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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2009.07.10]
バレエ・リュス100年を記念して様々な公演が行われた。確かに20世紀の舞踊はバレエ・リュスが起爆となって多様な表現を獲得した。しかしこれはもう過去の出来事である。100年間で舞踊表現はかつては考えられなかったほど変化した。古きをたずねるのであれば、何を求めてどのような問題意識でたずねるのか。「バレエ・リュス」の甘き香りに誘われて、現代の舞踊表現に参加することを怠ってはならない、と自戒することこそ100年の記念というべきかもしれない。

K バレエ カンパニーの『シンフォニー・イン・C』と熊川振付『ベートーヴェン 第九』

ジョージ・バランシン『シンフォニー・イン・C』、熊川哲也 演出・振付『ベートーヴェン 第九』
K バレエ カンパニー

熊川哲也率いるK バレエ カンパニーが、バランシンの傑作『シンフォニー・イン・C』を初演した。
『シンフォニー・イン・C』は、よく知られるようにジョルジュ・ビゼーの『交響曲ハ長調』に振付けたもの。この4楽章からなる交響曲は、ビゼーが17歳の時に作曲したが長年埋もれていて1935年に初めて演奏された。バランシンは、1947年、パリ・オペラ座にこの音楽を使って『水晶宮』を振付け、ダルソンヴァル、トゥマーノワ、ボゾニなどが初演を踊った。翌年にはNYCBに、衣裳、装置を変え、『シンフォニー・イン・C』と改題して上演。マリア・トルチーフほかが踊っている。

第1楽章はアレグロ。扇を立体にしたようなフォーメーションで、中央にプリンシパル、左右にソリスト、背景にコール・ドを配して、様々のヴァリエーションを速いテンポで展開していく。第2楽章はアダージョとなって、ダンサーが舞台を横に移動する動きを織り込みながら、フォーメーションの形を強調せずやや乱調子に、ブロックの変化そのものを見せる。第3楽章は再びアレグロとなり軽快な動きが際立ち、第4楽章へと進み、全楽章のプリンシパル、ソリストが華やかに踊る。

全体がバランシンの若き日を彩ったマリインスキー劇場へのオマージュと捉えられなくもない作品である。確かに、この舞台を観ていると、プティパの古典全幕バレエのマイムや演技などのドラマに関わる部分を圧縮して、舞踊部分だけを再構成したかのような印象を受ける。じつに良く音楽とマッチした動きが、舞踊そのものの美しさを際立たせるように見事に構成されているからだろう。
あるいは、プティパのシンフォニックな感覚は、同時代を生きたフランス人作曲家ビゼーと響き合うものがあったのか。それをペテルブルクの帝室劇場でバレエを修得したバランシンがプロットレスの作品にしたのかもしれない・・・と、様々な空想をふくらませてくれる素敵なダンスだった。

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そして次に上演された、ベートーヴェンの『交響曲第9番ニ短調』<運命>もまた、四つの楽章からなっている。
こちらはもちろん、19世紀の古典主義的なエレガンスを再構築しようとしたものではない。生命の誕生と生きることの歓びを逞しく歌い上げるダンスである。
第1楽章と第2楽章は、生命の母である大地と海を表す踊りで、大地は男性、海は女性が踊る。第3楽章では生命誕生のドラマが描かれ、ダンサーたちの衣裳も妖精から人間のものとなり、第4楽章で生命の永遠の歓喜が表される。
全体では、第1、第2楽章の大地と海の無機的な静謐が支配する世界と、第3、第4の人間の生命が歓びに躍動する世界とにくっきりとコントラストを付け、宇宙的なドラマを構成している。
熊川の振付・演出は、象徴的な装置と光の変幻、アリアと合唱とをダンスのムーヴメントと融合させて、新しい未来に向かって湧き上がってくる荘厳な感情が満ちあふれていく空間の現出を試みている。

熊川自身の逞しく歯切れのいい踊りは圧巻で、まさに宇宙的ドラマの要の位置をなす存在感だった。K バレエ カンパニーのSHOKO、康村和恵、荒井祐子、松岡梨絵、浅川紫織のプリンシパル、清水健太、橋本直樹、宮尾俊太郎、遅沢佑介の男性ダンサー陣は充実している。それぞれにペアを組んでも乱れなく調和がとれている。10年間のカンパニーの進歩には驚かされるばかりである。
(2009年6月12日 Bunkamura オーチャードホール)
 

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