ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Tokyo <東京>: 最新の記事

From Tokyo <東京>: 月別アーカイブ

佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2009.06.10]

デンマーク・ロヤル・バレエ団が9年振りに来日
お家芸のブルノンヴィルとノイマイヤー作品を上演

Royal Danish Ballet
John Neumeier: “Romeo and Juliet”
デンマーク・ロイヤル・バレエ団
ジョン・ノイマイヤー振付『ロミオとジュリエット』

261年の伝統を誇るデンマーク・ロイヤル・バレエ団が、芸術監督ニコライ・ヒュッベに率いられて9年振りに来日した。演目は、デンマーク・バレエの創設者、オーギュスト・ブルノンヴィルの『ナポリ』と、現代の巨匠ジョン・ノイマイヤーの『ロミオとジュリエット』。華やかな足さばきが見所の前者と、ドラマティックな表現が求められる後者とで、バレエ団の柔軟性を示そうというもの。『ナポリ』はお馴染みなので、『ロミオとジュリエット』を観た。同団は、1971年初演のこのノイマイヤーの出世作を、1974年に演目に加えており、2005年には、アンデルセン生誕200年記念に彼の『人魚姫』を世界初演した。

tokyo0906i01.jpg tokyo0906i02.jpg
tokyo0906i03.jpg

ノイマイヤー版『ロミオとジュリエット』は、一時もドラマを途切らせることなく、バレエですべてを語り尽くした。ダンサーの躍動感あふれる踊りのおかげで、30年以上も前の創作とは思えないほど瑞々しく映った。全体を聖ゼーノの祝祭日を挟む4日間の出来事に設定し、また芝居の一座を登場させて、巧みに物語にからませた。例えば、二人の悲劇を予感させる芝居を演じさせたり、ロミオが逃げるのを助けさせたり、僧ローレンスがジュリエットに眠り薬を渡す時、後方で僧ローレンスの計画を寸劇で演じさせたりした。
ロミオは情熱的だが純粋な心を持ち、ハメを外したりしない良識的な青年という描き方。対するジュリエットは無防備で純真な乙女。入浴中のジュリエットが、体にバスタオルを巻いたまま、裸足で勢いよく跳ねまわる様は、捕らわれることを嫌う野性の娘のように思えた。肘を張り、胸の前で手を合わせてV字を作り、背を反らす姿勢を母から仕込まれるが、このポーズはキャピュレット家の象徴として舞踏会の場などで効果的に使われていた。
舞踏会で、人目をはばからずにジュリエットに近づくロミオと、彼に引き寄せられてしまうジュリエットは、共に初々しい。バルコニーの場では、二人の感情の高揚が流れるように滑らかなムーヴェメントやリフトとなって綴られた。寝室のパ・ド・ドゥでは、固く手を合わせ、激しく抱擁するなかに絶望的な悲しみを噴出させて、心を打った。

tokyo0906i04.jpg

また、パリス伯爵との結婚を受け入れられないジュリエットが、夢の中で、遠くにいるロミオと同じ振りをこだまするように踊るシーンは何とも痛ましかった。彼女が結婚を承諾した後、父親と伯爵の間でリフトされ続けるジュリエットの姿に、親に服従するしかない当時がしのばれた。その一方で、娼婦が男に金を要求する場面や、キャピュレット夫人とティボルトのただならぬ仲を伝える描写からは、また別の当時の姿が見えてくる。墓場では、ロミオはジュリエットが死んだと思い込んで短剣で自害し、ロミオが死んでいるのを見つけたジュリエットも彼の短剣で後を追う。ロミオとパリスの争いや、キャピュレット家とモンタギュー家の仲直りは省かれていたが、シンプルな幕切れが、かえって余韻を残した。

ロミオのS・クロボーとジュリエットのS・グリンデルは、難しいステップをしなやかにこなし、生き生きと演じた。リフトによる表現も豊かで、二人とも、様々な形でリフトし、リフトされる中に、互いをいとおしむ心を溢れ出させた。無邪気な娘から大人へと成長してゆくグリンデルの演技も説得力があった。おどけぶりも板に付いたマキューシオのM・エガト、アクの強さを滲ませたティボルトのM・ブランストルップ、快活なソロを披露したベンヴォーリオのA・ステーゲルら、みな芸達者。なお、ヒュッベは昨年、芸術監督として古巣に戻ったばかり。ニューヨーク・シティ・バレエで踊った経験を踏まえて、このバレエ団をどう発展させるか、大いに期待したい。
(2009年5月22日、東京文化会館)