ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2010.07.12]

<白鳥>の美が象徴するもの、マシュー・ボーン『白鳥の湖』

Matthew Bourne SWAN LAKE
マシュー・ボーン演出・振付『白鳥の湖』ニュー・アドヴェンチャーズ
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マシュー・ボーンは『白鳥の湖』を始め『くるみ割り人形』(NUTCRACKER!)『ラ・シルフィード』(HILAND FLING)『シンデレラ』(CINDERELLA)『カルメン』(THE CAR MAN)などの古典作品(バレエだけではないが)を、新たに振付・演出している。マシュー・ボーンはこれらの古典再振付を、伝統的な作品からインスピレーションを受けた空想を奔放に羽ばたかせて、新たな物語として再構成している。幼い頃からウエストエンドに出入りし、ハリウッドスターに強く惹かれていたマシュー・ボーンには、パフォーミングアーツへの独特の思い込みがあり、彼の表現にそれが色濃く映し出されている。そこには簡単に<パロディ>と言い切ることを許さない、創造のエネルギーが感じられる。
 

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『くるみ割り人形』では、主人公をドイツ上流家庭の子どもからさびしくクリスマスを迎える孤児院の子どもたちに変えたが、『白鳥の湖』では囚われの王女オデットとロットバルト伯爵の娘オディールを、男性のザ・スワンとザ・ストレンジャーに変えた。この変更によって<白鳥>に喚起されるイメージは、女性の美しさの二面性から、ゲイ的野性に潜むセックスの神秘にとって変わった。この----今日的というか英国的というか----視点から、英国のロイヤル・ファミリーの姿をある種の説得力を持って紐解いてみせたところがマシュー・ボーンの卓越した才能だろう。
また、若い性的モヤモヤを抱えている男性が、渋い色気を発散する年上のヒールに、憧れを越えて愛を感じてしまうという展開は、ゲイ映画などでよくみかける定番。それにしてもイギリスの階級社会は不思議。上流階級はそうでない人々の極彩色で塗り込まれたような風俗を見るのが楽しくて仕方がないようだし、見られている人々は上流階級を意識して荒れ狂っているかのようにも見える。

今回のキャストは、王子はドミニク・ノース、ザ・スワン/ザ・ストレンジャーはジョナサン・オリヴィエ、女王はニーナ・ゴールドマンだった。
やはり『白鳥の湖』の曲は決められた踊りに合わせ作曲されているので、新しい動きで完璧に合わせることはなかなか難しい、と感じた。しかし、幕が降りると会場はスタンディング・オベーションだった。ただひとつだけ注文を付けるとすれば、ボーン流の動きは魅力的なのだが、できれば主要な役はバレエの身体をもったダンサーに踊ってほしかった。
(2010年6月9日 青山劇場)

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撮影:瀬戸秀美
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