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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2009.03.10]

7人のダンサーが主役を踊った、谷桃子版『白鳥の湖』

谷桃子 再演出・再振付『白鳥の湖』
谷桃子バレエ団創立60周年公演

 良く知られるように、日本で初めて『白鳥の湖』全幕が上演されたのは、1946年の旧東京バレエ団の第1回公演。谷桃子は、その翌年の第4回公演で『白鳥の湖』全幕のオデットとオディールを踊った。そして49年に谷桃子バレエ団を創設し、50年には第2幕を上演、55年には谷桃子バレエ団としての『白鳥の湖』全幕上演に成功している。
当時は、もちろん、作品の理念から物語、振付、演出、楽譜、衣裳、美術などバレエに関わることすべてがまだまだ良く知られておらず、全幕ものを上演するのはたいへんに困難な時代だった。
当時の日本の環境の中で、伝統のある古典バレエ『白鳥の湖』を様々な角度から制作スタッフが理解し納得して舞台に上げるまでに、どのように考えて進めていったのか。今回の公演のプログラムに、谷桃子版『白鳥の湖』初演から参加してきた舞台美術家の橋本潔が、初演当時の「演出メモ」を掲載しているので、その文章から、当時の諸氏の苦闘ぶりが推測でき、興味深かった。

今回の谷桃子バレエ団の『白鳥の湖』全幕公演は、創立60周年の記念公演の第1弾で、この伝統あるカンパニーにとっては初めての全幕上演から54年の時が流れたことになる。
その歴史を背負って主役として舞台に立ったのは、若い谷桃子バレエ団の7人のプリンシパル、緒方麻衣、佐々木和葉、朝枝めぐみ、永橋あゆみ、三木雄馬、今井智也、斉藤拓だった。全3公演だが、谷桃子版はオデットとディールを別々のダンサーが踊ることもあるため7名となる。主役にゲストダンサーを招いておらず、カンパニーの所属ダンサーが踊ったことも、日本のバレエ界にとっては心強く思える。

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ジークフリート王子を踊った三木雄馬は最近ではクラシック以外の舞台も多く、昨年、『眠れる森の美女』の第3幕の主役を踊ったが、全幕主演は久しぶりだと思われる。最初は緊張気味にも見えたが、たちまちロシア・バレエの舞台で鍛えられた実力を発揮し、俊敏でシャープな踊りだった。
緒方麻衣は昨年オデットを踊って主役デビューを果たした。身体はよく動き、第3幕のオディールもメイクを一新してよく踊ったが、オデット、オディールを通して踊るスタミナにやや不安を残した。体力に自信がつけば、さらに余裕のある表現をみせられるはず。優れたバレリーナとしての資質は充分だから、もう少し主役としての経験がほしいところ。ぜひ頑張ってもらいたい。
今井智也は、ここのところずっと全幕主役を任されており、安定した申し分のない踊りだった。オデットの佐々木和葉はポール・ド・ブラが美しく、要所で印象的な踊り。朝枝めぐみもオディールの表現に光るものをみせた。

演出では例えば、第1幕でジークフリートが誕生日のお祝いに弓をプレゼントされて喜んでいると、道化が脇からさっと奪ってしまう。これは伏線。第3幕で、ジークフリートはオデットの残した白鳥の羽根の一片を想いを込めて胸に挿し、花嫁選びの席に着く。すると道化が戯れに、ジークフリートの胸の羽根をさっと奪い、大目玉を食らう。こうした小さな芝居は、ジークフリート王子の心の動きを浮かび上がらせる巧みな演出である。
そしてラストシーンは、オデットが許しを乞う王子を許し、もう人間には戻れないことを悟り、湖に身を投げる。続いて誓いを破った自身を許すことの出来ない王子も、オデットへの深い愛を胸に抱いて身を投うずる。するとたちまち激しい雷鳴が起こり、絶対的な愛に破れたロットバルトは破滅する。
愛の勝利が、詩情漂う中で描かれる悲劇。小細工やケレンのない、明快で簡潔な演出で気持ちのいいエンディングだった。
(2009年1月24日 新国立劇場 中劇場)

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