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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2007.04.10]

牧阿佐美バレエ団『ロメオとジュリエット』小嶋直也のマキューシオ


1幕1場 菊地研(ティボルト)
 プロコフィエフ音楽、アザーリ・M・プリセツキーと牧阿佐美の演出・振付、アレクサンドル・ワシリエフの美術、デヴィッド・ガルフォース指揮、東京ニューシティ管弦楽団演奏による牧阿佐美バレエ団の『ロメオとジュリエット』が上演された。
若い男性ダンサーが充実しているキャスティングである。私は初日を観たが、ロメオが逸見智彦、マキューシオが小嶋直也、ティボルトが菊地研、パリスが京 當侑一籠、ベンヴォーリオは今裕也、さらにロレンツォ神父は保坂アントン慶であった。この欄でもたびたびふれてきたが、注目すべきは怪我になかされてきた 小嶋直也。心配したが、今回の公演ではマキューシオをしっかり踊った。小嶋に復活の兆しが見えたことは、日本のバレエにとって喜ばしいことである。そして このカラミの多い男性ダンサー陣が、小嶋を中心としてまとまっていたことも良かった。
 

1幕3場 
伊藤友季子、京當侑一籠

2幕1場 ヴェローナの広場
小嶋直也、奥田さやか、今勇也

2幕1場 
ヴェローナの広場
 

 逸見はロメオは初役だったのだが、主役として落ち着いた演技と踊りで、冒頭のシーンから良くロメオの気持ちが現れていた。菊地のティボルトは恐ろしさを感じさせて持ち味を出した。そして京當のパリスが抑揚の利いた演技を見せ、舞台に程よい緊張感を漂わせていた。
しかしもちろん、ジュリエットの伊藤友季子は鮮やか。伊藤もジュリエットは初役であるにもかかわらず、作品全体の流れをきちんとわきまえた踊りである。主役として物語を語っていくことができる天性の能力が具わっているのだろう。
  ジュリエットは、初めての夜を過ごしたロメオが部屋から去ってしまった後、両親からパリスとの結婚を強いられ、ロレンツォ神父の下に走って秘密の薬を手に 入れる。そして、一時的に仮死状態に陥って、愛のピンチを脱出しようと強い決意する。この場面転換の多い緻密で繊細な演出を、伊藤ジュリエットは見事に演 じ、踊ったのである。観客もじっと息を呑むようにしわぶきひとつなく舞台に吸い寄せられていた。

1幕3場 
小嶋直也(マキューシオ)


1幕4場 パ・ド・ドゥ

2幕3場 
ロレンツォの教会


 

3幕1場 
パ・ド・ドゥ
 また、ロメオと ジュリエットが愛をささやく有名なバルコニーは、上手のコーナーに階段とともに設置されることが多い。しかしワシリエフのセットは、ヴェローナの広場、 キャピュレット家のホール、バルコニーを、二段に組んだ同じコンポジションにしており、キャピュレット家は大邸宅に見え、ジュリエットも大きく動いて初々 しい愛の気持ちを充分に表現することができる。二段のコンポジションは、主要なシーンで次々に現れ、演出的にも上手く使われて説得力があり成功している。 余談ながら、ウラジーミル・ワシリエフが新たに演出した『ロミオとジュリエット』のセットは、全編を通して2段になっており、上と下で別のシーンが展開さ れていくというものだった。
 
 そして、以前にも書いたが、ラストの墓場のシーンでは、ジュリエットが死んでしまったと思ったロメオは絶望し て毒をあおる。すると皮肉にもジュリエットが仮死状態から目覚め、二人はほんの束の間の愛をまさぐり合う。そしてジュリエットもまたロメオを追って自殺し てしまう、という演出になっている。
つまり、親友のマキューシオと同様の、悲劇的な死に方のヴァリエーションがここでも繰り返されていて、悲劇は輻輳していっそう高く奏でられるのである。
(3月10日、ゆうぽうと簡易保険ホール)