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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2010.01.12]

スペイン文化の精髄を踊った小島章司の『ラ・セレスティーナ』

小島章司
『ラ・セレスティーナ〜三人のパブロ〜』
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古希を迎え、高野山の金剛峰寺壇上伽藍金堂に、フラメンコ奉納公演『聖なるいのち〜空海に捧ぐ〜』を、無事に終えた小島章司。09年には文化功労者に選ばれ、一昨年には舞踊批評家協会賞も受賞している。
『ラ・セレスティーナ』は、ペネロペ・クルス主演で映画化されたこともあるが、15世紀末に書かれた戯曲風の小説で、スペイン語圏の『ロミオとジュリエット』ともいわれ、広く親しまれている青春悲劇である。
小島章司は、ピカソが<青の時代>に描いたセレスティーナの肖像やこの小説の挿絵として描かれた版画集に触発され、舞台化をすることにしたという。同時に、小島のスペイン修行時代の1973年、奇しくも同じ年に亡くなってしまった3人のパブロと呼ばれた偉大なスペイン語圏のアーティスト、ピカソ、カザルス、ネルーダへのオマージュを捧げる作品である。
それはおそらく、小島章司は、自らの舞踊人生のひとつの結節点にしよう、という意識を込めて創作へとすすんだのであろうと思い至らせる舞台だった。
 

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セレスティーナ、というのは、この小説の中では、俗に言うところの<(中世の)やりて婆>みたいな存在の女性の名前だが、スペインではこの名前がその意味で一般名詞化しているそうだ。
物語は、カリストという貴族の青年がメリベーアという美女に一目ぼれし、セレスティーナに取り持ちを頼む。セレスティーナは怪しげな魔術を使って、最初は拒んでいたメリベーアを説得してふたりをまとめ、高額の謝礼を手に入れる。二人は真剣にに愛し合うようになるが、謝礼をめぐって争いが起こり、セレスティーナが殺され、若い二人も命を落とす、というもの。
小島章司はセレスティーナに扮し、フラメンコ舞踊の表現を駆使して、凄絶ともいえる人間性の極限い迫る存在感を見せる。「人間の業を直視した」ピカソから出発した、と小島はいうが、善悪を超越したような存在自体に付着する抜き難い宿命を垣間見せた見事な演技だった。ある種、ラスコールニコフ的な感情を味わわせた舞踊と言えるのではないだろうか。
クリスティアン・ロサーノ、タマラ・ロペスほかソリストの鋭いバイレと哀切極まるカンテ、そして音楽監督のチクエロ、演出・振付のハビエル・ラトーレといった一流のアーティストたちの中心に、日本人の小島章司が居て、スペイン文化の精髄を踊った。まさにグローバルな3人のパブロへのオマージュであった。
(2009年11月28日夜 ル テアトル銀座)