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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2010.08.10]

壮麗なイマジネーションの交響、大島演出のオペラ『ファウストの刧罰』

ベルリオーズ作曲、大島早紀子 演出・振付『ファウストの刧罰』
東京二期会オペラ劇場
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東京二期会オペラ劇場は、2007年に上演して大いに注目を集めたR・シュトラウスの『ダフネ』に続いて、エクトール・ベルリオーズの4部からなる劇的物語『ファウストの刧罰』を、H・アール・カオスの大島早紀子の演出・振付により上演した。19世紀フランスの作曲家ベルリオーズは、マシーンがバレエにした『幻想交響曲』の作曲者だが、バレエに大いに関心をもっていたことが知られている。
ゲーテの『ファウスト』に魅了されたベルリオーズは、26歳のころ『ファウスト八景』を作ったが、それから10年以上の年月を経て再び『ファウストの刧罰』を発表した。パリの初演は演奏会形式だったが、その後オペラとして上演されるようになって作品の評価が一段と高まった。

大島早紀子は日本で上演されることは珍しいこの作品を、主役のファウスト、マルグリート、メフィストフェレス、ブランデル、メインダンサーの白河直子ほかH・アール・カオスのダンサー5名、二期会合唱団、児童合唱団など多くの出演者を自在に動かす本格的なオペラとして素晴らしい舞台を創った。
『ファウストの刧罰』は「劇的物語」と銘打っているが、整然としたドラマ的展開によっているわけではなく、実生活でも想像を絶するアップダウンの激しい恋愛に邁進したベルリオーズの、時空を自在に飛翔するイマジネーションの交響ともいうべき舞台である。この奔放に交錯するベルリオーズの魔術的イマジネーションを、大島演出はじつに巧みに、まさに3Dの時代に相応しい鮮烈な舞台表現に構築した。

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まず、有名な「ハンガリー行進曲」などが奏でられる第一部に続いて、舞台を横断してコーラスがテーブルの前に並び、最後の晩餐のような終末観と民衆の活力が相克するダイナミックなシーン現れる。中でも圧巻は、メフィストフェレスに曳かれたベッドの上に横たわったファウストが至高の愛を夢見るシーン。フロアと中空をワイヤーに吊られた妖精たちが、レーザー光線がランダムに交錯する幾何学的背景の中で乱舞し、目をみはるような現代的な美的構成による<天国>がヴァーチャルに現出する。そして、"♪マルガリータ♪" と歌う優しくもの悲しげな響きは、全存在としての宇宙の静謐へとゆっくりと吸収されていく。じつに鮮やかに<愛>というものをヴィジュアル化した美しいシーンであり、直前の世俗的猥雑なシーンと一際、鮮烈なコントラスト描いて深い印象を残した。
第3部ではマルグリートがトゥーレの王の至純の愛を歌い、メフィストレフェレスが招いた地獄の赤い妖精たちが踊る強烈な鬼火の踊りが繰り広げられる。
そして映像を駆使した、黒馬にまたがり愛の鞭を振るって飛翔する地獄への騎行の迫真力。舞台狭しと宙吊りで展開したダンスの3D感覚が舞台に漲って、観客は三次元で提出された存在感の快楽に酔った。
ラストでは再び愛の妖精たちが空間を縦横に踊り、白河直子のマルグリートを導く踊りが壮麗なイマジネーションの交響を静かに昇華させたのであった。
ミシェル・プラッソン指揮、東京フィルハーモニー交響楽団。ファウスト/福井敬、マルグリート/林正子、メフィストフェレス/小森輝彦、ブランデル/佐藤泰弘、メインダンサー/白河直子、ダンサー/木戸紫乃、斉木香里、泉水利枝、池成愛、野村真弓。合唱/二期会合唱団、児童合唱/NHK東京児童合唱団。
(2010年7月15日 東京文化会館)

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撮影:松山悦子
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