ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2008.02.11]

小野寺修二作・演出、首藤康之出演『空白に落ちた男』

 積極的に他流試合に臨んでいるバレエダンサー、首藤康之が声をかけ、「水と油」の活動休止後、フランスで修行を重ねてきた小野寺修二が応じて創られた新 作『空白に落ちた男』を観た。二人の他に、Dance Theatre LUDENSなどで踊る梶原暁子、マイム出身の藤田桃子、丸山和彰が出演している。
ある事件の捜査に行き詰まった刑事Sの日常に起る----本当に起っているかどうかも分からないが----ミステリアスな出来事を、「水と油」の舞台と 同様の手法で描いている。異なっているのは、バレエダンサーの首藤が参加していること、装置が計算されて精緻に作られていて、4ヶ所に出入りの多いドアが あり、非現実的な情景を覗かせる窓も2カ所に設置されている。さらに天井には、同じ部屋のセットがパラレルにくっ付いていること。音楽がアコーディオンの cobaの新曲であること、だろうか。
一瞬の空きも許さないような周到なタイミングの動きが始まると、このメンバーの中では、やはりバレエダンサーとして鍛え抜かれた首藤の動きが際立つ。それがつまりは、刑事役のSとして生かされることになって、うまく全体のバランスがとれている。
突然目の前に自分のトレンチコートを着た人物が現れたり、妻が二人居ると思えたり、女の死体がころがっていたり・・・事件の解決のためのエネルギーがミ ステリアスな日常の迷宮に入り込んで行く。その刑事役に扮している首藤を観ていたら、ベジャールの『コンクール』で、トレンチコートを着て踊ったジョル ジュ・ドンの舞台姿を思い出した。
もう、ドンもベジャールも逝ってしまったが、『コンクール』はベジャール・バレエの中でも数少ないコメディ・バレエだった。やや高踏的なユーモアを、今では猫も杓子も使う言葉だが<スタイリッシュ>に求めた作品で、大ヒットはしなかったけれども。
さすがに首藤はタバコを吸う格好も堂に入っている。そのまま『若者と死』を踊り始めてもおかしくないくらいである。彼は常々「作品も進化する」と言っているから、千秋楽近くなったらもう一度、観に来てみたい、と思った。
(1月15日、ベニサンピット)