「スタイリッシュに演出した舞台でバレエの裾野を広げたい」「POLA presents BALLET TheNewClassic 2026」をプロデュースする堀内將平インタビュー〈1〉
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ワールドレポート/東京
インタビュー=香月圭
昨年12月末にK-BALLET TOKYOを退団し、ゲスト・アーティストとなった堀内將平。プリンシパルとしての数々の輝かしい舞台出演と並行して、バレエを基軸に、ファッションやアートとの融合を試み、演出・振付・プロデュースにも進出。バレエ表現の可能性を広げたいという思いから始まった写真家 井上ユミコとの協働プロジェクト「BALLET TheNewClassic(BTNC)」は回を重ね、7月30日~8月2日には3回目となる「POLA presents BALLET TheNewClassic 2026」が上演される。
シンガーソングライターMISIAとのコラボレーションでは、楽曲「フルール・ドゥ・ラ・パシオン」のMVに出演・振付や、2025年の全国ツアー「THE TOUR OF MISIA 2025 LOVE NEVER DIES」のバレエ振付を担当した。また「六本木アートナイト2026」では、六本木ヒルズを象徴するルイーズ・ブルジョワの巨大な蜘蛛の彫刻《ママン》から着想を得て、酒井はなのソロによる《わたしの中のあなた》を発表。ファッションの分野では数々のラグジュアリー・メゾンとバレエのコラボレーションの演出を担当している。 今回はバレエが秘める無限の可能性について語ってもらった。

堀内將平
――振付や演出に興味を惹かれるようになったのはいつ頃ですか。
堀内 18、19歳の頃にドイツのTheater Hof (テアター・ホーフ)に1年だけ在籍していたのですが、そこで「ヤング・コレオグラファー・チャレンジ」という公演で振付をしたことがありました。外国のバレエ団では若手振付家、振付に挑戦してみたいダンサーが作品を発表できる機会が頻繁にあります。そこで、僕も一度作品を創ってみたのですが、その時はカンパニーの同僚のダンサーがすごく気に入ってくれて「次の作品も作ってほしい」とオファーを受け、2作目も創りました。その後、ルーマニア国立バレエ団に3年在籍していたときも、年に1、2本程度振付けていました。 その後日本に戻ってきて、しばらく子供たちに教えていたとき、発表会用に振付ける機会がありました。
――ファッションとコラボレーションをするようになったきっかけを教えてください。
堀内 2024年3月に開催された国内最大級のファッション・デザイン・アートの祭典「東京クリエイティブサロン」のスペシャルパフォーマンスで、『La Fête』と題した作品の振付・演出・構成を担当しました。TOMO KOIZUMIのデザイナー、小泉智貴さんのカラフルなフリルをあしらった衣裳を着たK-BALLET TOKYOのダンサーたちが『眠れる森の美女』の楽曲に合わせて、「喜び」をテーマに舞台を華麗に彩ってくれました。TBSとK-BALLET TOKYOによる共同企画で新感覚のパフォーマンスをお届けするという趣旨で、デザイナーは小泉さんが登板されるということがすでに決まっていました。振付について検討された際「クリエイティブなことなら堀内くんだね」という感じで任されたのです。

『La Fête』(振付・演出・構成:堀内將平 2024年3月「東京クリエイティブサロン」スペシャルパフォーマンス)©Yoshitomo Okuda

『別れのパ・ド・ドゥ』中村祥子、中島瑞生(振付:堀内將平「BALLET TheNewClassic 2024」より)©Fukuko Iiyama
――「BTNC」では、2024年の公演でご自身の振付作品を披露されました。
堀内 「BTNC 2024」の時、こういう作品をやりたい、ああいう作品はどうだろうと、アイディアがいろいろ浮かんできたのです。例えば、(中村)祥子さんの『別れのパ・ド・ドゥ』では当初『椿姫』みたいなイメージを思い描いていたのですが、著作権があるため上演不可になりました。そのとき、井上ユミコさんから「こうなったら、將平くんが振付をやるしかないよ」と言われました。最初のうち、僕は「絶対、振付はしたくない」と言って、逃げ回っていたのですが、結局、観念して振付をすることになりました。MISIAさんとのお付き合いもその頃から始まり、カルティエジャパン50周年を記念したガラ・ディナーにK-BALLET TOKYOが出演したときも、振付を担当させていただきました。

