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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2008.01.10]

シルヴィ・ギエム・オン・ステージ2007

「白鳥の湖」
“進化する伝説”という副題付きのギエムの今回の公演。
“進化”をたどるように、バレリーナとしての地位を確立した演目、『白鳥の湖』の第2幕のアダージョとコーダを始め、ノイマイヤー振付の『椿姫』の第3幕 のパ・ド・ドゥやキリアンの『優しい嘘』、新たな境地を切り開くことになったコンテンポラリー作品、ラッセル・マリファントの『PUSH』と『TWO』 を、A、B、2種のプログラムに分けて踊った。そのAプロを観た。

幕開けは『白鳥の湖』。相手役は、長年パートナーを組んでいるニコラ・ル・リッシュである。19歳でパリ・オペラ座バレエのエトワールに任命された数か 月後、ギエムは当時の芸術監督ヌレエフと共に東京バレエ団の『白鳥の湖』に客演した。その時は完璧なテクニックを当たり前のように披露するのに驚かされた が、演技は淡泊というか、硬かった。だが、その次にこれを踊った時は、オデットの感情の起伏を鮮やかに体現して感動を誘った。
今回はアダージョなので、もっぱら踊りを見せるものだが、それでも最初のうちは本能的な警戒心からか、背をそらせてル・リッシュの腕から抜けるような素 振りを入れてみせ、それが寄り添い信じる気持ちに変わっていく様を自然に滲ませていた。舞台に現れた時の輝きも、耳の脇まで上げた脚のしなやかさも、その 甲のカーブも、心の動きをステップで微妙に伝え分ける様も、すべてが美しく、この上ない品格を感じさせた。ル・リッシュは、自身の踊りを披露する場はない もものの、ギエムの心を引き出すようサポートしていた。

『優しい嘘』も、ル・リッシュとの共演だった。リフトされているギエムが一瞬ライトに浮かび、闇にのみ込まれた。二人が滑り込むように移動するところも あったが、ここでもル・リッシュは、ほとんどサポート役。ギエムは彼の脚の間をすり抜け、背の上で開脚しと、様々なポーズを展開する。滑らかに踊り進めら れたのも、二人の息遣いが見事に合っていたからだろう。ただ、あっという間に終わってしまい、物足りなさが残った。

『PUSH』は、振付をしたマリファントとの共演が話題だった。薄暗いライトの中、ギエムがマリファントの肩に乗り、片脚を曲げ、片脚を伸ばし、彼の体に 巻きつくようにして落下すると、ライトが消える。その動作がわずかに形を変えて繰り返された。動きは極度に遅いが、その遅さをマリファントがしっかりと持 ちこたえる。二人は片手で引き合い、片手で回転し、床を転がりと、動きは密度を増したが、速度は遅いまま。前回に比べ、ギエムが重力を超越して空間にとど まる感じが一層強まり、神秘的な詩情が匂いたった。

こうしてギエムは、古典バレエの技と典雅さを保ちながら、全く性格の異なるコンテンポラリーでも異彩を放ち、進化していることを示したのである。ほかに、キリアンの『ステッピング・ストーンズ』が東京バレエ団により上演された。
(12月9日、東京文化会館)
「優しい嘘」「PUSH」「ステッピング・ストーンズ」