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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2009.03.10]

古代ギリシャの身体の詩を踊った
マリー・シュイナールの『オルフェウス&エウリディケ』

マリー・シュイナール演出・振付『オルフェウス&エウリディケ』
カンパニー マリー・シュイナール新作日本初演

 古代オリンピックは裸体で行われていたといわれるが、ギリシャ神話の時代は身体に対する考え方は、今日とはまったく異なっていたであろう。
 モントリオールを本拠地とするマリー・シュイナールの最新作『オルフェウス&エウリディケ』は、そんな古代ギリシャの身体の詩を謡ったダンスだった。
 

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 開幕劈頭、ダンサーたちは男性も女性もベージュのパンツこそはいているが、半裸の胸のトップにキラキラ光る星を付け、言葉としての意味を表さない叫び声を発しながら舞台を横切る。奇妙な音声を発しながら踊るというか飛び跳ね走り、何かを表現しているかのよう。
 ちょっとポップな印象がしないでもないが、このシュイナールによる古代ギリシャ的な身体が、おおらかというか、機能性や有効性あるいはアカデミズムを価値として崇める現代という時代とは、次元を異にする世界を垣間見せるダンス。
『オルフェオ&エウリディケ』の物語は、背景に映し出される文字で、ごく簡単に済まされる。ただ黄泉の国を出る時には、決して後ろを振向いてはならない、という警句はしばしば様々なヴァリエーションとなって表現される。

 半裸で例のキラキラ星を胸に付け、ショートパンツ姿のエウリディケは、観客席に下りて来て観客が座る椅子の背もたれに掴まって、獣のように這い回る。すると元コンドルズのダンサーだった唯一の日本人ダンサー、今津雅晴が舞台から客席に向かって「彼女は危険です。絶対に振向かないでください」とかいうが、もちろんほとんどの観客が振向いていた。
 また、一人の女性ダンサーは、金色の小さな鈴を股間に押し込み、口の中から取り出してみせる、というキャバレー芸まがいのパフォーマンスを見せ、いささかげんなりしたが、じつはこれは後の展開につながりがあった。
 ほかには、ペニスの張り型を着け高いヒールを履いたほとんど裸の男性ダンサーが数人現れ舞台をのし歩く。続いて女性ダンサーが登場してカップルとなりセックスとおぼしき行動を開始する。もちろん戯画的な表現でシリアスではないが、観客は静まり返ってしまった。しかし、これは古代人がわれわれとはまったく異なった世界で、生を謳歌している姿の一コマ。いわば、異星人が生きている姿、とでもいうべきか。
 後半は黄泉の国のバッカスの信女たちの激しいダンスというか、ダンスとしての動きではないプリミティブな、祭りの衝動にかられたような動きが繰り広げられる。そして無数の金色の小さな鈴が澄んだ音色を響かせて、舞台のフロワーに転がるシーンはたいへん美しかった。そのほかに使われていた小道具も凝っていて、全体にポップな美を感じさせるダンスだった。
 そしていつの間にか、背景に出ていた太陽が二つになっていたのには、少々驚かされた。
(2009年2月7日 シアター1010)
 (※写真はこの公演のものではありません)

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