井上ユミコと©Fukuko Iiyama
――井上ユミコさんとは、どのように知り合いましたか。
堀内 10年ほど前、ユミコさんがちょうどバレエダンサーを撮り始めた頃、共通の知人が「バレエダンサーが友達にいるから」ということで紹介してもらい、写真撮影をしてみようということになって顔合わせをしたのが初めての出会いでした。コロナ禍の波が来て、やることがなかった時期がありました。予定がないのはすごく苦手なタイプなので、インスタグラムでバレエのレッスンを配信したこともあります。僕が自分の部屋で踊る様子をユミコさんがスクリーンショットで撮るという、オンライン撮影会もやりました。対面で彼女のカメラで撮影したのも、ちょうどその時期です。作品撮りでしたが、その頃、僕が『海賊』でコンラッド役を務めた舞台を終えた後に、熊川哲也芸術監督(当時)よりプリンシパルへの昇進を告げられました。そこで、ユミコさんが運営するWebメディア「Alexandre Magazine」で昇進の紹介を兼ねたインタビュー記事を組んでいただきました。その撮影の打ち上げで、ヘアメイクさんとスタイリストさんとユミコさんの4人の席で、僕は日本のバレエについて考えていたことをお話ししたのです。
――それはどんな内容でしたか。
堀内 「日本ではバレエのイメージといえば、女性はチュチュを着て、王子様役の男性は白タイツを履いていて、おとぎ話のような世界観だが、ヨーロッパのバレエはかっこいい雰囲気で全然違う」といった話題が出ました。日本で行われるガラ公演は数多くありますが、グラン・パ・ド・ドゥばかり並べるだけではなく、面白い作品がまだいっぱいあるのです。クラシック作品の中でもグランパ・ド・ドゥ以外にもハイライト・シーンは他にもあります。衣裳についても、デザイナーやスタイリストの方に手を加えていただくだけで、洗練されたバレエ公演になると思います。普通のガラ公演では、それぞれの団体や出演者が音源を持ってくるので、音質があまりにも違いすぎて、全てぶつ切りになってしまうのがもったいないと思います。音質だけでも綺麗に揃えるだけで、聞こえ方や見え方が変わると思います。そういう公演があるといいな、という話をしたら、ユミコさんが「それ面白いね。將平くんが提案してくれた通りにやってみようよ」と、すっかり乗り気の様子でした。歓談の場だったので「実現したらいいですね」という感じで終わったのですが、3日後くらいに、ユミコさんからLINEが来て「將平くん、あのバレエ公演の件だけど、会場はここでどうかな。演出家この人がいいと思うから、声をかけておいたよ。衣裳はこの人でいいかな?」というメッセージをいただいて「この人は、本気だ!」と驚いたのが始まりです。
――それ以後「BTNC」プロジェクトが始動したのですね。
堀内 プロデュースに関しては、昔から、アイディアは何となく持っているけれど、お金や組織のことなどあらゆることを考えなければいけない仕事だというイメージがあり、僕には無理だと思っていました。けれども今は、僕がマネジメント面を担当していることが多いです。
――どんな活動が主体ですか。
堀内 会社組織にしたのは去年ですが、BTNCの活動自体は2021年から始めていました。外国のバレエダンサーの地位は日本に比べてずっと高いですよね。例えば、ロシアでは、国に多大な貢献をした芸術家に「人民芸術家」といった称号を贈り、その功績を称えます。彼らは国家公務員なので、40歳から年金が出るといった恵まれた人々ですが、日本はそういった待遇は望むべくもありません。国の制度など問題はいろいろとあると思いますが「バレエをもっとかっこよくしていけば、いろんなジャンルの方たちが興味を持ってくださるのではないか」と思って始めたのがBTNCでした。「バレエはかっこよくて、こんなポテンシャルを持っているんですよ」というのを皆様にお届けしたいと思って活動してきたのですが、ファッション業界の方面から嬉しい反響をいただきました。

