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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2007.02.10]

東京バレエ団『ザ・カブキ』/<ベジャールのアジア>

 バレエ界の大御所、振付家モーリス・ベジャールが、今年の元旦、傘寿を迎えた。昨春始まった生誕80年記念のシリーズも、東京バレエ団による今回の二種の公演で閉幕した。

 まず『ザ・カブキ』。ベジャールが同団のために創作した初の全幕物で、『仮名手本忠臣蔵』に基づく日本情緒あふれた作品だけに、海外での人気も高い。1986年の初演だから、もう20年が経つ。ダブルキャストのうち、由良之助と顔世御前を若手が演じた日を観た。

現代の東京の若者たちを描写する冒頭では、ストリートダンスを軽やかにこなす青年もいて、若いエネルギーが息づいていた。これにより、過去にタイムスリッ プしてからの、すり足や見栄を切るような仕草が提示する、異なる世界観や美意識が際立った。原典から要所を抜粋しているので、わかりにくい所もあるが、そ れを独自の構成で補っている。忠臣たちを赤鉢巻きに赤ふんどしで登場させたのには、少々違和感を覚えたが、武士道精神を象徴させたのだろう。なお、浪士た ちが一列に並んで仇討ちを約す血判を押す場面や、整然とダイナミックに決行される仇討ちのシーンは、いつ見ても鮮やかで、驚かされる。

「ザ・カブキ」

後藤晴雄は現代の青年から由良之助の人格に替わるあたりの戸惑いの表現は上手いが、仇討ちの決意を踊るソロでは強靭さが今ひとつ。顔世御前の吉岡美佳は、 抒情性を滲ませながら感情は隠して踊る一方、由良之助に仇討ちを促す場面では、感情をこめて迫った。塩冶判官の平野玲、勘平の古川和則、おかるの小出領 子、伴内の中島周らは、役の性格を伝える、バレエとは異質の誇張された振りをこなしていた。(1月24日、東京文化会館)



「舞楽」
 <ベジャールのアジア>と題した公演は、アジアをテーマにした三作品を並べたもの。その初日を観た。
最初の『舞楽』は、黛敏郎の同名の曲を用い、日本の青年が過去へ旅し、巫女と出会って見たものを描いた作品という。袴のような赤いパンツの青年(大嶋正 樹)、儀式を行う巫女、原始を連想させる肌色タイツの2組の男女、そこにアメフトの選手4人も加わる舞台に異次元の世界の混在は感じるが、何を伝えたいの か、判然としなかった。

  続いて、インドの伝統音楽にのせてヒンズー教の神々を描いた『バクチ』三部作から、破壊と舞踊の神シヴァとその妻シャクティに焦点を当てた最後のパート が、後藤晴雄と上野水香により踊られた。体の線も露わな赤いレオタードの上野はポアントで開脚したまま深く腰を落とし、脚や腰を小刻みに波打たせ、伸縮自 在に体をしなわせ、律動するエネルギーを放出した。上野の魅力が開花したようで、まぶしいほど輝いていた。対する後藤も、手足の先まで力をみなぎらせ、生 命のリズムを奏でるように身体を弾ませ、気迫のこもったソロで圧倒した。長身の上野をしっかりと支えての、濃密なデュオも目に焼き付いた。
「バクチIII」

  最後は、バルトークの同名の音楽による『中国の不思議な役人』。二つの世界大戦の狭間という時代設定で、無頼漢の首領(平野玲)に命じられるままに、男を 誘惑する娘の役を踊ったのは古川和則。女装の下のいかつい体も露わに“獲物”を愚弄するが、妖艶さの中にふと娼婦の哀しみも滲ませて秀逸だった。中国の役 人の木村和夫は、しぶとさに朴訥さと無気味さを掛け合わせたような演技に終始し、最後の、娘のかつらの上でエクスタシーに達する場面との対比を際立たせ た。時代の狂気を吐き出すような群舞も迫力があり、倒錯の世界を現前させていた。(1月27日、東京文化会館)

「中国の不思議な役人」