ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2010.08.10]

躍動感あふれる踊りでドラマ、ロイヤル・バレエ『ロミオとジュリエット』

Kenneth MacMillan “Romeo and Juliet” The Royal Ballet
ケネス・マクミラン振付『ロミオとジュリエット』:英国ロイヤル・バレエ団
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2年振りに来日した英国ロイヤル・バレエ団による3つ目の演目は、マクミランの物語バレエの傑作『ロミオとジュリエット』。
シェイクスピアの国のバレエ団の看板作品で、1965年に初演された後、他の多くのバレエ団にも採り入れられているが、本家本元による日本公演は実に13年振りだった。プロコフィエフのドラマティックな音楽にのせ、ニコラス・ジョージアディスの重厚な装置をバックに、緻密なドラマ構成と躍動感あふれる振付けで、若い恋人たちの燃え上がる恋とその悲劇的な結末を陰影深く描いたマクミランの作舞に改めて感心した。特に、登場人物のちょっとした心の動きを、顔の表情や身振りに余さず変換する手腕はさすがで、台詞のない芝居を観ているようにも感じた。
今回は、長く同バレエ団で活躍し、このほどプリンシパル・ゲスト・アーティストに退いた吉田都をはじめ、個性的なダンサーによる4組のキャストが組まれていたが、そのうちマリアネラ・ヌニェスとティアゴ・ソアレスが踊った日を観た。ヌニェスはアルゼンチン出身で、ソアレスはブラジル生まれ。南米出身のダンサーが主役を演じるというのも、ダンサーの国際化が進む世界のバレエ団の現状を反映しているようだ。

長身のソアレスは、16歳のロミオより大人びた役作りにみえたが、友人たちと陽気に戯れ、ジュリエットと恋に落ちての夢見心地になる様など、場面ごとの心の変化を細やかに伝え、おおらかにステップを踏みながら、瑞々しいロミオになっていった。ヌニェスは、無邪気に乳母とふざけ、異性を意識しなかった少女から、ロミオと恋に落ち、パリスとの結婚を強要されて強くなっていくジュリエットの心の軌跡を、情感豊かな演技で伝えた。
見せ場は、趣の異なる二人のパ・ド・ドゥ。舞踏会での出会いを、周囲から隔てるように二人だけの世界を現前させた演出も巧みだが、それに続く密やかに踊られたデュエットでは、相手の気持ちを探り、確かめるような心のキャッチボールが初々しく思えた。バルコニーの場では、ロミオが旋回するような回転や流れるような跳躍で再会の喜びを表すと、最初は控え目なジュリエットはロミオにリフトされて踊るうちに心を解き放ち、甘えるようにロミオにからみ、高揚する音楽のように流麗なデュエットを展開した。

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寝室での別れのパ・ド・ドゥでは、やるせないロミオの思いと、何度も彼に絡みつくジュリエットの狂おしいまでの哀しさが交錯した。墓室のシーンで、動かぬジュリエットの体を抱きかかえるロミオのひたむきな姿と、絶望してロミオの後を追うジュリエットの姿が痛ましい。しかも、互いに覆いかぶさるように死ぬのではなく、ロミオはジュリエットを安置した墓石わきの床に倒れ、ジュリエットは墓石の上に仰向きになり、上半身ずり落として息絶えるという構図は、引き裂かれた二人の悲しみを一層深いものにして余韻を残した。

他のダンサーでは、リカルド・セルヴェラがおどけた踊りやツボを心得た芝居で陽気なマキューシオを好演し、陰気でアクの強いティボルトのギャリー・エイヴィスと対照をなした。キャピュレット夫人のエリザベス・マクゴリアンが、体で絶叫するようにティボルトの死を嘆き悲しむ迫力には圧倒された。また、群舞も素晴らしく、広場の人々の描写や、キャピュレット家とモンタギュー家の剣を交えた争い、舞踏会で整然と繰り広げられるダンスなど、さすが本家の舞台と納得させられた。
(2010年6月27日昼、東京文化会館)

photo:Kiyonori Hasegawa
写真は吉田都、スティーヴン・マックレー主演の6月29日公演より
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