ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2008.10.10]
街路には金木犀の甘い薫りが微かに漂い、スーパーやデパ地下の店頭には栗、柿、林檎、蜜柑、無花果、木通などの果実が、一年間、生を営んできた実り を色鮮やかに結実させ、その成果を競っている。われらが舞踊家も、ぜひとも美しい創造の精華を競い、大輪の花を舞台に咲かせてもらいたい。

勅使川原三郎の『Here to Here』

 勅使川原三郎の『Here to Here』は1995年に初演され、世界各都市を巡演。昨年、10年ぶりににイタリア、フランスで復活上演された作品。

 舞台はすべて白一色の何もない空間。白い天井の面だけが黒いフレームで囲われている。
この空間の中に黒い衣裳を着けた勅使川原三郎が、独特の動きをフルに展開してソロを踊る。黒い衣裳は、影のない白だけの面に映る光を際立たせる。舞台に 満ちる光は、時に強く輝き弱く薄くなり、時にほのかにブルーや赤を映す。ダンサーの意識を感じさせる白、無音の空白、踊るシルエット、さらには、黒い魔女 や白いコメディアンと思しきオブジェが姿を現し、矯声や叫び声、哄笑が白い空間を横切る。
勅使川原の指揮と自演による、身体の動きと様々に変幻する光の交響曲が、白い巨大なキューブの中に奏でられる。

 そして時折、天井の巨大な白い面が、吊り天井のごとくゆっくりと降りてきて、踊る勅使川原の身体を押しつぶす。身体がぺちゃんこにつぶされて、存在が視界から消え、白い空間に意識が漂っているかのようだった。
この天井の白い巨大面が降りてくる間隔が、絶妙の間合いで光の交響曲にアクセントを付け、身体と空間の関係を露にする。そして結局ラストでは、それまで 水平に降りてきていた白い巨大面が、大きく傾き、白いキューブの空間が別次元にワープしたようにみえて、観客はじつにアメージングな感覚を体験することに なる。

 研ぎ澄まされた感覚と卓越したアイディアで、光と身体と空間をダンスによって変容させ、新しい空間を現出させた舞台だった。
(2008年9月20日、彩の国さいたま芸術劇場 大ホール)