ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2007.01.10]

東京バレエ団『くるみ割り人形』

数多い『くるみ割り人形』公演の中で異彩を放っていたのが、東京バレエ団が上演したベジャール版。クリスマス の夜に見た夢を描いたのはプティパの原作と同じだが、ベジャール版の主人公はビムと呼ばれていた子供時代の振付家自身で、様々な思い出の連なりの中に、亡 き母への思慕やバレエへの情熱が印象深く刻み込まれている。

初 めて観た時は、ベジャールが日本語で語るナレーションに導かれながら、場面があちこち飛ぶのに戸惑い、巨大な聖母像とその裏側の幼子を抱く聖母の絵が描か れたほこらや、光の天使の奇抜な衣裳や艶かしい妖精に目を奪われた。見慣れるにつれ、全体が見通せるようになり、追憶の一つひとつを懐かしむ振付家の気持 ちを感じ取れるようになってきた。きっとダンサーも同じ思いなのだろう、より深く作品に溶け込んだように見えた。
中島周、高橋竜太、
吉岡美佳、高村順子、古川和則

ビム役の高橋竜太は、飼い猫のフェリックス(古川和則)と遊び、バレエのレッスンに励む、素直でひたむきな少 年を自然体で演じた。母役の吉岡美佳は、総タイツでビムと踊る所で、柔らかな身のこなしに愛情をほとばしらせた演技に進境をうかがわせた。マリウス・プ ティパ、メフィスト、父ともなるM…の役は中島周。プティパとして鋭い身のこなしで手本のような踊りを見せたが、後は場面毎の趣の違いがもっとはっきり出 ればと思う。


M...:中島周

ビム:高橋竜太、母:吉岡美佳

ビム:高橋竜太、母:吉岡美佳


小出領子、木村和夫
中 国など各国の踊りは、ベジャール流の味付けで母を楽しませる余興として披露されるが、原曲にないシャンソンによるパリの踊りが加えられ、井脇幸江と平野玲 が小粋な踊りをみせた。グラン・パ・ド・ドゥは、プティパに敬意を表してその振付のまま。小出領子はゆるぎない正確なパを連ねて華麗に舞い、木村和夫も安 定したテクニックでジャンプや回転技を気持ち良く決めた。
そして、目覚めたビムが母に似た小さな像を見つけて喜ぶところで終わる。ビムの心の軌跡をたどった舞台からは類まれな多感さだけでなく普通の子供らしさも感じられ、巨匠への親近感が増したように思えた。
(12月6日、ゆうぽうと簡易保険ホール)