ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2007.01.10]

NBAバレエ団の「ニューダンスホライゾン」

 NBAバレエ団の「ニューダンスホライゾン」公演の今回のテーマは映像とダンス。映像によるダンスの新しいホライゾンを目指した作品を上演した。

  執行伸宣は『サンチャゴの海』と『ガートルートへのレクイエム』を創った。『サンチャゴの海』は、へミングウエイの小説『老人と海』のサンチャゴ老人の海 をテーマにしたもの。背景に三つの大型スクリーンを並べて、波や海中、魚の動きを踊るダンスなどを映して、少年と老人の関わりの中に海への想いを描いた。 ナレーションにより老人の心が語られるが、映像が効果を上げ、背景幕や写真では得ることのできない舞台を創った。当然ながら、海は常に動いており動くこと が海である。海は環境でもあるから動画の機能が有効である。
『サンチャゴの海』

 ダンスの映像というと、過剰なまでにカメラを動かしたり、フラッシュ的な転換をさせるものが多い。舞台のダン スのリズムと照応させるためにやむを得ないのかもしれないが、やはり気になるものである。その点、この作品は海という環境を表現するための映像なので、 ゆったりと使用されており、他では得られない海の感触を劇場に持ち込むことに成功している。
サンチャゴ老人には河野潤が扮して、心を表す演技を見せた。

もう1作は、『ガートルードのレクイエム』。これはシェイクスピアの『ハムレット』の登場人物、先の国王の妃で宿敵クローディアスと結婚するガートルートを主人公にしたドラマ・バレエである。
ドラマの背景を映像で見せながら、王の殺害やオフィーリアの自殺などの事件をガートルートの女性としての立場から描いていく。そのため、ハムレットの苦 悩は見えないがガートルートが、息子のハムレットを愛する心と女性としてクローディアスに惹かれる心の苦悩が前面にでている。
運命を踊った峰岸千晶が堂々として演技で印象に残った。

安達哲治が振付けたのは『N.Yの恋人』。太田哲則が書いた『ジゼル』をニューヨークの恋人にアレンジした台本を使っている。
マリアは幼馴染みのミゲルが買い物に出たわずかの間に、カールと運命的に出会う。たちまち同棲した二人だが、じつはカールは大金持ちの子息でフローラと いう婚約者までいた。執事が迎えにきてカールは、結局、フローラと結婚するために帰ってしまう。こうしたストーリーに三等天使フィフィと小悪魔ザミエルが 絡んで行く。
冒頭のニューヨ-クの街の人々の中に、天使と悪魔が舞い降りてくるシーンがいい。見事な導入部の演出である。ジャズを使っていてニューヨークの雰囲気が 出ていることはもちろんだが、恋人たちのやりとりにもリアリティが感じられた。ストーリーの展開がしっかりしており、説得力のある手慣れ演出力である。
映像はニューヨークの外観と天使と悪魔の動きを映していて、映像とダンスのバランスも良かったと思う。
カールのセルゲイ・サボチェンコは安定感のある踊り。マリアを踊った鷹栖千香が美しい姿体を生かして好演していた。

「ニューホライゾン」では、映像にも背景幕と同じようにそれなりの意味を持たせて丁寧に使用しており、なかなか好感がもてる公演であった。
(11月26日、ゆうぽうと簡易保険ホール)



『ガートルートへのレクイエム』

『N.Yの恋人』