ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2007.07.10]
今年の梅雨は、関東地方 ではあまりはっきりしません。長雨というわけではありませんが、曇り空が続き、時折、パラパラ降る、そんな梅雨です。しかし、九州では豪雨、沖縄は夏空。 ダンスはサマーシーズンを迎え、フェスティバルやツアー公演が花盛りとなって、色彩が鮮やかな舞台が繰り広げられることになります。

牧阿佐美バレヱ団のウエストモーランド版『眠れる森の美女』

牧阿佐美バレヱ団の『眠れる森の美女』は、英国ロイヤル・バレエ団やスウェーデン・ロイヤル・バレエ団で活躍したテリー・ウエストモーランドが、プティパの原典に基づいて演出・振付けている。
近年の古典全幕バレエの改訂・演出は、テンポの速い舞台に慣れた観客の鑑賞の習慣に合わせて、ディテールを省略することが多い。簡単に言うと、物語の大筋 にあまり関与しないもの、ディヴェルティスマンを整理して、せっかちな観客をドラマの中に入り易くしているのである。そうしたやり方自体はあるいは問題は ないのかもしれない。
古典バレエであるから原典がある。もちろん、古典バレエの作品にはそれぞれに運命があり、多くの場合、原振付は失われてしまっている。しかし、『眠れる森 の美女』の場合は、ノテーションが発見されており、そこから原振付をかなり正確に推定できる。
伊藤友季子、逸見智彦伊藤友季子

ウエストモーランドは、プティパの原典に依拠し、それぞれの振付・演出がなぜそのように行われたのか、を深く正しく理解し、その上で新たな演出・振付を 行おう、と心がけている。そのために、少々まだるっこいくらいマイムを多用して、それぞれのシーンで描くこと確認しているかのように見えるのである。
そしてウエストモーランド版は、このバレエは、妖精と人間が共存している世界の物語である、ということを明確に捉えている。最初はおとぎ話から始まった のに、いつの間にか心理劇になったり、ヒロイックファンタジーになってしまったりする、そういうことには決してならないのである。

マッツ・エックのように、心理劇として完全に捉え直す演出もあるが、それはどちらかといえば、演劇的展開の問題意識であり、古典バレエとはまた異なった舞台芸術といえるのではないだろうか。
たとえば第2幕で、100年の眠りから目覚めたオーロラ姫とフロリモンド王子が愛と喜びのパ・ド・ドゥを踊る。あまり長くなく特に鮮烈なテクニックを駆 使したパ・ド・ドゥではないが、おとぎの国の出来事がリアリティをもって感じられる、じつに感じの良い美しいダンス・シーンであった。そしてこのシーンが 輝くのは、それ以前に丁寧に描かれた無数のディティールがあったからなのである。
初役のオーロラ姫を踊った伊藤友季子は、そこはかとない女性らしさを漂わせ、華麗な踊りでじつに豪華な雰囲気を感じさせるダンサーとなった。やはり初役 だったフロリモンド王子の逸見智彦は、王子役が板に付き貫禄をみせた。さらに贅沢を言わせてもらえるのならば、お互いに音楽的に響き合う感覚がやや弱かっ た気がする。フランスの王子の菊地研、スペインの王子の今勇也の踊りが印象に残った。
(6月16日、ゆうぽうと簡易保険ホール)