ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2007.07.10]

ファブリス・ランベール『グラヴィテ』

とても不思議なパフォーマンスを観た。フランスで注目されている気鋭の若手ダンサー、ファブリス・ランベールによるソロ公演『グラヴィテ』(重力)。<赤レンガ・コンテンポラリー・ダンス・ファイル2007>として催されたものだ。

暗い舞台に設置されているのは、5メートル四方の水を張ったステージと、水面後方に立てられたスクリーン。白いシャツに黒いズボンのランベールはステー ジの手前に横たわり、ゆっくりと片脚や腕を上げ、また水に振動を与えて微細な波紋を生み出した。水に映る像がそのままスクリーンに浮かび上る仕組みだそう だが、スクリーン上では、その波紋はより強く、より律動的に見える。水に踏み入ったランベールは、直立し、身をかがめ、寝転ぶ。一つ一つのポーズを確かめ るような、緩慢なムーヴメント。両足立ちから片足立ちになると、足先のより深いところから波紋が生じた。横たわると、頭や胴、ふくらはぎなど、体重が掛か る部分は、より濃い影となってスクリーンに現れる。どちらも重力の作用を視覚化するものだろうが、彼のパフォーマンスは科学的な思考よりも直観を刺激し た。


最も印象的だったのは、ランベールが自身の存在を持ちこたえるように立ち続けた時だ。その姿は鏡面ならぬ水面に映し出され、さらに、この実像と水面上の 虚像の両方がスクリーンにシルエットとなって像を結んだ。生身の身体が幾重にもダブると奥行きも増し、神秘的な世界が立ち上った。身体をわずかでも動かす と、そこから波紋が外へと流れ出し、縁に当たって揺り戻されたが、これは命が脈打つようにも見えた。水の落下音も余韻を深めた。すべてはモノクロームの世 界だが、その白と黒の色調は実に豊か。幽玄な水墨画を見る思いがした。ダンスというジャンルでくくるのは無理があるかもしれないが、30分のパフォーマン スは密度が濃かった。

(6月24、横浜赤レンガ倉庫1号館 3Fホール)