ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2007.12.10]

馬場ひかりソロ・ダンス『夜叉ケ池』

 泉鏡花の戯曲『夜叉ケ池』をソロ・ダンスで踊る というアイディアは、じつに素晴らしいことである。この作品は、母性に照応する水のイメージや神秘性など女性の存在そのものを象徴的に描いており、エッセ ンスを抽出してソロ・ダンスに構成すれば、幻想的な美の軌跡を創ることができると思われる。
下手に水色の布を置いて池を表し、中央に2枚のガラス板を並べて水面を作っている。紗幕の中で馬場の百合が日常的な生活を営んでいるシーンから始まった。紗幕は、さまざまの角度の光りを投じて、水が変幻する様をみせる。
ソロ・ダンスの流れに連れて、パーカッションを中心とする音楽が奏でられ、女性の愛のたかまり、情念の移り変わりが露にされる。
後半は、鱗を付けた尾をもつ白い衣裳で、セリを使って水底から浮かび上がってくるように馬場の白雪は登場する。白雪の恋慕の踊りがあって、人間世界に耳をすます。
そして竜神の封印が解けると、客席のすべてを含めて劇場の空間が水没する。水底の藻がさざ波にそよぐように、幻想の中心に百合の魂の姿が垣間見えたかのようだった。
ニューヨークでじっくりダンスを身につけた馬場らしく、簡潔にテクストをまとめた的確な表現で説得力のある作品を創った。必要充分にしてシプルな装置 と、こころの揺らぎを水面と光りのうつろいに映したような照明のテクニックが、馬場のダンスと相まって、レベルの高い舞台を創った。
(11月22日、俳優座劇場)