ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2006.11.10]
 霊峰富士が冠雪した、という一報が届くと、秋の陽は釣瓶落し、そういう感覚をいっそう強めます。新しい寒気を肌に受けると、柿や林檎の甘味が一段と濃くなっていくのを感じます。三の酉まである今年は、早くも暮れようと準備を始めています。

絢爛華麗の色彩美が美しかった『ライモンダ』

 牧阿佐美の改訂振付・演出による新国立劇場バレエ団のグラズノフ曲『ライモンダ』は、2004年10月の舞台の再演である。しかし、初演時の感動をまったく損なうことなく、さらに鮮烈、心を絢爛と染める素敵な印象を与えてくれた。
振付の牧阿佐美と綿密に連係しつつ、セットと衣裳を創ったルイザ・スピナッテリの仕事は素晴らしい。まず、色彩感覚が見事。美術史的な追究によって行き 着いた色彩の構成だそうだが、それだけで中世の西洋と東洋のコントラストを語り尽くしている。ペルシャンブルーを基調として、紅がかった赤、ダークグリー ンとやや明るいグリーン、ゆで卵の黄身のような黄色、そして白。これらの色のアンサンブルは、イタリアのフレスコ画の微妙な色彩のバランスの印象であり、 ルーペで人間社会を覗いているようなブリューゲルの絵の構成を想わせ、細密な色彩の世界を浮かび上がらせる。その構成自体が奏でるリズムが、『ライモン ダ』の持つ音楽性と共鳴して絶妙な美的快楽を観客にもたらす。

新国立劇場バレエ団『ライモンダ』

第2幕では、アブデラクマンをジャン・ド・ブリエンヌが倒すと、湖の水面に浮かぶ中世の城が蜃気楼のように、はかない立体感を持って幻想的に見えてくる。この作品の世界を象徴する、じつに美しい背景だった。
ザハロワの踊りが描くラインは、以前より、ソフトで柔らかく滑らかになった。一時は、悲壮感を背負っているような印象さえ受けたこともあったが、素晴ら しいバランスの身体で、こうした滑らかな踊りをクラシック・バレエのダンサーとして展開できるようになったことは慶賀すべきである。これからは世界中の人 々に愛される気品を、さらにいっそう深めていってほしい。
02年の『白鳥の湖』以来二度目の登場となるダニラ・コルスンツェフは、長身だが、風貌はかつてのダンスールノーブル、ブフォネスを、瞬間的に想わせるところが私にはあった。ただ、少し武骨さが残っていて、今回はそれが生かされた舞台ではなかったかもしれない。
全体にストーリーの展開がスムーズであり、踊りのシーンにもパワーが感じられる優れた舞台だった。
(10月6日、新国立劇場オペラ劇場)