティブディレクションを務める(井上)ユミコさんの発案で、メロディを右手で演奏するのをやめて左手の伴奏だけ聴いてみたことも。伴奏だけ聞いていても、メロディは自然と脳内で再生されるので、大人っぽいしっとりした曲調になるんです。エイジフリーの現代にふさわしいローズアダージョの世界観を創出できたと自負しています。

飯島望未『444』のリハーサル
©Fukuko Iiyama
――『444』と題した新作が予定されていますが、どのような作品になりそうですか。
堀内 飯島望未さんにご出演いただくのですが、海外で活躍されていた頃に、僕が彼女に対して抱いていた、かっこ良いイメージを引き出せるような作品を準備中です。先日、ビリー・アイリッシュのコンサートを観に行ったのですが、演出もすごくエキサイティングで、とても刺激を受けました。僕たちの公演でも、望未さんの魅力を最大限に活かすための見せ方を追求していきます。
――バレエ以外のジャンルのものも観ていらっしゃるのですね。
堀内 はい。前回の「 BALLET TheNewClassic 2024」のオープニング作品のクレイグ・デヴィッドソン振付『Anomalous』での、佐々晴香さんがドラムの音に合わせて踊る姿というのはある意味、衝撃的だったのではないかと思います。バレエ公演では、お客様がすでにご存知の古典の演目を優れたダンサーが踊るという予定調和が期待されていることが多いと思いますが、この公演では、新しいアイディアでお客様に新鮮な驚きをご提供したいと考えています。

