ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2009.09.10]
夏はフェスティバルのシーズン。特にヨーロッパではダンス主体のものも含めてサマー・フェスティバルが多く開催される。フェスティバルはやはり、リヨン・ダンス・ビエンナーレのようにアーティスティックなテーマを設定したり、マリインスキー国際バレエ・フェスティバルのようにコンセプトをつけて伝統を横断的に紹介するといった、主催者の趣旨が明確なものが興味を惹く。 日本でも多くのフェスティバルが開催され、またこれからも予定されているが、そういった視点からも見ていくと大変おもしろいのではないか、と思っている。

服部有吉、辻本知彦、群青による意欲的なコラボレーション『3D』

服部有吉、辻本知彦、群青『3D』
あうるすぽっと CAN
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バレエの服部有吉、コンテンポラリー・ダンスの辻本知彦、ストリートダンスの群青という3人の、今、最も注目を集めている活きのいい男性ダンサーが集まって、『3D』という新作を創った。当日売られていたパンフレットには「DANCE 服部有吉、辻本知彦、群青」とクレジットされているが、「振付」という言葉は見当たらなかった。
三つのジャンルのダンスが舞台であらかじめ決められた振付を介さずに混交してパワーを生み、どのようなパフォーマンスが生まれてくるのか、というひとつの試みを趣旨とした公演と思われる。
音楽は元気のいい若手ミュージシャンの旗手ともいうべき、松永貴志である。
 

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舞台中央には、赤い大きな三角形の板が立てられている。もちろんそれは三つのダンスのバランスを表していて、舞台上に展開するダンスとはまったく関係なく、一定の時間を掛けながら少しずつ舞台の上空に吊り上げられて、さらに、ゆっくりと回転している。
そしてその赤い三角形の背後で松永が観客に背を向けてピアノを演奏している。つまり彼は、ダンサーの動きを直接見ながら演奏できない姿勢で舞台に参加している。(時折、振向いてはいたが)
裸の白熱灯が舞台と客席の中空に吊るされていて、舞台のプロセニアムと客席の境界を無視している。時にスポット照明も使われるが、ランダムに白熱灯が灯って上下に動き、不規則な光りが舞台を照らして、独特の印象を醸し出した。

ダンスの始まりは、群青と辻本が1本の糸の両端を持って、なんとなく離れたところ
で服部が踊り、それが三角形を感じさせる位置取りで、ストリートダンスとコンテンポラリー・ダンスの動きには近しさがあり、バレエの動きは孤高だ、といっているように見えた。
そしてダンサーたちの動きとは関係なく赤い三角形が舞台上をゆっくりめぐり、ピアノが激しく演奏される。例えて言うと、人々の生活とは関係なく地球が自転しているようなもの。ところが3人のダンスは、赤い三角形の自律的な移動とピアノ演奏の音楽とのバランスの中で連動して見えてくるから不思議だ。
 

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2度ほど暗転がある。ほとんどの動きはインプロヴィゼーションで構成されているが、おそらく、ところどころのポイントには、動きの約束が決められているのだろう。もちろんインプロヴィゼーションといっても、実験の積み重ねによって創られたものであり、そこには当然、一定の緊張感が貫かれ、エネルギーの躍動がはっきり感じられる。4人のパフォーマーたちの意識は、目には見えないところで活発に語りあっているに違いない。

最近はバレエのアーティストも様々なジャンルとのコラボレーションを行っている。しかし、この作品のようにそれぞれのジャンルが対等な立場に立って、インプロヴィゼーションによる実験的なコラボレーションを行った例を知らない。作者たちが声高に主張しているわけではないが、たいへん意欲的な意味のある公演だったと思われる。
(2009年8月1日 あうるすぽっと/写真:大洞博靖)