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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2009.09.10]

マクミラン生誕80年記念として小林紀子バレエ・シアターが『The Invitation』ほか

フレデリック・アシュトン『レ・ランデヴー』 ケネス・マクミラン『The Invitation』 『エリート・シンコペーションズ』
小林紀子バレエ・シアター

ケネス・マクミランの生誕80年を記念してマクミラン版『眠れる森の美女』全幕に続いて、小林紀子バレエ・シアターが『The Invitationn』『エリート・シンコペーション』、そしてアシュトン振付の『レ・ランデヴー』というトリプル・ビルを上演した。

まずは『レ・ランでヴー』(音楽はダニエル・オーベール)から始まった。小さな雲の浮かんだ青空と白い大きな門の前の広場に、次々と若い男女が登場。プリンシパルガールとプリンシパルボーイのカップルを中心に、若々しい愛と生きる歓びを表して踊る。
白い衣裳にピンクのリボンを着けた女性ダンサーとブルーのリボンを着けた男性ダンサーが、速いテンポでアシュトンらしいアクセントの付いた動きを目まぐるしく踊り、ヴァラエティに富んだ幾何学的フォーメーションを展開する。さらにそれが堂々としてゆるぎないデザインの白い門とコントラストをなして、なかなか見応えのあるダンス・シーンが続いた。
ただ、バランシンの『セレナーデ』のようなユーモア感じさせる動きや構成はなく、明るく楽しい未来への希望が格調のある精密な動きによって表されている。
小野絢子と中村誠がプリンシパルのカップルをテンポ良く爽やかに踊ったが、もっとスター性を前面に出してダンサー全員を引っ張っていってもいいのではないか、とも思った。そのほうが作品の彫りも深くなるだろうと感じたので。

次に上演されたのは、コダーイに学んだハンガリー人作曲家マティアス・セイバーの音楽を使ったマクミラン振付の『The Invitation』(1960年初演)。
庭に置かれた裸体彫刻を布で覆い隠すような性が抑圧された環境の中で、 異性を意識し始めた純真な少女といとこの少年が、パーティーに招かれた倦怠期の夫と妻にセックスの洗礼を受ける、という舞台作品としてはかなり際どい題材のダンスだ。実際、初演時にはセンセーショナルな話題を集めたそうだ。
ただ、マクミランの関心は主人公の思春期少女の心理にあり、そのほかの出来事は少女を浮かび上がらせるための背景と言っていいと思われる。
主人公の少女は、友だちが裸体彫刻の身体に集団心理的に過敏に反応し、その刺激から性的好奇心に目覚めたのか、いとこの少年と関係する。
ところがいつも喧嘩ばかりしている熟年夫婦の夫が少女に興味を示すと、自分の魅力を確かめるかのように、その夫をなかば誘惑して犯されてしまう。さらに、熟年の妻は少年と関係をもつ。しかしそうした出来事は、日常の陥穽に落ち込んだアヴァンチュールだったかのように、それぞれのカップルは元の鞘に収まっていく。
そして最も傷ついたはずの少女が天真爛漫というか、かえって少年との愛を確認するという、命そのものに具わっているしたたかさを発揮する。このあたりがドラマのツボであろう。
マクミラン特有のしつこいほど凝った複雑な動きがあって、主人公の感情の流れを表すのが難しいのではないか、と思われた。しかし、少女を踊った島添亮子は、余裕を持って踊り素晴らしい表現力を見せた。こういった作品だからかも知れないが、幕が下りた後、心に残る印象の重さが他の舞台とは違った。
少年は後藤和雄が踊ったが、日本初演時のキャストだけあって落ち着いた舞台。初演ではパトリック・アルマンが踊った熟年の夫をロバート・テューズリーが好演。さすがに表現力があり、島添の少女との微妙な間合いを巧みに演じた。

最後はマクミランのスコット・ジョップリンほかのラグタイム・ミュージックにのせた楽しい楽しいダンスシーンが、ミラーボールの光の下で展開する『エリート・シンコペーションズ』。軽快な音楽と様々のデザインの帽子やきらびやかな衣裳の色彩が音楽と響き合って、目も心も充分に楽しませてくれる舞台。とりわけ高橋伶子の鮮烈な姿に、今回もまた魅了されてしまった。
(2009年8月19日 ゆうぽうとホール)