ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2007.12.10]

インバル・ピント・ダンス・カンパニーの『Hydra(ヒュドラ)』世界初演

 イスラエルのインバル・ピント・ダンス・カンパニーが、彩の国さいたま芸術劇場と共同制作を行い、日本人ダンサー、森山開次と大植真太郎が振付の過程から参加した『Hydra』が初演された。
ヒュドラとは、背骨のない下等動物を表す言葉だが、そのほかの意味合いもこめられている。宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』を素材として創られているが、まっ たく物語の展開を追っていない。ジョバンニと死者となったカムパネルラの旅という設定にある、肉体と魂の旅というモティーフに基づいた作品となっている。
三方を白い壁で囲み、中央に細長い窓があり”外”がのぞける空間。星明かりに浮かび上がっているかのような舞台には、この世ならぬ幻想的な雰囲気が醸し出されている。上手の天井に吊るされた麻袋からは、絶え間なく細かい一筋の砂が落下し続けている。
6人の男性のグループと同じ人数の女性のグループが、それぞれ塊となって二つの生命を感じさせるような動きを踊る。細長い窓から棒が渡される。この棒 は、希望と不安、笑いと涙、強さと弱さ、喜びと悲しみといった対立する要素がなければ存在できないものの接点をダンスの中で表している。
棒やスクリーンプロセスのような手法を使って、旅のヴァリエーションが表されて踊られる。このダンスには、人生とは、生きることは旅することと同じだ、という想いがこめられている。
森山と植村は、天使という設定らしいのだが、人間の苦悩をすべて背負ってしまったかのような苦闘を踊っていた。
落下しつづける砂は時間を表す。広大無辺の宇宙と時間の中で生成と消滅を繰り返す生命、そして形而上的な魂といったものの関係性をえがいているダンスなのであろうか。
最後は、タンポポの大きな綿毛のようなものがたくさん舞い降りてきて、旅するダンスはひとつの帰結に達した。
(11月9日、彩の国さいたま芸術劇場 大ホール)