ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2006.12.10]

K バレエカンパニーの『三人姉妹』『二羽の鳩』

 K バレエカンパニーの舞台は、総合芸術としてのクラシック・バレエの理念がゆるぎなく確立されている。公演を観ると、いつもそう感じる。
クラシック・バレエといっても、興行公演であるから、オーケストラを始めとしてもろもろを簡略化し、ダンサーの技だけを見せて済ませることもできる。
観客の側から言えば、やはり、クラシック・バレエは、音楽と振付と美術とダンサーの表現力が最高の力を発揮して、舞台を輝かすものであってほしい。もろ もろの事情の中でも、そのために最大限の努力を惜しんでいないことを感じさせてほしい、のである。その点に、K バレエの公演はいつも応えてくれている、と私は感じている。

『二羽の鳩』は、フレデリック・アシュトンがラ・フォンテーヌの寓話に基づいて創った作品である。音楽はアンドレ・メサジェ。鳩に、平和というかやすらぎを象徴させている。しかしそれは、全3幕をゆるぎなく描いて初めて得ることができる象徴性である。
輪島拓也が青年を踊った。踊りの流れが一段と良くなり、いままで時折感じられたひ弱さは消えて力感が感じられるようになった。少女を踊った副智美は踊る姿がきれいになった。長田佳世はジプシーの少女を踊ったが、堂々とした踊りと演技。存在感もみせた。

ケネス・マクミランがチャイコフスキーのピアノ曲とロシア民謡を使って(フリップ・ギャモン編曲)、振付けた『三人姉妹』。アントン・チェーホフの名作 戯曲をマクミランが咀嚼して、さらに想念を練って創られた舞台である。チェーホフ独特のロシアのローカルカラーは少し薄まっているのかもしれないが、登場 人物の心理的陰影や情感、あるいは女性の人生についての感慨は、舞踊と音楽によっていっそう鮮明に立体感をもって感じられる。
ヴィヴィアナ・デュランテのマーシャと熊川哲也のヴェルシーニン中佐が踊る長いパ・ド・ドゥは、まさに圧巻。ここにこの舞台のすべてが凝縮されている。 マーシャの夫、クールギンに扮したスチュアート・キャシディの演技力には、いつも感心させられる。登場人物の心理をじつに平易にわかりやすく表現する能力 に優れているのである。  背後の紗幕に隠れているディナーの客たちの笑い声を、突然、挿入したり、椅子を使った酔っ払いの踊りを披露するなど、独特の演出法によって抽象化した現 実をリアルに表現する見事な舞台である。ピアノが愛の不確実性を詠い、観客の胸深くに感情を波打たせる公演であった。
(11月15日、オーチャ-ドホール)