東京バレエ団が『かぐや姫』(金森穣演出振付)を3年ぶりに全幕再演し、日本発のレパートリーとして世界を目指す。公開リハーサル・レポート

ワールドレポート/東京

小野寺 悦子 Text by Etsuko Onodera

今年5月、東京バレエ団が『かぐや姫』を3年ぶりに全幕再演。開演に先駆け、演出振付の金森穣と演出助手の井関佐和子を指導に招き、マスコミに向け公開リハーサルが開催された。

『かぐや姫』は、東京バレエ団がNoism Company Niigata芸術総監督・金森穣に委嘱し創作された。東京バレエ団にとってはモーリス・ベジャール振付『M』以来30年ぶりのオリジナル全幕作品となり、大きな注目を集めてきた。
プロジェクトの発足は2020年で、2021年11月に第1幕を上演し、2023年4月に第2幕を上演。2023年10月、東京・上野の東京文化会館で「東京バレエ団創立60周年記念シリーズ1」として全3幕の世界初演を迎えている。

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© Shoko Matsuhashi

金森は日本最古の物語文学と言われる『かぐや姫』(竹取物語)を題材に、オリジナル台本を執筆。クロード・ドビュッシーの楽曲を全編に用いてグランド・バレエを描き出している。
キャストは2組で、主演のかぐや姫には秋山瑛と足立真里亜、道児は大塚卓と柄本弾を配役。この日は秋山と大塚を中心に、パ・ド・ドゥのリハーサルが行われた。

道児はストリートチルドレンで、かぐや姫の初恋の相手。名曲『月光』で踊る二人のパ・ド・ドゥは大きな見所の一つであり、指導にも力が入る。振付はクラシック・バレエをベースにしつつ、金森がNoismのために考案したNoismバレエやNoismメソッドが盛り込まれる。重心の位置に、拮抗する身体、力の配分と、古典のパとは勝手が違う。パ・ド・ドゥはリフトが多用され、とりわけ難度が高い。
大塚は前回公演では帝役を踊り、道児は今回初役となる。リフトのタイミングが合わず苦心する大塚に、「先に(秋山の身体を)触って」と井関が助言。触れる微妙なタイミングの違いで、わずかなズレが埋まっていくのがわかる。秋山には、「もっとおてんば感を。道児に思い切って飛び込んで!」と金森が指導し、秋山もまた華奢な身体を駆使しかぐや姫を自分のものにしてみせる。最大の難所である片手でのリフトでは、金森が自ら手本となってみせる場面も。金森の実演により、二人の動きもみるみるスムーズに。さらにリフトからの着地、サポートの手の位置、足の運びと、細部にわたり修正が続く。全ての作業が緻密で、美しく繊細なパ・ド・ドゥの所以を垣間見たリハーサルだった。

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© Shoko Matsuhashi

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リハーサル後は、金森と斎藤友佳理東京バレエ団団長の囲み取材が実施された。

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再演にあたり、「初演の時はこの世に存在しない作品を創るために、限られた時間の中でエネルギーをかけて作品を生み出す。ただ、生み出してみてから、もう少しこうが良かったと、いろいろな気づきがある。そこをさらにブラッシュアップできているので、ぜひ楽しみにしていただきたい。初演より素晴らしい作品になると願っています」と金森。

斎藤団長は「3幕ができ上がったとき、本当にこの作品を創ってもらってよかったと思った。東京バレエ団にとっても、今の東京バレエ団のダンサーたちにとっても、絶対に必要な作品になっている」と手応えを改めて口にする。
また、そもそもの本作の委嘱のきっかけに、「海外へ誇れる日本のオリジナルレパートリーを」という願いがあったと言い、具体的な海外公演については「まずは1幕を、その後全幕で持っていけたらというのが理想。近いうちに発表できることを願っています」と言及。すでに海外展開に向け具体的に動き始めているようだ。

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今回初役となる道児役の大塚について聞かれると、金森が回答。「異なるキャストそれぞれの個性が生きることが、グランド・バレエ、物語もののバレエの醍醐味だと思う。帝と道児はある意味では陰と陽、光と影のような、1人の人物の2面性みたいな部分がある。同じ男の子でも宮廷に生まれたら帝になり、村で生まれたら道児になる。いろいろな道児があっていいし、彼は表現者として、帝と道児の両方をできると思っている」と期待感を述べた。

プロジェクトが始まってから長い月日が経ち、社会の在り方も環境も変わってきた。その過程で演出も変わるのか、という問いには、「第1幕の初演を振り返ってみても、どこにもないものを創っているはずなのに、まるで何かを予見していたような演出、展開がそこにあったりする。作品にその時々に起きた社会情勢みたいなものが反映されている。それで個人的にショックを受けたりもする」と金森。自身それは驚くほど、と続ける。「ただ、創作ってそういうもの。数年経って社会情勢が変わると、その意味合いがまた色濃くなったり、褪せていったり、明示的になったりする。だからこちらがあえて演出を変えようとしなくても、響き合っていく部分がある。同時に、私自身生きていて感じること、問題として、人間として訴えたいこと、疑問みたいなものが、今回の新しい演出にも入ってくると思います」と話した。

会場となる東京文化会館は今年5月から改修に入り、再オープンは2029年を予定。この公演は休館前最後の公演ということになる。近年の劇場不足は深刻で、東京文化会館のような大劇場となるとなおさらだ。
「東京文化会館という劇場は、東京バレエ団にとってはホームグラウンド。歴史もそうですし、全てはそこに刻まれてきた。とても感慨深いものがある。スケールの大きなものができる劇場が限られてしまうので、少しでも早くまた開いてくれることを願っています」と、斎藤団長が想いを口にする。

金森が「閉館前最後の作品ということで、ここから作品が海外に飛び立って、また東京文化会館で凱旋上演ができる日が来ることを祈ります」と言うと、「私は、その先の夢があって......」と斎藤団長。「この『かぐや姫』という作品が東京バレエ団から発信されて、海外のバレエ団が金森穣の魅力を知り、世界各地で上演されるようになってくれればと。日本人のダンサーが今世界各地の劇場で活躍しているように、日本人の振付家として世界に羽ばたいていってほしい。それが夢です」と胸のうちを明かした。

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© Shoko Matsuhashi

東京バレエ団『かぐや姫』全3幕

2026年5月5日~5月6日
東京文化会館(上野)
https://thetokyoballet.com/performance/kaguya2026/

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