ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Tokyo <東京>: 最新の記事

From Tokyo <東京>: 月別アーカイブ

佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2008.07.10]

モーリス・ベジャール・バレエ団:『ボレロ』『バレエ・フォー・ライフ』ほか

  “バレエ界の革命児”と讃えられたベジャールが死去して、はや半年以上が経った。その名を冠したモーリス・ベジャール・バレエ団が、故人の遺志を継ぐ新 芸術監督、ジル・ロマンに率いられて、代表作と遺作による2種のプログラムで日本公演を行った。Aプロの初日とBプロの東京での最終日を観て、ベジャール の思索の深さや、求心的な作舞だけでなく、題材によりユーモアや祝祭性を際立たせた創作の妙に、改めて感心させられた。

Aプロは4作品。『これが死か』は、死を間近にした男が過去に愛した女たちを追想するもの。ピンクや紫のレオタードの女のうち、男は記憶にない白いレオ タードの女に導かれるようにして回想にふけり、静かに死を迎える。音楽はR・シュトラウスの〈四つの最後の歌〉で、終曲の最後のフレーズがタイトルになっ ている。主役のジュリアン・ファヴローの伸びやかな身体性が動きのスケールを大きくみせ、思い惑う心も伝えていた。共演のダリア・イワノワやエリザベッ ト・ロスらも、しなやかな手足をフルに生かして美しかった。死とは何と甘美なものかと思わせる、ベジャールの描き方だった。
遺作の『イーゴリと私たち』は、リハーサル中のストラヴィンスキーの声を彼の「ヴァイオリン協奏曲ニ長調」に織り込んだものにダンスを付けたユニークな 作品。ベジャールが部分的に振付けたものを、ロマンが30分弱の作品にまとめ上げた。オケ合わせの音が鳴ると、裸の上半身の上に燕尾服を着たシェフ役のロ マンが登場し、指揮者よろしく采配を振るう。自身もシャープなジャンプや回転をみせながら、「一、二、三」「もう一度」など、指示を与える作曲家の声に合 わせて、ダンサーを動かした。ロマンのおどけた仕草が面白味を醸す一方で、妥協することなく芸術を追求したベジャールの姿をしのばせもした。踊りは、小気 味よいソロや、女性による洒脱なパ・ド・カトル、男女による軽快なパ・ド・ドゥなど変化に富み、随所にユーモアの精神がうかがえて、文句なく楽しめた。
 『祈りとダンス』は、異国情緒豊かな中東の音楽による、命の輝きが脈打つ作品だった。冒頭の「ルーミー」で、白いスカートにボレロをはおった男性たちが 輪になり、速いスピードで旋回し続ける様はさながら宗教的儀式のよう。バティスト・ガオンによる静かにエネルギーをたぎらせた「炎」のソロや、心の交感を 思わせる男女のデュオ、アクロバティックな動きも入れた男性群舞など、踊りは多彩。那須野圭右も力強いソロで印象づけた。
最後は『ボレロ』。“本家”が日本で上演するのは実に26年ぶりという。“メロディ”を踊ったのはオクタヴィオ・デ・ラ・ローサ。打楽器の刻む拍に合わ せて下半身を揺らしながら、次第に動きのヴォルテージを上げていったが、クライマックスを強調するためか、前半はかなり抑制していたように見えた。ジョル ジュ・ドンと同じアルゼンチンの出身ということもあり、両者の舞台を比べてしまったが、ドンが野性味を帯びた強烈なエロスを発散したのに対し、引き締まっ たスリムな身体のデ・ラ・ローサは清潔で爽快な息吹で印象づけた。驚かされたのは“リズム”の男性群。イスに座ったまま、一斉に脚を伸ばし、胸を張って背 をのけぞらすポーズを取っただけで、男性特有のオーラが放たれたようで、そこに彼らの体内の底知れぬパワーを感じたからだ。
(2008年6月8日、神奈川県民ホール)

『ボレロ』『ボレロ』


『バレエ・フォー・ライフ』
 Bプロは、すっかりお馴染みになった『バレエ・フォー・ライフ』。同じ時期に共に45歳で没したロック・バンド、クィーンのヴォーカリストだったフレ ディ・マーキュリーと、ベジャール作品の最高の体現者だったドンに捧げた、ベジャールのオマージュ。強烈な色彩を配した衣装をデザインしたヴェルサーチは 初演前に亡くなり、今やベジャールも鬼籍に入ったことを思うと感慨深い。
白いシーツをかぶって横たわっていたダンサーたちが次々に起き上がり、顔をのぞかせ、立ち上がり、ソロやデュオ、群舞を繰り広げていく。音楽はクィーン のヒット曲のほか、モーツァルトも挿入された。つばさを持った男の天使、ストレッチャーで運ばれる男女、狭い空間に詰め入る男たちなど、次元を超越した振 付家のイマジネーションが独創的なダンスに転換されている。踊りでは、バティスト・ガオンやダリア・イワノワが際立っていた。終わり近く、大スクリーンに 映し出されるドンの映像はやはり衝撃的。十字架に打ち付けられる様は、ベジャール芸術の殉教者のようにもみえた。最後は、輪廻を象徴するように、白いシー ツをかぶって横たわる冒頭と同じシーンで終わった。暗転後、改めて「ショー・マスト・ゴー・オン」が流される中、舞台中央のロマンに向かって左右から次々 にダンサーが走り寄り、握手や抱擁を交わす場面は感動的だが、今回は特にベジャールを後世に伝えようという彼らの決意表明のように受け取れた。
(2008年6月15日、東京文化会館)

『バレエ・フォー・ライフ』『バレエ・フォー・ライフ』