ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Tokyo <東京>: 最新の記事

From Tokyo <東京>: 月別アーカイブ

関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2007.12.10]

K バレエ カンパニーの「トリプルビル」と『白鳥の湖』

K バレエ カンパニーが『パキータ』『ラプソディ』『カルメン』のトリプルビルと、熊川哲也版『白鳥の湖』を再演した。熊川はまだ舞台に立つことはできないが、多くのK バレエのダンサーたちの踊りを観ることができた。
まずは、松岡梨絵と清水健太、中村祥子と宮尾俊太郎がそれぞれ、カルメンとドン・ホセを踊った舞台。

長身で小顔の中村祥子のカルメンは、ジジ・ジャンメールが初演した時と同様のショートカットが似合って、独特の魅力を醸した。そしてやはり力強く迫力が あり、女性としてということを越えて人間としての生きる姿勢を鮮明にし、ホセを拒絶しているかのようにすら感じられた。  予想外といっては失礼だが、宮尾のホセがじつに印象深かった。心情を全面に出して、キャリアで優る中村に全身でぶつかっていくような演技だったが、ラス トシーンでは、カルメンをナイフで刺して、やっと自縛の苦しみから解放され、あの優しいメロディが流れて、ふっと、いい表情がでた。

一方、松岡梨絵のカルメンは、野性的というよりは都会的な女性といった雰囲気。ショートカットが大胆なふてぶてしさよりも、クレバーな自分を見失わない明快さを感じさせた。清水のホセは的確な踊りで、きちんとして表現をしており、二人の息も合っていた。
清水は荒井祐子と踊った『ラプソディ』でも、小気味よくリズムにのって上手いコンビネーションをみせた。この曲は、輪島拓也と東野泰子の組み合わせでも観た。輪島の細かいステップのスピード感と東野のエレガンスな雰囲気が良く調和して感じられた。

『パキータ』は、遅沢佑介と浅川紫織が豪華さを出して踊った。また長田佳世と遅沢の舞台では、長田はゆとりがあり、ゆったりと作品全体をリードして踊っていた。
(11月10日、11日、文京シビックホール)

2003年に初演されて、今回が4度目の再演となる『白鳥の湖』。再演のたびに演出に手が加えられているのだが、3幕と4幕の演出は特に優れている。
特に3幕は、ブルメイスティル版など過去の演出の良い点もとりいれているのだろうが、演出が細やかでドラマティックで情趣に富んだ構成となっている。
  ナポリタンとマズルカは、通常の演出のように祝典のゲストが踊るディヴェルティスマンだが、スペインはゲストに紛れたロットバルトの手下たちであり、オ ディールはロットバルトの娘として登場して、いつもオデットとは別のダンサーが踊る。つまり、王国の簒奪を目指す勢力が浸透しつつある情勢の中で、王子は 花嫁を選んで、大きな責任ある国政を担わなければならない、というドラマの背景がしっかりと描かれている。
ロットバルトは、王子にオディールへの永遠の愛を誓え、と迫るが、人生経験が豊かで政治的な情勢も感知しているはずの家庭教師が制止する。しかし、さら にオディールが魅惑的に踊り、王子を完膚無きまでに誘惑して、ロットバルトはこの陰謀を完成させるのだが、こうした演出もそうした背景の中で描かれてい る。
王子の友人のベンノと家庭教師が、王子の気持ちを忖度して細かく動くので、王子の気持ちが自然と観客にも伝わってくる。そして王子自身も、花嫁選びの シーンでは、オデットへの想いを表すように動く。また、王子がこの中から誰も選ばないと分かって花嫁候補たちが動揺するシーなどもあり、王子はボンヤリと 玉座に座っていられるような情勢ではない。

ゴールスキー版などの系譜を継ぐロシアの演出では、狂言回し風に道化を踊らせて、家庭教師やベンノを外すことが多いが、熊川ヴァージョンは、演劇的伝統を重んじる英国のバレエ界に長く身を置いた熊川ならではの独創といえるだろう。
ジークフリート王子を踊った清水健太は、熊川演出に応えてよく動き、細心に踊った。オデットの浅川紫織は、柔らかいラインを描いて踊って魅力を出した。これからもラインが小さくならないように、より魅力的なオデットを心がけてもらいたい。

松岡梨絵のオディールは好演だった。特に、3幕の最後のヴァリエーションは説得力があり、観客を物語の核心に引き込む力があった。そのほかのソリストにもそれぞれソロがあり、単に物語を語る駒としてではなく、人物として描かれている点も演出を優れたものにしている。
(11月17日、Bunkamura オーチャードホール)

『カルメン』『パキータ』『ラプソディ』
『白鳥の湖』