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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2009.01.13]

東京バレエ団『ザ・カブキ』

〈ベジャール追悼特別公演シリーズIV〉は、ベジャールが『仮名手本忠臣蔵』を下敷きに、武士道の精神を、共感を込めて描いた『ザ・カブキ』。 1986年の初演以来、ヨーロッパでも公演回数の多い人気の演目である。クラシックの技法に歌舞伎の所作を採り入れた独特の振りに加え、日本の文化を西洋 の視点というフィルターを通すことにより、より際立たせた振付家の手腕が光っている。ダブルキャストが組まれていたが、“討ち入り”の12月14日に行わ れた公演を観た。バレエ団として踊り込んでいる作品だけに、ダンサーの世代交代はあるだろうが、練り上げられた舞台が楽しめた。

  由良之助を演じたのは後藤晴雄。塩冶判官から遺言を託されて、現代の若者から由良之助になる心の変化や、家臣に仇討ちの決意を促す勇ましいソロ、おののき を滲ませながら決意を新たにするソロなど、心の内をきめ細かに踊り分け、酒色におぼれる演技も様になっていた。これで、もっと貫禄が備わればと思う。塩冶 判官のパートに派手な踊りの見せ場はないが、平野玲は型にはまった所作や凛とした態度で、武士の精神性を伝えた。

  吉岡美佳の顔世御前は、兜改めの場や夫である判官の死を嘆くシーンでは感情を封じ込めるようにしていたのと対照的に、由良之助に仇討ちを迫る時の、悲しみ の底からわき上がるような扇動的な踊りが際立った。高師直役の木村和夫は、とがった鋭い動きで判官をいたぶり、師直の家来、伴内を務めた中島周も、誇張し た振りと仕草で、憎まれ役を好演した。隈取りを模したメイクも、いかにも悪者というイメージをあおる。
 

 兜改 めの場や、盗人に身を落とした定九郎が登場する山崎街道の場は、予備知識のない観客にはわかりにくい部分かもしれない。けれど、判官の家臣たちが連判状に 一斉に血判を押すシーンや、討ち入りで四十七士が逆三角形に隊列を組むシーンは、何度見ても鮮烈な印象を残す。赤フンドシの男たちが一列になって現れる演 出に以前は違和感を抱いたが、これは“決行”を前にした禊かもしれないと思えるようになった。ベジャール作品のスケールの大きさ、奥深さを再認識させられ た公演だった。
(2008年12月14日、東京文化会館)