ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2010.02.10]

おおらかな人間喜劇を描いた谷桃子版『ドン・キホーテ』

谷桃子 再演出・再振付『ドン・キホーテ』
谷桃子バレエ団
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谷桃子バレエ団の『ドン・キホーテ』は、プティパの原振付をアレキサンドル・ゴルスキーが改訂し、スラミフ・メッセレルが再振付けしたヴァージョンを谷桃子が再演出/再振付している。多くの人の手を経ているが、みんな一流の舞踊家であるからだろうか、今日から観るとじつにオーソドックスなしっかりとしたドラマに創られている。
当然のことながら物語の展開はあだやおろそかにせず、キトリ、バジルの若い恋人たちの行動には具体的な説得力をもたせ、ドン・キホーテとサンチョ・パンサはじつに破天荒な妄想的な動きをしていて、そのコントラストが鮮やかでたいへんおもしろい。
そして結局、その2組が公爵の館で仕掛けられた決闘をすることになるのだが、ドン・キホーテは拍車が絡まってころんで負けてしまう、という諧謔というかフモールというか、いささかばかばかしいような結末となる。しかし、そのドラマはおおらかでヒューマニズムに富み、人間の純粋さ、若さ、機智と老い、妄想、愚かさなどを骨太なゆったりとした構成で組み立てて描いていて見事という他はない。
めぐみ豊かな大地をもつロシアの文化が、スペインの優れた人間喜劇を、バレエという芸術表現の中に融合させた、素晴らしい舞台だった。今日では、このように高踏的に描いたバレエを創る舞踊家は皆無ではないだろうか。

私が観た日はキトリは林麻衣子、バジルは斎藤拓だった。林麻衣子は愛嬌があってなかなかチャーミング。キャリアをみても主役の経験は多くないと思うのだが、落ち着いて踊った。特別に際立って目立つところがあったわけではないが、バランスがいい。演出・振付が優れているからだと思われるが、このカンパニーの舞台は、主役を中心に全員が一体となって音楽と自然に融合していく。
もう一人の主役、斉藤拓も良かった。いつものことだが、ケレン味なく清潔感のある舞台だった。エスパーダの三木雄馬も闊達に踊った。さすが魅せ方を知っている。ヴェテランの脇役、赤木圭、岩上純、桝竹眞也などがしっかりと脇を固めた功績も忘れてはならないと思う。
(2010年1月23日 東京文化会館 大ホール)

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撮影:スタッフ・テス 飯田耕治
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