『ボレロ』二山治雄(振付: 高瀬譜希子「BALLET TheNewClassic 2022」より)©Yumiko Inoue

『ロミオとロミオ』三森健太朗、マッテオ・ミッチーニ(振付:堀内將平「BALLET TheNewClassic 2024」より)©Fukuko Iiyama
――どのような反響がありましたか。
堀内 2022年の初回BTNCでは、二山治雄さんが高瀬譜希子さんの振付による『ボレロ』を踊ってくれたのですが、ディオールさんがダンサーと作品を変えずにそのままイベントで上演したいとおっしゃってくださったので、二山さんによる『ボレロ』を再演させていただくことが叶いました。2024年には、ルイ・ヴィトンのPRの方がBTNCをご覧になって、『ロミオとロミオ』を踊った三森健太朗さんがすごく綺麗だったので、ルイ・ヴィトンの撮影で彼を起用していただきました。エルメスのメンズ担当アーティスティック・ディレクターを37年間務めたヴェロニク・ニシャニアンが退任する最後のショーを東京で開催したときも『ロミオとロミオ』というアイディアがすごく面白く、バレエダンサーの男性同士の組み合わせがすごく美しいので、イベントにふさわしいということで、この演目をクローズドのパーティーで上演させていただく機会にも恵まれました。こうして、ラグジュアリーブランドを含む、様々な業種とコラボレーションさせていただくことによって、バレエを広げていけるのではないか、そして、ひいてはバレエダンサーの地位や知名度とかも上がっていくのではないかと期待しています。
――海外ではBTNCのようなタイプの公演が多いのですか。
堀内 ボルドー・オペラ座バレエ団エトワールの太田倫功さんが「この公演のためだったら日本に帰ってきてもいいです」と言ってくださったのは、とても嬉しかったです。海外には、NDT(ネザーランド・ダンス・シアター)を筆頭として、ウェイン・マクレガーやウィリアム・フォーサイスなど、かっこいい舞台というのは数多くあります。ただ、かっこいいダンスとなると、どうしてもコンテンポラリー寄りになってしまい、クラシックをベースにした、かっこいい作品というものがあまりないという印象があります。クラシック・バレエを軸に、音楽・美術などの才能が集まって前衛的な作品を生み出していったバレエ・リュスのイメージが目指しているものに近いのではないでしょうか。
――『シェへラザード』が過去2回上演されましたが、バレエ・リュスを意識されましたか。
堀内 いえ、作曲者リムスキー=コルサコフの著作権保護期間(没後70年)が終了しており、パブリックドメイン(自由利用可能)なのでセレクトしました。しかし、バレエ・リュスにはいい作品があり、素敵だと思います。バレエ・リュスの公演では、香水を幕にかけておき、開幕と同時に客席に香りを届けたという演出があったといわれています。伝説と化したこの逸話を、とあるフラグランス・メゾンのご担当者にお話ししたところ、香りの演出をBTNCでいつか実現したいというお言葉をいただきました。

