ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2006.12.10]
最近は紅葉が遅れがちで、色付く期間も短くなってきているそうです。自然の中 で暮している私たちにとって、季節のうつろいは大切な句点ですから、いたずらに乱れずに流れていてほしいものです。ダンスの舞台の流れは種々様々ですが、 やはり美しさを秘めたものであってほしい、そう思います。

新国立劇場バレエ団の新制作『白鳥の湖』の素晴らしい舞台

 新国立劇場バレエ団は、1998年の創設以来、セルゲーエフ版の『白鳥の湖』をおよそ40回にわたって上演してきたが、今回、装いを一新。芸術監督の牧阿佐美が、プティパ、イワノフ版およびセルゲーエフ版を尊重しつつ、改訂振付・演出を行った。
キャストはオデット/オディールはスヴェトラーナ・ザハロワ、ジークフリード王子にデニス・マトヴィエンコ、ロートバルトに市川透、道化はグリゴリー・バリノフだった。
新たに、オデット姫がロートバルトに白鳥に変えられるプロローグを加えた全4幕構成である。1、2幕と3、4幕を続けて上演し、休憩は1回だけ、という スタイルはなかなかスマートで、全体の情感がスムーズに流れ、ダンサーにとっても観客にとっても良かったのではないだろうか。

  そしてまず、特筆すべきはザハロワのオデット/オディールである。何回も書くけれども完璧なプロポーション。その美しい身体からは生硬さが消え脱力して息 づいている。弓のようにしなう足、たゆたう水草のように柔らかいアームス、高々と優雅に舞い上がる脚、どれも絶品である。かつて彼女が登場した頃「アン ナ・パヴロワの再来」と書いたことに誤りはなかったと、我ながら少し嬉しくなった。
マトヴィエンコもザハロワに伍して安定した踊りで良かったが、青春と決別し王として政治に君臨しなければならない、王子の憂愁を鮮やかに浮かび上がらせるまでには至らなかった。これは作品全体との関連もあるのだからやむを得ない。


 

『白鳥の湖』

『白鳥の湖』
  コール・ド・バレエは、時には世界一という声さえ聞こえてくることがあるくらいだから、実によく整えられている。特に、この牧版では、アンサンブルと、オ デットの悲劇的雰囲気、道化の陽気な速い動き、王子のやや憂いを秘めた気品のある演技が絶妙のコントラストを描いて効果を上げている。特にオデットとアン サンブルの共振は、同じバレエ団のプリマとコール・ドの関係以上に一体感があり、気品ある物語をスケールの大きな語り口でじっくりと説いてみせた。
さらに美術、衣裳が見事であり格調高い舞台を創った。美術は、奇を衒わず安定した色調と造型で幻想のリアリティに重きを置いたデザイン。その空間の構成を生かしながら、光の強弱を巧みに操った照明も成功を収めている。
演出は、プロローグではロートバルトが天からオデット姫を抱えるようにして捉え、力の上下の関係を強く感じさせる物語の構造をまず見せた。ラストシーン では、ジークフリード王子がロートバルトの羽をむしったりするヒロイックな演出を避け、二人の愛の力を強く押し通して感動的に結んでいる。また、ルースカ ヤを復活させ、祝宴の華やかさが一段と盛り上がった。舞台全体の流れに無理がなく、物語の世界に没頭できる優れた演出である。
(11月12日、新国立劇場 オペラ劇場)