ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Tokyo <東京>: 最新の記事

From Tokyo <東京>: 月別アーカイブ

関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2008.12.10]

愛と死を駆け抜けた、ドゥアトの『ロミオとジュリエット』

  ドゥアトのダンスは、音楽にぴったりと寄り添い、時には曲をリードするかのようにさえ感じられるほどよどみない流れを創る。ドゥアトは、オーケストラとダ ンスを同時に指揮し演出する才能を備えたアーティストのようだ。そしてまた、ドゥアトのダンス表現のスピードは、観客の胸が、彼の登場人物の情感を過不足 なく受け止める時間と重なる。言葉を変えれば、ドゥアトは観客の意識の流れと、音楽のテンポと、ダンス表現のスピードを合致させる才能に恵まれた振付家と も言えよう。
『ロミオとジュリエット』では、普段はあまりストーリー性のあるダンスを創らないドゥアトが、シェイクスピアの悲劇を、現代の観客に説得力のある鮮やかなリズムで描いたのには驚かされた。

 特に際立っていたのは終幕の演出である。
スピーディなダンスがプロコフィエフの曲にのって展開し、仮死状態になる薬を飲み干して、ベッドに横たわるジュリエットを乳母が発見し、「キャーッ!」 という悲鳴が上がると同時に紗幕が落ちる。そして舞台前をヴェローナを追放されたロミオが悲劇の予感におののきなが彷徨し、思い切って紗幕を上げると、そ こは墓場。愛するジュリエットの葬儀の真っ最中だった。キャピュレット家のジュリエットの父と母と婚約者だったパリスの嘆きがあって、ロミオが姿を現す。 一人未練を抱いて残っていたパリスをあっさりと殺す。哀れパリスはただ殺されるために嘆いていたのか。
ジュリエットが死んだと思い込んだロミオは自殺。するとロミオが息絶えるのを待っていたかのようなタイミングで、ジュリエットが目覚める。ロミオの死を知ったジュリエットは彼の手に握らせた短刀を胸に突き立てて絶命し、幕。
仮死になったジュリエットに狼狽えたり嘆いたりする演出や、墓場での死体とのパ・ド・ドゥといったよく見られるシーンは潔く黙殺され、この終幕にはほとんどダンスはない。演劇的なエンディングだった。
そして、それまでの豊富なヴォキャブラリーで綴られた流麗なダンスと、この壮麗な無言劇のようなエンディングが、お互いに力強く拮抗し、非常に高度な、生命のリズムをもった悲劇を創っている。じつに秀逸な美しい構成だった。
(2008年11月22日 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール)