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花谷 泰明 text by Hiroaki Hanaya 
[2010.08.10]
From Niigata -新潟-

井関佐和子が素晴らしかった 金森穣の「劇的舞踊『ホフマン物語』」

金森穣 演出振付・空間「劇的舞踊『ホフマン物語』」
Noism1&2合同公演
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金森穣振付、演出の『劇的舞踊ホフマン物語』がりゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館で上演された。『ホフマン物語』は作曲家ジャック・オッフェンバックが書き残したオペラ。この作品は19世紀末にパリで初演された作品を原作として金森が新たに3幕構成の舞踊作品として振付けた。また今回は本拠地である新潟のみの限定公演となっている。観客が東京や様々な地域から新潟へ公演を観に来ることによって、新潟に貢献したいというレジデンシャル・カンパニーならではの試みだ。
メインカンパニーであるNoism1と研修生カンパニーNoism2の合同公演という形をとっており、これもNoismにとって初めての経験。音楽は長年のパートナーであるトン・タッ・アンが新たに作曲、衣装もNoism公演ではおなじみになっている中嶋祐一によるデザインである。
 

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作品冒頭、舞台上右手奥に箱馬が積み上げられている以外はなにもない広い空間に、客席の後方から今回の主役である井関佐和子と宮川愛一郎がゆっくりと舞台のほうへと歩んでいくところから作品は始まる。
黒子のダンサーたちが宮川を囲むように箱馬を積み上げ、そこにはひとつの部屋のような空間が形成される。その部屋のなかで宮川は過去の悲恋を綴り、その悲恋がこれから演じられていくことになる。そして一旦舞台に幕が下り、そこに作品の登場人物たちの紹介の映像が流れる。舞踊作品としてはかなり複雑な展開をみせるための配慮だろう。
その後幕が上がり第一幕が始まる。第一幕は操り人形オランピアに恋をするホフマンの物語だが、ここでホフマンを演じるのは藤澤拓也。井関演じるオリンピアに恋をしたホフマンは、彼女が人間に見えてしまう不思議な眼鏡をかけて彼女を眺めている。人形を演じる井関はまさに感情を持たない存在として動きを影男に支配されている。その後の騒動のなかで眼鏡を失ってしまったホフマンは彼女が人形であることを知り、その恋は終わりを迎えるのである。操られ、自我を持たない存在である人形を演じる井関は、無表情で不気味な雰囲気を醸し出していた。
続いて第二幕、次にホフマンが恋をする相手は娼婦ジュリエッタである。ホフマンの恋の相手を三幕通じて演じる井関が、今度は男を誘惑する娼婦になって登場する。官能的な踊りを見せるが、ホフマンへの愛はない。魔術師の要求でホフマンを誘惑しているだけなのである。そこには魅惑的な踊りがありながらも無機質な雰囲気が漂っていた。

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そして第三幕、井関が次に演じるのは病弱な娘アントニアである。踊ることを禁じられた彼女は、謎の医者にそそのかされ亡くなってしまう。彼女に恋をし、救おうとするホフマン役の中川賢とのデュオは1幕、2幕にはない有機的で豊かな感情が伝わってくる踊りだった。このように『ホフマン物語』が三幕を通じて語られ、最後は映像、群舞、そして冒頭のホフマンが自身の過去を物語る場面で作品は終了する。ホフマンの恋の相手役を演じた井関はその役に応じて素晴らしい演技、踊りを見せていた。彼女と彼女を操る男たちは、近年の金森作品に見られるような支配する存在とそれに支配される存在の関係にあり、その様相はこの劇的舞踊のなかでさらなる展開を見せたのである。まさに『ホフマン物語』には金森が描いてきた人間の本質が集約されていた。

今回の作品は新潟限定公演で他の地域での公演予定はない。それにいつもとは異なる研修生カンパニーも交えた合同公演である。さらに映像も用いられ、新たな試みが織り交ぜられていた。この作品の特別感は地元新潟の、あるいは現地まで観に来た観客たちを満足させたに違いない。まさにレジデンシャル・カンパニーであるということへのプライドを感じさせる公演であった。このような試みにはこれからも期待したい。
(2010年7月18日 りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 劇場)

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撮影:篠山紀信
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