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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2009.10.13]

幻想性とスペクタクルが溶け合った東京バレエ団の『ラ・バヤデール』

ナタリア・マカロワ振付・演出(プティパ版による)『ラ・バヤデール』
東京バレエ団
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エキゾティックな南インドを舞台に、戦士ソロルと舞姫ニキヤの愛が、大僧正の横恋慕やソロルを娘ガムザッティの婿に望む国王ラジャの企みによって引き裂かれていく様が、壮麗な絵巻物のように展開された。東京バレエ団が、創立45周年記念に初めて手掛けたプティパの名作『ラ・バヤデール』である。
上演したのは、ロシア・バレエの伝統を継ぐナタリア・マカロワが、1980年にアメリカン・バレエ・シアターに振付けた版。英国ロイヤル・バレエもこれを採用しており、日本で上演してもいる。
その特色は、プティパの様式を損なうことなく、長大なオリジナルを3幕にまとめたこと。物語に関係のない儀式や婚約の祝宴の群舞をカットし、一方でソ連時代に削除された結婚式や神殿の崩壊を復活して物語として完結させたことにより、ドラマの密度は高まり、主要人物の感情の起伏もより鮮明になった。特に婚礼の場で、ソロルにしか見えないニキヤの幻がソロルとガムザッティの間に割って入り、ガムザッティがニキヤに渡された毒蛇入りの花かごと同じものを見て怯えて父親にすがるなど、四者の思いを踊りで交錯させて緊張感を盛り上げ、神殿崩壊へとつなげた演出に改めて感心した。

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ニキヤとソロル、ガムザッティはトリプルキャストで、上野水香・高岸直樹・奈良春夏/吉岡美佳・木村和夫・田中結子/斎藤友佳理・後藤晴雄・高木綾。どの日も魅力的だが、2日目を観た。吉岡は清楚なニキヤを造形し、たおやかな身のこなしで心の変化を演じ分けた。ソロルとの逢い引きでは瑞々しく、ソロルとガムザッティの婚約の祝宴では哀しみを全身から匂い立たせて舞い、「影の王国」では透明感のある踊りを見せた。ただ、ガムザッティにナイフを向ける所はやや唐突すぎた。木村のソロルは颯爽と登場し、情熱的にニキヤと踊った。その後のあまりに素早い心変わりや、婚約の祝宴でのガムザッティとのデュオに、もう少し葛藤を滲ませて欲しかったが、これは「影の王国」や婚礼の場での悔恨の念を強調するためだったようだ。その婚礼の場で、宙を跳ぶニキヤを追うように彼も高くジャンプしたが、二人の跳躍は呼応する魂のように響き合っていた。それだけに、二人の魂が浄化され、永遠に結ばれるラストが美しく映った。
田中の毅然とした姿勢は勝気なガムザッティにふさわしく、ソロルにも臆するところはない。ただ、ニキヤにソロルとの別れを迫る場面では、徐々に過激さを増すような工夫があっても良さそうだ。後藤晴雄は若い大僧正のイメージで、若い情熱でニキヤに迫るのは良いとして、その後の展開ではもっと毒のある演技も欲しい。苦行僧の長を務めた高橋竜太は鋭いジャンプや土俗的な踊りを卒なくこなした。ブロンズ像の松下裕次は、難度の高い跳躍や回転技が連なるソロを正確に、鮮やかに踊り納めた。初演作品だけに力が入っており、総じて踊りのレベルは高く、「影の王国」の幻影の群舞も良く揃い、神秘的で美しかった。装置と衣装はミラノ・スカラ座の製作という。背景は割と簡素だったが、ラジャや大僧正らの衣裳はきらびやかで、細かな装飾が目を奪った。
(2009年9月26日、東京文化会館/photo:Kiyonori Hasegawa)

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