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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2008.12.10]

東京バレエ団『くるみ割り人形』

 ベジャールの追悼特別公演シリーズ第3回の演目は、ビムと呼ばれた自身の少年時代を回想した『くるみ割り人形』。チャイコフスキーの音楽を用いて いるが、描かれるのは、「大きくなったらママと結婚する」と慕った母と、「バレエと結婚した」というほど強いバレエへの憧れだ。
クリスマスの夜、亡き母がプレゼントの包みを置いていくと、後の幕が落ちて巨大化した包みが現れ、ビムは夢の世界に入り込むが、夢の旅路はシンプルでは ない。「M..」による厳しいバレエのレッスン、妹と演じた『ファウスト』、ボーイスカウトでの生活、ミュージックホールの派手な衣装の光の天使たち、プ レゼントの包みから現われた巨大なヴィーナス像、その裏側の聖母像のある祠、母と踊るデュオ、サンタクロースに扮したマジック・キューピーが披露する手品 など、様々なシーンが走馬灯のようにめぐる。転換は鮮やだが、振付家の追憶の迷路にほうり込まれたように感じた前半だった。「思い出すなあ」という言葉が 入るベジャールの語りが懐かしく響き、振付家への追想を誘った。

 後半は、ビムが母を楽しませようと見せる各国の踊りとグラン・パ・ド・ドゥが中心なので、素直に楽しめた。バトンを操る「中国」、奇術を交えた 「アラブ」、技を披露するようなデュオの「ソ連」、シャンソンにのせた粋な「パリ」など、ベジャール独特の作舞をダンサーたちは巧みにこなした。ただ、グ ラン・パ・ド・ドゥだけはマリウス・プティパに敬意を表して原典のまま。舞台は冒頭のシーンに戻り、夢から覚めたビムは母の面影を宿した像を見つけて終わ る。
ビム役の氷室友は、いかにも子供という風に戸惑いや懸命さを自然体で伝えた。プティパやメフィスト、奇術師にもなるM..を務めた中島周は、役に合わせ た柔軟な演技、切れのある動きを見せた。この日は、猫のフェリックスの小笠原亮が着地でケガをしたようで、一幕の途中で松下祐次に代わり、グラン・パ・ ド・ドゥで上野水香と組んだ後藤晴雄も足を痛めているため、ヴァリエーションは松下がフェリックスの衣装とメイクのまま踊るという異例の事態になった。確 かに後藤は上野との釣り合いが取れず、不調だった。黒のチュチュの上野はパを滑らかにつなぎ、スケール大きく優雅に舞った。猫の衣装は奇妙なものの、松下 は勢いのある冴えたジャンプを見せ、大奮闘。緊急事態に即応できる体制の必要性も感じた公演だった。
(2008年11月9日、東京文化会館)