飯島望未、振付家リオン・ワトリー『444』のリハーサル
©Fukuko Iiyama

飯島望未、振付家リオン・ワトリー『444』のリハーサル
©Fukuko Iiyama
――吉山シャール・ルイさんによる『Charles』はどんな作品になりそうでしょうか。
堀内 「バレエ・アステラス2023」で拝見したシャールさんの〈『アルルの女』よりラストソロ(ファランドール)〉が圧倒的なインパクトを放っていて、とても素晴らしいと思いました。ユミコさんも別の舞台で彼がこの作品を踊るのを観て、やはり同じ感想を抱いたそうです。『アルルの女』は著作権の関係で今回は上演できないので、僕が創ることになりそうです。ドラマチックで情熱的で、ステップもコンテンポラリーではなく、あくまでクラシックをベースにしながら、シャールさんのパッションが爆発するようなソロ作品を予定しています。
――『ドン・キホーテ』より グラン・パ・ド・ドゥは、佐々晴香さんと太田倫功さん、そしてソ・ユンジョンさんと三宅啄未さんの2組のキャストになっています。
堀内 盛り上がる作品を一つは入れたいということでプログラム入りしました。この作品を踊るのはダンサーにとって大変なので、2キャストで組みました。1組目は佐々晴香さんと太田倫功さんという大人の魅力あふれるペアで、2組目は瑞々しくてフレッシュな三宅啄未さんとガールフレンドのソ・ユンジョンさんのペアに決めました。原典の『ドン・キホーテ』に対してどのように新鮮なアレンジを施すのか、様々な検討をしました。ステップや踊り方を変えたり、オリジナル・スコアを編曲したりしてみましたが、僕が望むようなかっこ良さを引き出すのが難しいのです。音楽と振付はそのままにして、衣裳をかわいい感じにしたら、世界観が異なって見えてくるかもしれないと思いつき、その方向性を検討しています。僕自身は、元々、インパクトのある演出でお客様を驚かせたいと思っていました。イヴ・サンローランが台湾人の蔡國強(ツァイ・グオチャン)という現代美術家に依嘱した華麗なアートプロジェクトには度肝を抜かれました。2023年6月、福島県いわき市四倉の海岸で約4万発の白天花火(昼間に打ち上げる花火)を打ち上げ、昼の空がカラフルに染まったという壮大なアートイベントでした。この演目においては、花火ではなく、インドのホーリー祭のようにカラフルな色粉や色水を投げつけ合うというアイディアを提案したところ、舞台監督からはOKが出ず(笑)、照明デザイナーの久松さんを交えて演出を考えているところです。
――『Coppélia』(新作)はどういった作風なのか、気になります。
堀内 今回の演目についてブレインストーミングしているときに、再びユミコさんから「AIに恋する男の子の話という設定はどうかな」というアイディアが炸裂したのです(笑)。一見、突拍子もない案にも思えましたが、よく考えると、その発想は「現代におけるコッペリアではないか」という解釈へと発展していきました。『コッペリア』は、本来は人形に恋する男の子が登場する話ですが、僕は割と切ないストーリーが好きなので、舞台設定を近未来にして、アンドロイドに恋する若者の話という風に翻案して、ウォン・カーウァイ監督の「2046」、スパイク・ジョーンズ監督の「Her/世界でひとつの彼女」やミシェル・ゴンドリー監督の「エターナル・サンシャイン」、ゾーイ・カザン監督の「ルビー・スパークス」といったSF映画のような世界観を表現したいと考えました。最近、振付を進めているのですが、コッペリアのようなロボット感の強い動きにすると、恋する男性がわざとらしく見え、反対に映画の登場人物のように自然な動きを舞台に乗せると表現が繊細すぎてお客様にうまく伝わらない気がします。振付で表現することの難しさを痛感しながら、色々と試行錯誤をしているところです。
――『Coppélia』に出演するのは、2022年公演の『シェヘラザード』で堀内さんと官能的なデュエットを披露した横山瑠華さんと、今回初登場となる南江祐生さんのペアです。
堀内 南江さんについては、ユミコさんがアーティスティックな雰囲気があると以前から評していました。僕自身は、MISIAさんのツアーで南江さんとご一緒するようになってから、彼はやはりいいダンサーだなと思いました。『Coppélia』のような新感覚の作品では、南江さんみたいに透明感があってどこか繊細で脆さを感じさせ、芸術的感度の高いダンサーが似合うと思い、彼をキャスティングさせていただきました。一方、横山瑠華さんはインスタグラムなどを拝見すると「この人は本当に人間なのだろうか」とさえ思えてくるような完璧さを備えた方なので、彼女がAIで創られたコッペリアを演じたら面白いのではないか、ということで、お二人をキャスティングしました。
――『Coppélia』はバレエにAIを絡ませた作品なのですね。
堀内 実は、ChatGPTにストーリーを書かせてみたところ、意外と面白い筋書きが出来上がったのです。「僕(主人公の若者)が恋をしているのは彼女なのか、それとも僕の記憶な中の彼女なのか」という感じの切ない物語を3バージョンくらい書いてくれました。それらから抜粋して、今回の作品を構築していこうと思っています。
――『Coppélia』にはどんな音楽が使われていますか。
堀内 レオ・ドリーブの『コッペリア』の音楽も使われています。ミーティングを重ねるうちに、キャッチコピーを考えてくださった北原徹さんがジョン・レノンとオノ・ヨーコさんが作ったエクスペリメンタルな「レボリューション9」という楽曲のことを話してくださいました。「ナンバー9」というフレーズがずっと繰り返される7分ぐらいの楽曲で、会話やテープの逆再生音や騒音などの音素材をコラージュした、すごくかっこいい曲です。 このような不可思議な世界観の音楽を、ニューヨーク大学で映画音楽を専攻しているショーンくんという学生ミュージシャンに作ってもらいました。
――井上ユミコさんの発想は実に豊かですね。
堀内 彼女の発想は常人のななめ上を行くのですが、僕はそれをうまく着地させるのが得意なので、お互いに相性がいいのです。
――三森健太朗さんによる『Every Time I Feel The Spirit』はどんな作品になりそうでしょうか。
堀内 三森さんは、前回ご一緒したときにファッショナブルでかっこいいイメージを抱いていたのですが、実際にお会いしたら、楽天的でいつもハッピーな方で「いいですね。やりましょう!」とすぐに話に乗ってくれます。今回お願いするにあたり、三森さんの陽気さを引き出した作品を創りたいと考えています。

日髙世菜、中島瑞生『白鳥の湖』よりアダージョのリハーサル
©Fukuko Iiyama

日髙世菜、中島瑞生『白鳥の湖』よりアダージョのリハーサル
©Fukuko Iiyama
――中島瑞生さんと日髙世菜さんによる〈『白鳥の湖』よりアダージョ〉について、解説をお願いします。
堀内 ルーマニアに住んでいたとき『白鳥の湖』で鏡を使用した舞台セットが使われていたのが印象に残っています。照明・空間デザインの久松夕香さんと、ユミコさんを加えて協議しながら、ユニークな視覚演出を創出したいと考えています。衣裳についても、ユミコさんのアイディアを基に、伝統に囚われないデザインにしたいと思っています。
――第2幕は「バレエレッスン」となっています。
堀内 2幕は全員出演する作品が良さそうだと思いました。友人とご飯を一緒に食べたときに「2幕ではバレエレッスンをテーマにした作品がいいのでは」という話が出て、面白そうだと思ったので、その案を採用しました。ユミコさんがバレエにはまったきっかけも、実はバレエレッスンでした。彼女は元々バレエに全く興味がなかったのですが、ある日、ヴォーグ誌から、パリ・オペラ座バレエ団の来日公演の舞台裏のバレエクラスを撮影する依頼を受け、何の予備知識もなく現場へ向かったそうです。最初は皆ウォームアップ・ウェアを着込んでいますが、身体が温まると上着をどんどん脱いでいって美しい肉体があらわになっていってドキドキしたそうです。レッスン後半ではダンサーたちがジャンプしながら、ユミコさんのカメラレンズめがけて飛び込んでくるのを目の当たりにして「自分は最高の被写体に出会った!」と確信したそうです。バレエレッスンはダンサーにとってのアイデンティティでもあり、さらには人生そのものである、とも言えます。この作品では、リアルなレッスンを披露するわけではないのですが、バレエレッスンからインスピレーションを受けた作品を作れたらいいなと思ってます。
――バレエレッスンをテーマに、どのように演出するのでしょうか。
堀内 前回の公演では〈『白鳥の湖』よりオデット〉がすごく評判が良かったです。出演ダンサーの二山治雄さんが素晴らしく、音楽はソプラノ歌手の新井理沙さんが歌ってくださって、衣裳も照明も全部創り込んだので、そのときのレベルまで全てを持っていきたいという思いから、今回も1幕は要素を多く盛り込みました。一方で、2幕も同じ調子でいろいろなものを詰め込み過ぎると、洗練から遠ざかってしまうのではないか、という意見がユミコさんから出ました。3月に開催されたファッション・ウィークの話題になり、シャネルには莫大な予算があるので、デザインされたセットを組んで豪華な空間を創ることができたわけですが、クリストフ・ルメールのショーはランウェイではなく、背景に幕を垂らした劇場の舞台で見せたことが非常にユニークでした。モデルにちょっとした動きをつけることによって、演劇を観ているような感じでした。緻密に作り込まれていながらも抜け感があり、それがとても今の気分を感じさせるのです。 「お金を潤沢に使わなくても工夫を凝らすのがクリエイティブだ」という方向性で意見が一致し、僕たちの公演でも「派手な演出を施すのではなく、ダンサーのかっこ良さを引き立たせる演出を実現したい」と皆で話しました。

日髙世菜、中島瑞生『白鳥の湖』よりアダージョのリハーサル
©Fukuko Iiyama
――「POLA presents BALLET TheNewClassic 2026」はさらに更にパワーアップしているようです。公演を楽しみにされていらっしゃるお客様にメッセージをお願いします。
堀内 「BALLET TheNewClassic」は、ここ数年で一番良かったです、と言ってくださる方もけっこういらっしゃいますので、バレエ・ファンだったらこの公演をご覧になるべきだと思います。例えば、二山治雄さんといえば『ドン・キホーテ』や『ラ・シルフィード』『薔薇の精』を踊る姿が想像できますが、「BALLET TheNewClassic 2024」で彼の『白鳥の湖』において、あのような衝撃的なパフォーマンスが生まれるとは、誰が想像できたでしょうか。あの白鳥ほど彼にふさわしい作品はないと僕は信じています。「BALLET TheNewClassic 2022」での二山さんの『ボレロ』も然り、僕たちは彼の良さを引き出し、皆様の想像以上に面白い作品をお届けできたと思っています。「BALLET TheNewClassic」で舞踊監修を担当した僕については、皆がやらない変わった演目を手がけた人といったイメージが持たれているようですが、決してそうではありません。ごくオーソドックスなものも好きですし、演目の中にも、必ず古典作品を入れていたりと、バレエ愛はすごくありますし、バレエに対するリスペクトの気持ちは強いと自負しています。古典を踏襲はしながらも、前回よりもパワーアップしている自信はありますので、ぜひ観にいらしてください。
「POLA presents BALLET TheNewClassic 2026」

日程:7月30日(木) 18 : 30、7月31日(金)13 : 00 / 18 : 00、8月1日(土)13 : 00 / 18 : 00、8月2日(日)13 : 00
会場:新国立劇場・中劇場
クリエイティブディレクター:井上ユミコ(ALEXANDRE)
プロデューサー:堀内將平
出演:飯島望未、日髙世菜、太田倫功、佐々晴香、ソ・ユンジョン、中島瑞生、中村祥子、南江祐生、三森健太朗、三宅啄未、横山瑠華、吉山シャール・ルイ
公式ウェブサイト:https://www.balletthenewclassic.tokyo/

飯島望未 ©︎novembre_dancer

日髙世菜 ©︎Yumiko Inoue
記事の文章および具体的内容を無断で使用することを禁じます。