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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2009.06.10]

小林紀子バレエ・シアターがマクミラン版『眠れる森の美女』

ケネス・マクミラン振付『眠れる森の美女』
小林紀子バレエ・シアター

小林紀子バレエ・シアターがカンパニーとしては31年ぶりとなる『眠れる森の美女』を上演した。前回はジョン・フィールド版で小林紀子自身とデヴィッド・アシュモール他が踊ったそうだ。
今回はケネス・マクミラン版で、1966年に初めてドイツ・ベルリン・オペラ・バレエに振付けて以来、英国ロイヤル・バレエ、そして現在、イングリッシュ・ナショナル・バレエ(ENB)がレパートリーとしているヴァージョンがある。ニコラス・ジョージアディスの衣裳とピーター・ファーマーの装置によるENB版が上演された。

マクミランはプティパのバレエの継承と発展を自らに課していたと思われ、『眠れる森の美女』という作品には特別の敬意を抱いていた。それは最晩年に、成功を収めたとは言えないが、『眠れる森の美女』を凌駕する全幕バレエの制作を目指して、『パゴタの王子』を振付けたことからもうかがい知ることができる。
それだけに、この『眠れる森の美女』のヴァージョンも骨格がしっかりとしている。たとえば、プロローグのオーロラの洗礼式のシーンも、妖精たちのソロとそのカヴァリエ、リラの精のアテンダンツの踊りが、じつに的確に配置され、舞台の時間の流れが極めて自然に感じられる舞踊構成がなされている。そのために、妖精と人間が一緒に生きていたと空想される中世の宮廷のありさまが彷彿され、幻想世界がリアルに活き活きと感得できた。
豪華さだけではなく、こうした精巧な舞踊の組み立てこそクラシック・バレエの精髄である。

オーロラ姫は高橋怜子、デジレ王子は中村誠が踊った。高橋怜子のオーロラ姫は、第1幕の16歳の誕生日を祝うシーンでは、やや緊張感が見られた。しかし100年後の第2幕の美しき幻影の場では、中村誠のデジレ王子とともに落ち着いて踊った。
ここはマクミランが最も心を砕いたシーンで、リラの精に導かれたデジレ王子は、ただ単に善の精の指示に従ったために、100年の眠りに落ちていたオーロラ姫と出会った訳ではない。デジレ自身が理想の愛の姿を強く求めていたから、その希求がリラの精を呼び出したのである。デジレ王子が主体的にオーロラ姫と出会う、という振付家の趣旨を中村はよく理解しており、オーロラの幻影やリラの精との踊りの中に、デジレの心をよく表現していた。
グラン・パ・ド・ドゥの高橋怜子のオーロラ姫は、見事にバランスのとれた魅力的でいかにも勘が良さそうな身体のスタッカートな動きが小気味いい。モダンな感覚が宿る身体が、クラシック・バレエの踊りを活き活きとみせた。
(2009年4月25日 新国立劇場 中劇場)