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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2010.07.12]

ベルリオーズの音楽と牧阿佐美の振付が奏でた悲しい愛の命『椿姫』

牧阿佐美 演出・振付『椿姫』
新国立劇場バレエ団
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牧阿佐美が新国立劇場の開場10周年記念公演のオープニング作品として、2007年に新たに振付・演出した『椿姫』が再演された。
周知のように『椿姫』はショパンの曲を使ったノイマイヤーの振付作品(1978)に人気があるが、牧阿佐美の演出・振付は、徒に演劇的な技巧を凝らすことなく、見事な舞踊構成によってノイマイヤー振付に優るとも劣らない舞台を創った。

まず音楽を、世界的に知られるヴェルディのオペラにではなく、原作者デュマと同時代を生きたエクトール・ベルリオーズの音楽に求めたことが成功に導いた要因のひとつだろう。
ベルリオーズは実生活でも、じつに曲折に富んだドラマティックな様々な恋愛に身をやつし、絶えず激しい情熱の発作に彩られた人生を送り、「火山のような人」とも評された。ベルリオーズはデュマの生きた時代に、愛のマグマから壮大で奔放な麻薬的ともいわれる幻想を放出し続けた音楽家である。
指揮のエルマノ・フローリオが、ベルリーオーズの『幻想交響曲』やオペラなどの音楽から愛の激情の過剰な迸しりをやや抑えて情景的、情趣的に精緻に選んで編曲し、幻想的でロマンティックな情感が豊かに流れる音楽構成を整えた。それは地上的な愛の描写を感じさせるよりも、恋人たちの運命を知り尽くしている天国で奏でられている調べのように聴こえた。

おそらく、このベルリオーズの音楽を新たに構成する過程(編曲者と振付家の対話)を経て、マルグリットとアルマンの愛は、舞踊によって再構成された。もちろん、その前にアシュトンの『マルグリットとアルマン』(音楽/リスト、1963)という優れた振付作品が存在したことは忘れてはならない。
牧阿佐美版『椿姫』は、舞踊を中心とした構成を優先していて、ストーリーがもたらすドラマティックな効果や演劇的な表現には特別な関心を向けていない。
マルグリットとアルマンのパ・ド・ドゥは、出会いから愛の盛り、決別、情愛の再現、拒絶、悔恨といったテーマが、交響曲の主調音を奏でるような舞踊表現によっていく層にも塗り重ねられる。悲劇的ではあるが、そこに育まれ脈打つ愛の命は、舞踊によって観客の胸に強く刻印された。

2幕冒頭のプリュダンスに続いて踊られるいくつかのダンス・シーンは、デヴェルティスマンのスタイルになっているが、じつに闊達でヴァラエティに富んでおり素晴らしかった。
牧阿佐美の作舞はシプルであり、<現代バレエ>によく見られる自家中毒に陥った複雑怪奇なアンシェンヌマンはなく、ひたすら愛の悲劇をダンスで追っていく作品に自ずと刻まれているリズムも心地よかった。
マルグリットを踊ったザハロワの絶妙な美しさが見事に花開いた作品であり、優しく豊かで気品のある愛の表情が痛々しい変貌をみせ、ラスト・シーンではまた、聖女のごとく輝いた。
(2010年6月29日 新国立劇場 オペラ劇場)

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撮影:瀬戸秀美
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