『シェヘラザード』よりパ・ド・ドゥ 堀内將平(「BALLET TheNewClassic 2024」より)©Fukuko Iiyama
――ファッションやアートといった異分野とバレエとの親和性は強いと思いますか。
堀内 そう思います。バレエダンサーの肉体は、他のジャンルのアスリートの中でも一番美しいものだと思います。海外では、バレエダンサーがファッションのイベントやショーに参加することも多いですが、日本ではファッションとバレエの世界との隔たりが大きいと思います。日本でも、ファッション・デザイナーがバレエの衣裳を作る機会がもっと増えてもいいのではないでしょうか。実は、バレエはアートでありながら、アスリート的な要素もあるので、健康・食といったヘルスケアやビューティー分野での展開も可能です。バレエの切り口は実に多様だと考えています。
――ファッション界から次々とお声がかかっているそうですね。
堀内 日本のバレエは、お教室文化から派生しており、アスリート的な側面がクローズアップされがちですが、文化の香りはあまりしないように思います。ファッションやアート界の方々は、バレエを通してメッセージを発信したいという思いを抱いています。バレエダンサーをイベントに出演させたいと考えていらっしゃるのですが、どこに声をかけたらいいのかわからないということが挙げられます。また、彼らがバレエ界の方々と協働を進めていく中で、お互いのコミュニケーションの不足により、現代的でハイ・カルチャーのイベントの趣旨にそぐわない、純クラシックなものを提示されることもあるようです。そのため、「BTNC」やファッション界との協働プロジェクトといった経験がある僕に、お声がかかる機会が増えてきたように思います。
――全人口の内上位2%のIQ(知能指数)の持ち主で構成される国際グループ、MENSA(メンサ)のメンバーになったと伺いました。
堀内 元々、舞台に立つのがすごく怖くて、人前に立つのが苦手だなと思いながらバレエを踊ってきました。でも、何事も諦めることが嫌いなので、スポーツやいろいろな分野のカウンセラーの先生にお会いしてきました。日本では、カウンセリングがあまり浸透していないのですが、アメリカでは、カフェに行くような感覚でカウンセリングに行くことがすごく浸透しているそうです。僕はカウンセリングを受けるのは大好きなのです。しかしながら、これまで、どの方とも相性があまり良くありませんでした。試行錯誤を繰り返していくうちに出会ったのが今のカウンセラーでした。その先生とは相性がすごく良かったので、セッションを続けていたところ、IQテストを受けることになりました。IQテストでは数値化できる四つの分野、言語能力と視覚能力、記憶力と処理速度の平均点を指します。メンサに入会するときの検査は、図形推理や非言語的な分野などの視覚能力テストだけでしたが、視覚能力が高いという検査結果が出て、合格しました。例えば、ある会場にいる人たちが着ている服装から「このようなイベントではこういう人たちが来ている」という傾向を読み解く力や空間把握で地図を読む力などが、視覚能力の一部です。「メンサ=頭がいい」という一元的な認識は違うのではないかと思います。色彩感覚や音楽の感性とか、コミュニケーション能力、運動神経など数値化できないものも数多くあり、ADHDの子どもは学校でじっと座っていられないものの、本当はすごく頭がいい子もいたりします。僕が得意な分野が、たまたまメンサの検査項目と合致した、ということだと思います。
――メンサの会員だけが参加できる会合などはあるのですか。
堀内 メンサからオフ会のお知らせなどがメールで届きます。何かテーマについて語る会や、お寿司を食べる会などいろいろあります。メンサの方たちは頭の回転が速く、好奇心の強い人たちが多いのかなと感じています。そうした人たちにとって、すごくいいコミュニティになっているようです。
――ファッションショーでは、どんな点に注目して観覧していますか。
堀内 衣裳はもちろん気になりますが、採用されたモデルさんのタイプや会場の設え、どういうお客様が来場されているのか、PR担当の方々の立ち回り、リーフレットの文章に至るまで、全てチェックしています。
――「POLA presents BALLET TheNewClassic 2026」では、堀内さんのプロデュースと井上ユミコさんのクリエイティヴディレクションを中心として、どのようなチームで構成されていますか。
BTNCは、僕とユミコさんが中心ではありますが、デザイナーやスタイリストなど、様々な分野の方々とのコラボレーションから生まれる舞台です。チームの方たちは皆それぞれ意見をお持ちで、それぞれの個性が混ざり合って、最終的に一つの舞台に結実するのです。「POLA presents BALLET TheNewClassic 2026」では、NDTで照明を担当されていた久松夕香さんとKAKAN / mister it. の2ブランドが衣装デザインを担当してくださいます。そうした才能の結集した成果をお客様にお届けすることができることが何よりの喜びです。
BALLET TheNewClassic 2026
7月30日(木) 18 : 30
7月31日(金)13 : 00 / 18 : 00
8月1日(土)13 : 00 / 18 : 00
8月2日(日)13 : 00
新国立劇場・中劇場
クリエイティブディレクション:井上ユミコ(ALEXANDRE)
プロデューサー:堀内將平
出演:太田倫功、佐々晴香、ソ・ユンジョン、中島瑞生、中村祥子、南江祐生、三森健太朗、三宅啄未、横山瑠華、吉山シャール・ルイほか、国内外より計12名が出演予定(順次発表)
公式ウェブサイト:https://www.balletthenewclassic.tokyo/
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