ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2008.06.10]

酒井はな、森優貴、津村禮次郎による『ひかり、肖像』能楽堂公演

 東京、渋谷の高級ホテル、セルリアンタワーの能楽堂の企画制作「伝統と想像シリーズ」の第1回公演は、『源氏物語』誕生1000年のメモリアルイヤーに因んだ『ひかり、肖像』だった。
能のシテ方津村禮次郎が構成、作舞、コンテンポラリー・ダンスの森優貴が演出、振付、そしてバレエの酒井はなが二人とともに踊った。
前半は、コンテンポラリー・ダンスで酒井はながアルヴォ・ペルトの曲で踊り、森優貴も登場してシューベルトの「死と乙女」でデュオを踊った。能舞台や橋 懸かりの佇まいが、コンテンポラリーの動きの速さや感情の表出を抑制しているように感じさせる。なかなか不思議劇的光景である。

男と女の愛の態様の結晶ともいうべきオブジェがひとつ使われる。後半には、能管と和太鼓が登場。和太鼓の奏者と女のオブジェのやりとりがあり、能管のメロディと和太鼓のリズムで酒井が、千年の時を超える情念の蘇りを思わせる見事な踊りを見せた。
すると、女面を着けた津村禮次郎が現れ、『源氏物語』の蜻蛉の巻「ありと見て 手には取られず 見ればまた行方も知らず 消えし蜻蛉」の歌や、中原中也の詩を能の詞章のごとくに謡う。
そして酒井が踊り、舞う津村と交錯し、面が取られ、肩衣のような衣裳が脱がされ、儚さと時を超えた情念が行き交う。
ひかりの描く肖像のように、雪の降る日の高貴の夫人のようにあれば、存在する苦悩が生まれることもあるまい、と、この舞台は語っているかのように見えた。
雪が映す光を象徴するような白い衣裳が印象的だったし、コンテンポラリーと舞いのコントラストも鮮やかで、セルリアンタワーのような現代的なホテルの能楽堂にふさわしい演し物であった。
(2008年5月15日、セルリアンタワー能楽堂)